第四章 大陸の探究少女 23話 ちょっと
本日もよろしくお願いします♪
もう一度騎乗して右手の山裾をグルリ大きく回り込んで行く。
さっきまで居た所から見えていた小高い丘を越えるとその先に大きな河が見えた。
今あたし達が麓に居る山の向こうに見える山、その右手の平地まで流れて来たのが、この丘に阻まれて大きく右に蛇行し、さっきまで進んでいた街道と並行に流れ下って行くようだ。
問題の連山から麓に広がる平地へ流れ落ちる溪水が合流した河みたいだけど平地部分は傾斜がほとんどなくて流れは緩やか。
川の上流は向こうの山の裾野に隠されて見えないけど、ティリオの話だと件の火元の方へ向かっているらしい。
「えぇっとぉ。一番近いのはあの蛇行部分だけど森から遠いわ。少し上流で河に森が迫ってる辺り。あそこで筏を造りましょ」
「おぃおぃ。まさか筏を漕いで河を遡上する気か?」
「まさかねぇ、エノラ。例のスキルで行くのよね」
「あぁ、海賊騒動とクラーケンに使ったあれねぇ。俺達ぁよく見てなかったんだ、まだパーティでもなんでも無かったしな」
「漕がなくていいのは分かったがよぅ。確かに木は腐るほど有るが、繋ぐロープが全然足りないんじゃないか?」
「うん、だからホゾ組みとダボ継ぎを組合せて使おうかなって」
「ホゾ? ダボ? 何それ?!」
「木材に凹凸の組み合わせを削り込んで嵌め合わせるのがホゾ。繋ぐ部分の穴に別のダボ材を突っ込んで引っ付けるのがダボよ」
「それって凄く細かな作業になるんじゃないの? 魔法でするにしても私全然解らないわよ」
「えぇ、ホゾだけだと組合せの形をきっちり整えないと駄目で、それは無理だから。大まかにホゾを刻んでズレ難くしたのにダボ穴を開けてダボ材を突っ込んでやるの」
「まぁ良い。エノラに任せるから指示してくれ。ほとんど魔力の作業みたいだから、俺等は仕上げくらいしか出来なさそうだが」
森と河が近付いてる所まで進んで、作業を始める。
真っ直ぐ20メートル程伸びた杉を選んであたしとマチアで12本を伐り出した。
川岸まで運んで並べた物から男子3人が枝を落として荒皮を剥く。
根元から約15メートルで切り揃えたのが筏の本体。
先っちょ5メートルと大きな枝は横方向の繋ぎ材で、小枝をダボ材に加工する。
細かな刃物作業以外は全部魔力の仕事だけど、戦闘と違って魔薬を使う余裕は充分あるし、魔薬もトスカッタでたっぷり仕入れてあるから大丈夫。
生木の加工だからそのうち反って来るし河に浮かべれば尚更なので、ホゾ切りは組み立てたのがズレない程度の大まかなのにして、あたしが見当を付けてどんどん削ってしまう。
切り込みが終わった本体をマチアが川辺に並べている間に繋ぎ材にもホゾを切る。
2人で本体と繋ぎ材のホゾを組合せて、入り切らないところの微調整はマチアに削ってもらった。
これで15メートル×4メートル程の筏の形になったので、あとはダボを噛ませて固定すればいい。
男子が仕上げたダボ材をマチアに見せて、一回り小さな穴をあたしが指定する場所に開けてもらう。
貫通した穴より太いダボ材をあたしが魔力で強引に押し込めば、その部分の固定は完了。
2人がその作業をする間に男子は剥いた荒皮と落した枝の葉を集めて揉み込み、ぴっちりと並んだ丸太の隙間をそれで埋めて行く。
そのままだと馬の蹄が挟まっちゃうからね。
2時間程で立派な筏が完成して水面に浮かぶ。
こうしてみると本当に魔法の凄さが分かるわ。
魔力がなければ木材の伐り出しだけでも今日1日では終わらなかった筈だもの。
まぁあたしの頭の中で設計が完了してたから遅滞なくこの時間で出来たんだけど。
うん、まだ昼までに時間は充分あるから、試しに少し遡航出来そうね。
「じゃあ皆乗って! 昼までに進める所まで行っちゃうわ」
馬達を2列で中央に並ばせて、あたしが先頭、チャンクとティリオが中央左右でマチアとフィリアスは最後部。
皆の配置が決まったところで空震水流を起動した。
最初は緩やかに、滑らかに動き出したのを確認して徐々に速度を上げて行く。
「うわっはぁ! こりゃあ快適だな」
「成程なぁ。水を切って進むんじゃなくて、自分が起こした水流に乗るのか。これなら遡航と言っても水の抵抗はほとんど関係無いんだろう。周りの景色が見えなけりゃ進んでるのか分からん程スムーズだ」
「まだ火事の様子は見えないわね」
「ここは平地部で行く先の視野は山が塞いでるからな。だがこの調子なら午後には見えて来るんじゃないか」
「でも、その前にどこかで昼餉にしないと。肝心の時に力が出ませんよ」
「ティリオ。延焼部までどのくらいの距離なのか分かる?」
「そうさなぁ、ざっと25キロってとこか」
「河の方向が逸れていなければ1時間程の距離ね。取り敢えず1時間進んでみましょ。それまでに河の向きが変ってたら、そこで止まるから教えてくれない?」
「じゃあ、昼餉は1時間後か。なぁエノラ」
「なに?」
「この水流って止められないよな」
「チョット! 当たり前じゃないの。何考えてんのよぉ」
「怒んなよ、マチア。昼餉の魚を獲るのに網を流したかっただけなんだ」
「なんだ、そんな事? 魔力で魚を引っ掛けるやり方教えたげるから場所換わってもらったら。フィリアスじゃまだ魔力不足だし。大体、【感知】なんて便利なスキルがあるのに使い方間違ってんじゃないの」
漁師でも無いのにスキルを魚獲りに使うのもどうかと思うけど、どこに魚がいるか簡単に分かるのに網を使わないとダメって言うのもかなりピントが甘いのは確かよね。
まぁこれでお昼は久し振りの川魚に決まったみたい。
*
「ふわぁ! 結構燃えてるわねぇ」
「本当ですね。あの山、こっち側の斜面ほとんど燃えてしまって向いの斜面に移りかけてるんじゃないです?」
「あぁ、このまま放っておけば確実に延焼するな」
「山の裏側はどうなってるのかしら」
「あぁ、当然向こう側にも燃え広がってるよ。あの山はもう禿山確定だ」
「で、どうするの?」
「まず、放っておくのか鎮火を目指すのかを決めないと駄目ですね」
「この位なら大丈夫だろうけど、余り広範囲が焼けちまうと逃げた動物達が耕作地や牧地を荒し始める可能性があるな」
「それは避けたいわね」
「じゃ、一応鎮火を目指すのね」
「今からあの山の火を消すのは無理だぜ」
「そう、大雨でも降らなきゃね」
「それなら、出来るのは他の山への延焼を防ぐ事か」
「そうだね」
河を遡航して半時間で立ち上る山火事の煙が見える様になった。
川上の方向が燃えている山へ向いていたのは偶然だろうけど、遡上を始めて1時間足らずで斜面の殆どに炎が燃え広がった山が正面に見える。
斜面全域を燃やす炎を消すのが無理なのは誰の目にも明らかで、あたし達はこれから何が出来るかを話し合っている。
「いっそ、燃え残ってる木を全部切って河に流しちまうか?」
「向い側の山裾も切らないと飛び火があるぞ」
「凄い本数になるけど、魔薬足りるかな。さっきだいぶ使ったよね」
「まだまだ有るけど次の街で買い足さなきゃね。でも伐るのは光刃にすれば魔力の節約になるわよ」
「そっかぁ。忘れるトコだったわ。なんだか魔獣以外に使うのって無意識に場違いな気がしてたのね、きっと」
「あたし達が伐って河辺まで届けるから、3人でどんどん河へ流してちょうだい。下流で問題が起きるかも知れないけど、それはまたその時の事にしちゃいましょ」
2人で光刃の柄を取り出して握ると、あたしのはオレンジ、マチアのはピンクの蛍光を放つ刃が伸びる。
山裾まで並んで飛翔、それぞれ目に付いた一番大きな樹の根元に立ち、膝下の高さで横に光刃を振り抜くと、あたし達の腕じゃ全然回り切らない太い幹がスッパリと両断された。
少し振り下ろし気味だったから切断面は斜めになってる。
その斜め下に当るあたしの方から見た左前方へ断面がずれて行き、グァダァムとずり落ちた後、右の方へゆっくりと倒れて行った。
枝を刈ると薪を作るようなものだから、そのまま移送で河辺目掛けて放り出す。
3人が駆け寄り、大枝を刈って流れに放り込み、最後に幹も河まで転がし入れる。
やっとこれで1本、処理が終わったけだけ。
はぁあぁ、気が遠くなるくらい先は長いのよね。
明日もお待ちしております!




