第四章 大陸の探究少女 21話 終焉.
今日もよろしくお願いします。
確かにあの組織の首領が慌てて逃げ出したのは間違いないようで、色々な資料が証拠として押収された。
その中で決定的だったのは支配下の犯罪集団からの上納の記録で、この集団の犯罪行為を立証できた事が集団全体の違法性確定の有力な証左となった。
そこから次々と摘発が進んで、現場の犯罪集団の構成員とアジトに残っていた者達は全員お縄になったわ。
でも、この集団の首領を指し示す物や外部組織との繋がりを示す様な物は一切発見できなかった。
たぶん、それだけは常に持ち出せるよう徹底していたんでしょうね。
あたしとマチアが驚いたのは、それらの捜査や尋問から罪状確定そして起訴まで全てを探究者ギルドが特別権限として遂行してしまった事。
全く知らなかったんだけど、ギルドの特別権限は役所の処理が始まっていないもしくは停滞している犯罪について捜査と逮捕そして起訴に関する全権を有する物で、役所はそれに関しては司法判断を下す事しか出来ないらしいの。
まぁ最終的にギルドの起訴を無罪判決だ何だって引っ繰り返すのは可能なのだけど、その司法判断の前には全ギルドおよび探究者関連施設から関連資料とその解説が一般公示されるので、余りに実情にそぐわない司法判断も行えないのよね。
まぁそこまではいいとして、問題は逃げ出した首領。
結局『その後の足取りは杳として知れず』でギルドとしては『画竜点睛を欠く』事になった。
実行犯を一網打尽にした事で面目を施しはしたし、起訴資料の記載も首領に関する情報を一部伏せて辻褄が合うように作製された--あたしもチェックしたから間違いない--からギルドの落ち度が問われる事は無いんだけど、あたし達だけじゃなくて、あたし達に捜査を依頼したこの街のギルド長にとっても全くスッキリしない形での終焉となった訳。
どうもイクァドラットを出てからあたし達の周りで起きる事件の後味がよろしくない。
と言っても、それまで文字通り井の中の蛙だったあたしにとって比較する経験が在る訳じゃないから、気のせいって決めつけられても反論のしようは無いんだけどね。
最初の【海賊事件】でも黒幕に繋がるカギを握った船はそそくさと姿を消してしまって、ヒェロゥム・スァンズ氏が官僚権限を駆使しても解明の目途は立たないみたいだし。
ソルサイゾのアルマァジ地区の件も元凶に辿り着くには酷く手間が掛かりそうで。
今回も首領の逃げっぷりの潔さは特筆物……。
どれもこれも、実際の犯罪行為から得る利益よりも真相隠蔽の方を優先している様に思えてならない。
もちろん利益は大事だからそれを疎かにしている訳じゃないけど、最後の最後のところでの優先順位がね。
状況も違法行為の質も全然違うのに何だか底に流れる物に同じ臭いが漂ってる気がする。
じゃあ、それが何だと訊かれても具体的には答えようが無いから困るのよ。
まぁとにかくどれも現場は一段落ついて関係者も大過無く過ごせているのだから、それ以上望むのは贅沢なんでしょ。
そんな消化不良じみたモヤモヤは消えないけれど、それが気になるのは独り考え事をする時くらいで、5人賑やかに過ごす間はそんなの忘れて愉しくやれてる。
ギルドからの起訴の事務手続きも全て完了して、あたし達もやっと解放された。
別に拘束されていた訳じゃなくて念のために街を離れないで欲しいとギルド長に頼まれただけの事だから、あたしが書類の確認をした事以外は魔窟三昧の日々を過ごしていた。
おかげでフィリアスの魔窟鍛錬は順調に段階を進めているし、チャンクとティリオの借金返済も思った以上に早く終わりそうな感じ。
連日カブトやクワガタの魔核を相当数持ち帰るあたしとマチアのギルド預託金はそろそろ個人財産の域を超え始めたので正直彼等の借金なんてどうでもいいんだけど、『お金を溜め込むばかりだと碌な事にならない』って言うのがあたしの持論だから使い道を考えてた。
あの繁華街に近い路地の一画が無人の廃屋ばかりなのが気になってギルドを通して地主に確認してもらうと、元々一番繁華な辺りだったのが質の良くない連中の溜り場が1軒出来てからその周りがどんどん寂れて気がつけば商売が成り立たなくなってしまって、その後の十数年で完全に廃屋ばかりになってしまったらしいわ。
何処ぞの世界みたいに小さな不良物件をまとめてタワマンとかレジャービルに仕立て上げるデベロッパーなんてのはこの世界には居ないから、こうなってしまってはもう手の付け様がない。
街の状況から考えて繁華街の規模は今以上に大きくは出来ないので、昔通りの繁華な町に戻すのはまず無理よね。
『それならもう全部まとめて何か新しい物にするしかないよね』って事で、マチアと相談して一画全部を買い上げる事にした。
流石に繁華街価格とはいかないけれど、現状の相場よりかなり弾んだので売買交渉はとんとん拍子に進んだ。
それで今後何をするかなんだけど、あたしもマチアもここに残る気は毛頭ない。
ギルド長と相談して、ギルド直轄の病院と孤児院、それに幼児教育を兼ねた託児施設を造る事にした。
マチアが理事長、あたしが理事長代理で建設までは全額2人の負担。
2人の下に総事務長を置いて運営資金の管理と報告を担わせる。
それぞれの施設の代表者はギルドが責任をもって任命する。
各施設はギルド長と総事務長と施設代表の合議で運営されるが、理事長もしくは理事長代理の指示がある際はこれを最優先とする。
ここまでを決めて後はギルド長と総事務長に丸投げする事にした。
総事務長は誰かって?
アンスベク・ロムバス。
名前言われても分からないよね。
実はあの時の【小男】なのよ。
彼はあの組織へ人材を送り込む業務を担ってはいたけど、違法行為を行っていた訳ではない旨情状を酌量されて起訴を免れた。
もちろんそれはティリオを中心にしたあたし達の働き掛けがあればこそなのを彼自身よく分かっていたようで、あの時以来連日顔を出すようになったのね。
まぁ仕事が無くなって暇なのがその一番の理由だけど、話してみると性格は悪くないし頭も切れる、何より【管轄】【交渉】と言うとても使い勝手の良い第1第2スキルを持っている事が判明して評価がグンと上がったのよ。
それまではギルドの紹介でどこかに職を見つけてあげる積りだったんだけど、『駄目元でやらせてみるのも面白いかも』ってマチアが言い出してあたしもね。
ギルド長やギルドの紐付きの施設代表と仕事をすれば、悪い方へ目が向く隙も無くなるんじゃないかって。
ギルド長も、よく彼の就任を快く受け入れてくれたなって思う。
まぁ数少ない上級探求者の我儘がこんな風に街の人々のためになる形で収まるのなら、多少の手間や苦労は仕方がないと思ってくれてるんでしょ。
施設の名前は【バクルット記念福祉院】って安直な名前に決めた。
思わず長い滞在になったこの街--トスカッタって呼ばれてるのをつい最近知った--の魔窟で獲った深層魔石の稼ぎのほぼ全部を【記念福祉院】に費やすことになるけれど、ここの魔窟での稼ぎはこの街で使われるのが一番相応しいんだと思う。
ここには ソルサイゾのアルマァジ地区みたいな複雑な事情が無いからその辺りの判断も難しくなかった。
ここの運営が上手く行けばロムバスをソルサイゾへ派遣して同じような施設を造れればなぁと考えたりもしてる。
探究者に出来る事なんて利益環流による市場の活性化ぐらいのものだから、それに福祉や支援が付加できるならあたしとしては言う事なし、マチアも『いいね』をくれてるんだ。
そんなこんなで思わぬ長い滞在になってしまったトスカッタも、ようやく明朝に発つ事になった。
これでツフガ国内の進路に残る魔窟はあと1つだけ。
ツフガ最北の魔窟は小さいらしいから踏破に時間も掛からないし、フィリアスの魔窟鍛錬もトスカッタで十二分に積んでるから無理をする必要もない。
今回みたいな事がなければもう10日もすれば国境を越えてチャンク達の故郷セムリへ入る筈なんだけど……はてさて、どうなることやら。
明日もお待ちしております。




