第四章 大陸の探究少女 20話 時間よとまれ
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流石に事が済むと恥ずかしいのか、あたし達が取り巻き連中も拘束している間に、チャンクは白装束--白いパンツやシャツに頭から顔を覆った白布--をそそくさと取り去って普通の格好に戻っている。
あたし達も普通の格好でいつもの探求衣じゃないのは、これからまだスキンヘッド達のアジトへ乗り込む予定だから。
探求衣じゃなくてもティリオが着けてる様な魔獣皮の部分防着を服の下に着込んでるから全く無防備でもないんだけどね。
「こいつら、ふん縛ったのは良いが。今からの段取りには邪魔だよな。役所に突き出すにしても証拠固めもまだだしなぁ」
「あぁ、それならフィリアスが朝一でギルドに連絡しておいてくれたよな」
「えぇ。ギルド長にこの場所と片付きそうな時刻を伝言しておいたから、そろそろ職員が引き取りに来てくれると思いますよ」
「あぁ、それで慌てて装束を外してたのね。悪かったわね、あんな格好させて」
「チャンク師匠、結構ノリノリだったですよ。時間が無いのに着ける物探し回ってね」
「ノッてた訳じゃねぇよ。集められた奴等はまだ犯罪者じゃ無いから逃がしてやりたいって、エノラが言うから頑張ったんだぞ」
「うん。確かにあれは逃げ出すわぁ。知らなきゃ私だって腰が引けたと思うもの」
「あぁ、怖くが無いが何とも不気味でな。出来れば関わり合いたくないって思わせるならアレはもう大成功だ。平気で向かって行ったこのツルッパケがちょっと偉そうに思えたくらいだからな」
「別に不気味にするつもりは無かったし、端からあの格好を選んだ訳でもないんだ。エノラが幾つか挙げた恰好の中であれしか揃わなかっただけなんだ」
「うん。良かったよ、チャンク。セリフもバッチリだったし、完璧だわ」
「ありがとぅよ。だがそろそろ行かないか? このハゲが戻らないと用心されちまうかも知れないからよ」
「そうね。フィリアス、あなたアジトの場所は知ってるのよね」
「えぇ」
「じゃあ、悪いけど。ギルドの人達が来るまでここで見張りをお願いできる?」
「いいですよ、エノラ先生」
「引き渡し次第追いかけて来てね」
「はぁい」
*
チャンクの案内で向かった先は東南側の街外れで魔窟からは街で一番遠い辺りだ。
昨夜泊った繁華街の外れは街の中心部で、さっきまで居た引き渡し場所はちょど2ヶ所の中間付近に当る。
普通に歩けば2時間近く掛かるけれど駆ければ半時間足らず、その位ならフィリアスでも準備運動代わりよ。
「ここだ。昨日書付を持って来た若いのが戻るのを見届けたから間違いない。それに……なぁ、ティリオ」
「あぁ、居る居る。昨日の路地や今朝の奴等とは比べものにならんイキのいいのがゴロゴロな」
「そうだろう。まぁ、警戒する程の力は感じないが、フィリアスに近い位のは結構居そうだな」
「へぇ、そんなのも判るんだね」
「俺等のは鑑定じゃ無いから詳しいトコは空っきしだがな。ざっくりこの程度って感じは分かるし、反応も早い。但し状況にもよるが、上下1から2割の誤差は見込まにゃならんってこった」
「それと魔力も無い、動いてもいない様な物体は分かり辛い。だから金庫の中身を調べろとかは言わないでくれ」
「やっぱりね。ソルサイゾで書類探しした時ふと思ったわ。こういうのは苦手なんだろうなって」
「あぁ、正解だ」
「フィリアスに近いのが居るなら、用事を頼んで良かったね」
「おぉ、あいつが着くまでに目ぼしいのは片付けとかなきゃいかんね」
「片を付けるのは簡単だけど、証拠は出るのかしら。空振りで反省文100回とかは嫌よねぇ」
「さぁ、どうかしら。ギルド長も確信がないからあたし達に頼んだんでしょ」
「そうだ。昨日俺がここの窓口部署で10人近いゴロツキから襲撃を受けたんで、その報復……じゃなくてぇ反省を促しにパーティ全員で本部にやって来た。そしたら思わぬ抵抗に遇ったから制圧する事になる訳だ」
「その筋書きならやり過ぎを咎められる程度、探究者特権で無罪放免。精々マチアが嫌がった反省文をギルドを通じて役所に見せる程度で事は収まるのよね。役所だって同じ事が出来るならしたいでしょうけど、如何せん戦力が違い過ぎて同じ事を出来る人材が居ない」
「そう言うこったな。後は偶然証拠が見つかる事を期待するしかないぜ」
「それにしても鬱陶しい組織よね。スキンヘッドが言ったように、最初は慈善行為や何気無い行動に見せかけて実行犯を取り込んで行くのよね」
「そうだ。知らない内に犯罪の一端を担ってしまった事に気付いた時はもう遅い。それをネタにどんどん本格的な犯罪行為に取り込まれて行く。そうして出来上がった犯罪チームは本体から切り離して何らかの取引関係を装って利益を上納させる訳だ」
「本体にはちょっとした罪しか犯していない者しか残らないから、組織ごとの検挙は今まで出来なかった。と言うか、本体がどこにあってどんな組織なのかもはっきり攫めていなかったらしいじゃない」
「そんな話だったよな。さぁ、そろそろ行くか」
「了解」「オッケィ」「よっしゃぁ!」
*
街外れで農地や荒れ地が多くなり家屋は疎らにしか見られない。
様式もそれぞれ異なり大きさも千差万別で、目的の家は粗削りな石造りの無骨の2文字が良く似合う建屋だ。
石造りと言っても磨き上げた石を擦り合わせた訳ではなく、適当に同じ位の大きさの石を積み上げた隙間を漆喰で埋めた壁の上に板葺き屋根が載った平屋だが、土地が広いだけあってあからさまに増築を重ねた部分も含めてかなりの大きさだ。
敷地を低い板柵が囲っているが、奥の畑地との境界は小川の様だ。
積み上げた石の色は当然グレイが基調だが青味から赤味迄バラツキは雑多で、計算では出せない趣きを感じる人もいるかも知れない。
道脇の柵門から玄関までのアプローチも石畳でそれなりの統一感は意識されているらしい。
あたし達は断わりなくアプローチを進み、チャンクが玄関の分厚い戸板をノックした。
「おぉぉい、誰か居ないかぁ?」
分厚い戸板には覗き穴が切り込まれていて、内側にある目隠し板を上げて外が確認出来る様になっている。
返事は無いが、その板が動いたので人が居るのは間違いない。
覗いた当人かどうかは分からないが、誰かが奥へ駈け込んで行く足音が聞えた。
責任者の所へ報告に行ったのだろうが、早めに反応が欲しい。
返事がどちらにしろ中へ入るのは確定で、開かれた扉から入るか、壊れた戸板を跨いで行くかの違いなのだから。
しばらくすると覗き穴から『誰だ? お前等』と声が掛かる。
『昨日、お前トコの者が悪さしたんでな。詫びを入れて貰おうとわざわざこんな辺鄙な所まで足を運んだ奇特な4人組だ。開けてくれないなら扉が壊れて無くなるが、構わないか?』とティリオがドスを効かした言葉を投げると
『昨日だぁ? 昨日ウチの者は全員ココに居たぞ。お門違いの因縁付けてねぇでとっとと帰りな』
『お前等の傘下はココだけじゃ無ぇだろうがぁ! 表に出した悪党共も居りゃあ、来る予定のゴロツキも全部ココの責任だって俺等が決めたんだよ。ウダウダ言ってねえで、さっさと開けて頭下げやがれ!』ティリオの声音が聞いた事も無い迫力で戸板を震わせる。
中がざわつき、少し焦った声色が『お前等、何者だ? どこまで知ってやがる』
『だぁらぁ、全部知ってんだって言ってんだろうがぁ! もう知らねぇぞ。この家、建屋ごと全壊させてやるから覚悟しな!』『おい、こら、待て!』『待たねぇよ! そうりゃあ!!』
チャンクと息を合わせた2人の前蹴りで分厚い戸板が奥に向けてすっ飛ばされた。
扉の向こうに居た連中は当然巻き添えを喰らい、全員戸板の下敷きで苦痛か焦り2つに1つの表情を顕わにしている。
『何だかまだ狭くないかい?』と気楽な声のマチアに合わせて玄関の両脇にそれぞれ、剛撃を打ち込むと、重々しい石組が呆気なく崩れ去り、上の板屋根が傾いだ。
斂爆だと部屋ごと消し飛ぶから、これでも遠慮してるんだけど、きっと分からないよね。
焦りの表情だった者の顔色が絶望に変るのに瞬きの必要も無かった。
「それでぇ、ここの責任者はどこに居るんだぁ?」
「は、はい。いつもは奥の部屋に居るんですが、だいぶ前に馬で出たまま戻らないんで」
「逃げやがったかぁ。酷く用心深いな」
「多分あのスキンヘッドにも監視が付いてたんだね。何か特殊な連絡法でもあるんだろうか」
「特殊も何も。馬潰す気で走らせりゃ、あっと言う間だよ」
「駄目だぁ。【探査】にも引っ掛からん。おいこら、そいつは何か持って出たのか?」
「いいえ。ほとんど身一つだったような」
「それなら、何がしかの証拠は残ってるだろう。まぁ決定的なのは持ってったか処分したろうが、今回は残りもんで満足するしかないな」
「そうだね。こんな時、時間よ止まれとか、戻れって思ったりするよね」
「あぁ、時操系じゃあほとんど一瞬しか操れんからなぁ」
「「うん」」
明日もよろしくお願いします。




