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第一章 商都の孤児少女  12話 飢えを悔いて暴こう

今日もよろしくお願いいたします。

「発端は当家令嬢メルノア様の小間使いが先日の祭りの場で要らぬ中傷を受けた事でした。理由は彼女が孤児院の出身者だったからです。彼女から事情を聴いたメルノア様は初めてそこで孤児院での子供達の生活に触れられたのです。皆様もそうかと存じますが、良家の皆様はかような末端の事情に通じて居られないのが通常でございます。また、我等使用人も孤児院の者の素行の悪さに眉を顰める事はあっても、その内情まで突き詰めようと考える者はございません」


 カザムさんが一息つくとこのあたりの店のあるじと思われる人たちがうんうんとうなずいた。


「事情を聞かれたメルノア様は直ぐに疑問を抱かれました。小間使いの話では孤児院の子供達は常に食うや食わずで露命を繋ぐのが精一杯なのですが、どう考えてもそんな筈が無かったからです。お取引のある皆様はご存じですがメルノア様は非常に数字に敏い方でして、このナムパヤの予算も全て頭の中に入れておられます。その中でこの孤児院に割り当てられた孤児一人当たりの予算は、贅沢は出来ないとしても質素に生きるには充分な額だったのです。予算はあるのに食べ物が無い、これは実に不思議です。その金は一体どこに消えたのでしょう。そこでお嬢様はわたくしに調査を命じられました、と申しましてもそう大袈裟な物ではございません。皆様に書面をお届けした後確認に伺った内容がそれでございます」


 またもや人々が大きくうなずく。


「この町の食料品を取り扱うおたなとは全てお取引がございますので、皆様にお願いして孤児院の購入量と金額を逐一控えさせていただきました。その結果ですが、ごく一部の贅沢品を除けば、購入量も支払金額もまったく予算に見合わない僅かな物だったのです。量が少ないだけでなく、わざわざ売れ残りの物を買い叩いた記録さえありました」


 ふたたび深いうなずきがくり返される。


「その購入量はまさにお嬢様の小間使いが話した内容に合致いたします。では、その差額はどこに消えたのでしょう。その一部はどうやら先程申し上げた贅沢品に回っているのではないかとその明細を見ますと、なんと小間使いがここで食べた事が無いような高価な肉や嗜好品、それに子供が飲む筈が無い酒でした。子供の口に入らない物が、子供達の食費と同じ費用で支払われていたのです」


 院長と先生たちは何か言いたいようだけど、声にならないまま顔から血の気がひいていくのがわかった。


「では、その贅沢品は誰の口に入ったのでしょうか。孤児院にはもちろん大人もいます。そこに居られる3名様以外にも賄い方や雑用係等数名が働いておられますが、こちらの3名以外は全て半日業務の通い雇用で院内での食事の機会がありません。つまり、子供の予算で買った贅沢品を食べるのはこの3人以外にはあり得ないのです! ところで、私共の中で院長他3名による予算の流用疑惑は確定しましたが、消えた予算はその食品だけでは到底足りません。だが、それを調べるのは我々の権限だけでは難しい。そうですよね」


 話をきく店主たちの顔がドンドンけわしくなり『そうだ、そうだ』と声が上がった。


「そこで私共は役所の事情に精通しておられる資格修士のタリアン様に事情をお知らせして、役所から調査の手を入れていただけるよう根回しをお願いしました。タリアン様、そちらが役所から来ていただいた方々で間違いございませんでしょうか」

「はい。間違いありません。お話しましたところ、快く引き受けていただけました」


『いやいや、よく言いますね』と口には出せません。

たしかに資格修士は各官庁のしくみやじじょうにはくわしいけれど、何のケンゲンも無い資格修士の言葉で役所がうごくわけがない。

このあたりが朝がたのお嬢さまとタリアンさんのヒソヒソ話の中身でね。

役所のきゅうしょがダレでどのようにつけば動かせるかをタリアンさんがお嬢さまに教えて、バクルットがその力とお金をチラつかせることでタリアンさんの話が通るように根回しをすませておいたからできたのよ。

ただ、お嬢さまがそれをいつダレに言ったかが分かんないだけど、今思えばたぶんパフェの事であたしがぼうっとしているかえり道の間にお供のどちらかに言ったんでしょうね。

それがカザムさんにつたわって、そっちの手はずもととのった。

今日は見習いくんもよくやったけど、奉公にあがったり使用人になって一番だいじなのは言われたことをちゃんと伝えたりやったりする事で、それができないとバクルットみたいな大だなでは使ってもらえない。

もちろん相手ができるかを見きわめるのは上の人のシゴトなんだけどね。


 話をもどすと、カザムさんの話を聞いたこの場の人達みんながなっとくしてくれた。

『こうなった以上、中を調べさせてもらわんとなぁ、院長さん』と年かさの店主さんがつめ寄ると、『いやぁ、それは……』と弱々しく逆らおうとしても数の力に勝てるわけもない。

役所の2人を頭にしてみんなが孤児院へなだれ込み、あたしもさいごについて入った。

すみからすみまで知ってるけれど久しぶりの孤児院は『こんなに汚かったんだ』とバクルットでの生活になれた目にはひどくうす汚れて見える。

フケツと言うわけじゃないけど、古ぼけてそこら中が傷んだままなのでその分汚く見えてしまう。

そのままいきおいで押しすすむとその先にはとうぜん多くの子供たちがいる。

ボロをまとってやせこけた子たちが部屋のスミからギラギラと【こわさ】と【にくしみ】がこもった目で【しんにゅうしゃ】を見つめている。


『あぁぁ、ごめんね』今この時まで彼らのことを忘れていた自分を思い知らされて、あたしの心はぎゅっとしぼられるように痛んだ。

ほとんどが知った顔、【かわった子】だったあたしはダレとも仲よくなかったけれど、それでも知らない仲じゃない。

メルノアさまの小間使いになった自分の幸せにまい上がっていた。

お祭りで『孤児』よばわりで追いかけられた時も、お嬢さまに話をきかれた時も、孤児院のことは考えても、この子たちのことは思いださなかった。

まだメルノアさまにそんなお願いはできないし、ましてや自分にそんな力はないけれど、それでもいっしょにくらした子らのことを思いだすことはできたはずなのに。

今までの自分と同じ【飢え】にくるしむ子らを思いだすのが、つらくて、かなしくて、そしてメンドウだった!

この『メンドウ』があたしのいだ。

これはもう忘れちゃダメ、『ごめんね』と『メンドウ』を心にきざもう。


 あたし以外の人が子供たちを見てどう思ったかはわからない。

『かわいそう』とか『ひどい』とか、もしかすると『きたない』なんて思ったかもしれないけど、彼らの目的は子供じゃなくて院長たちのアクギョウだから子らのことはかまわずに進んでいく。

院長室にカギがかかっているのを『開けるんだ!』とつよきな店主たちに院長は逆らえない。

あたしも初めての院長室に入ってビックリした。

どこもかしこも古ぼけてキズだらけの孤児院の中、ここだけは別世界だった。

ゼイタクな材をおしみなく使ってみごとに作りこまれた部屋に、おどろくほど高そうな家具がならんでいる。

ガラス戸のタナにはキレイなグラスと酒ビンがならべられ、とてもビンボウ孤児院のひと部屋とは思えない。

棚をあさっていた役人が家の【権利書】らしい書きつけを見つけだしたので、お嬢さまがお供の2人を見に行かせた。

家の住所は少しはなれた町だったけれど馬車で急いだようで、孤児院内のしらべが終わるまでに戻った彼らはカザムさんに耳うちをした。


「まさか家を買って妾まで住まわせていたとはね」

「先代の院長から引き継いで20年以上です。当初から着服していたようですが、次第に額が大きくなり5年程で子供が死なないギリギリを見極めてからはやりたい放題だったようですからね」

「お嬢さま、孤児院はどうなるのでしょう」

「元々予算は適正なのだから、真面目な者が管理すれば餓える子は居なくなるわよ。きちんと育てられた子が大きくなれば孤児への評価も変わるでしょうけど、これまでの子達はどうしようもないわね。私達の商売も慈善事業じゃないから捻くれて育った者まで面倒を見る事はできない。それと関係者がどう処分されるかも役所次第。多分袖の下とかで着服を見逃した輩がいるはずだけど、タリアンが動き易いようにその辺りは見逃すようにするしかなかったから。これまでの事や役所の問題は私達の手に余るし、今後官庁がどうして行くかを見守るしかないわね。タリアンが彼等の上に立つのはずっと先のことだもの」


 そう、これからが変わるだけでもすごいことなんだからよしとしないとね。

これまでのことで泣いた人も多いだろうけど、今はまだ涙をこぼさないようにこらえる事しかできないんだ。

明日もお付き合いいただければ幸いです。

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