第四章 大陸の探究少女 18話 あまい生活
申し訳ございません。
投降順序を間違えたので、18話を取り消して再投稿いたしました。
案内された部屋はやっぱり黴臭くて眠る気になれないので清浄をかけた。
すっきりした空気を胸一杯に吸い込み、ベッドに腰を下ろして考える。
『さて、このまま成り行き任せでいいんだろうか。潜り込んだは良いが、ここは完全に末端の求人窓口で本体との繋がりはあの小男だけ。それも多分直接じゃないんだろうなぁ。実力がどうのこうのとか言わずにそのまま送り込んでくれれば良かったのか? しかしあの連中の様子だと、何も知らされずに使い捨てされるのが落ちだろう。やっぱり小男の線を手繰るしかないのか』
どちらにしても今出来る事は何もない。
あとは寝るだけだ。
*
そのままベッドに横になって寝入ってしまったが、突然湧き立つ騒然たる物音に叩き起こされた。
何事かと慌てて起き上がり部屋を出ると、騒ぎはやはり玄関先らしい。
様子が分からない事には対処のしようがない。
玄関には向かわず2階への階段を駆け上がって正面側の部屋に駆け込んだ。
窓を開けて下を覗くと暗がりで小さな影が2つ『キャハハハ』と嬌声を撒き散らしながら跳び回り、その足元には幾人もの男が倒れているのが見える。
『なるほど、そう来たか』と苦笑いを噛み潰して『ふぅぅぅ』と息を整えてゆっくりと階下へ向かった。
「アハハハ! アンタ等の手駒はこれだけかい。もうお終いなら観念して降参しな。この街はね、今からこの白薔薇団が仕切らせてもらうよ」
「…………」
「ちょぉっと待った! こりゃ何の騒ぎだ? 悪いが酔って寝てたもんであらましを教えてくんないか?」
彼が玄関先に出ると若い女が小男に最後通告らしき科白を投げ掛けたところだった。
女2人組が夜の静寂を抜けて襲って来たらしく、小男の手下と旧宿屋の連中は揃って伸されてしまったらしい。
彼を呼びに行く暇も無い程の僅かな間の出来事だったのだろう。
「あぁぁぁ、いい所に来てくれましたね。突然の襲撃で何が何かも分からんうちにこの有様でね。ここは人集めの窓口だけだから襲っても何にもならないって言ってるのに聞いてくれないんですよ」
「あぁ、成程。あんた等の上のここらを牛耳ってる組織の根城と勘違いされたんだな」
「はぁ、そうみたいで」
「わかった。俺が話してみるわ」
「お願いします」
一応小男がここの責任者なのは理解されているようで、争う意思がない小男には交渉相手として手出ししていないのだろう。
彼は両手を上げて小男の横から前へ歩み出した。
「お嬢さん達、ちょっといいかな」
「何よ! アンタもやる気……じゃないみたいね」
「あぁ、この通り手を上げてるだろ」
「ふん、それで?」
「ここは確かにある組織と関係があるんだがね。あの男が言った通り、人集めのための窓口業務を任されてるだけで組織の本体とは全く繋がりが無いんだ。だからここを潰したところで組織の方は痛くも痒くもなくて、精々馬鹿を集めるのが少し遅くなる程度の面倒を感じさせるだけだよ。ここで争ってもお互い良い事は1つも無い。だからなぁ、ここは大人しく手を引いてくれないか」
「今頃出てきたのはそんな御託を並べるためかい? ここに大した意味が無くても、その男がどっかで大元と繋がってんのは違いないんだろ? そしたら、そいつを踏ん縛って叩いたら埃くらいは出るんじゃないの」
「そうだな。だが、細かい埃を調べる手間を掛けるより、もっといいやり方があると思わないか?」
「ふん? どんな手よ」
「そこらに転がってる連中の代わりに、あの男に上納して貰うんだ。まぁそれも末端の奴等だろうが、あの男よりは余程大元に近いだろ」
「へぇ、面白そうだね。でも駄目だよ。大体初めて会ったアンタの事を信じるなんて甘チャン、どこに居るのさ。それに、アンタを信じたとしたって、そいつが黙って言う事を聞くなんて思えないからね」
「いや、あの男はそうせざるを得ないのさ。組織の末端とも言えない尻尾の切れ端があんた等みたいな敵対勢力にどうこうされても守ってくれる筈もないからな。今の状況だとあんた等の言う事を聞かざるを得ない。そしてあんた等を連れて行った段階であの男は完全な裏切り者だ。問題はあんた等に組織を打っ潰さないまでも圧倒して、あの男を守る力があるかどうかだけだよ」
「アイツはアンタがアタイ等を倒すか追い払うのを期待してるみたいだけどね」
「俺はついさっきここに来たばかりでな。そこまでする義理はないよ。一応こうやって交渉するだけで充分義理は果たしたことになるだろ」
「アイツの事はそれでいいとしてさ。アンタはどうなんだよ」
「俺か? 俺はどうしたらいい? 正直ここに来たのは手持ちの金が切れそうだからで、それさえ解決するなら受け取る相手は誰でもいいんだ」
「ふふ。解り易くていいね。じゃあ即金で金貨100。一段落着いたら400でどう?」
「ほぉ、そうかい。話が早いのは嫌いじゃないぜ。おーい、聞いたか? 今から俺は彼女等の方につかせてもらう。あんたはどうする?」
取り立てて大きな声の会話ではないがほんの数メートルの距離だ。
夜の静寂に小男の耳へ届かない訳が無い。
「はいはい、聞こえてますよ。ソッチでそこまで話が進んじゃ、コッチとしてはどうしようもない。丁度あと二三人で今回のノルマに成るんで辻褄は合うんだ。その代わりお嬢さんたちは男の子の格好じゃないとマズいですがね。ヤツラはさっきも今もコテンパなんで、御三方が揃ってたらぐうの音も漏らさずに大人しくしてるでしょうよ。だが、コッチはもう観念してるんで好きなようにして貰って構わないですがね、出来ればコッチへ火の粉が飛ばない様にお願いしますよ」
「ふん。火の粉どころか煙も立てないぐらい徹底的にやってやるから安心しなさい。それより、そうと決まればアタイ達もここに泊まんなきゃね。部屋の用意はできるかい?」
「今の並びで良けりゃ直ぐに入ってもらえますが」
「あぁ、それでいいわ」
「黴臭いから清浄の全掛けが要るぜ」
「あらそう? 魔法は得意だから気にしないでいいわ」
魔法が得意と言うだけあって路地に倒れている連中に軽い治癒を掛けて回り出した。
全治はしないだろうが動けない者は居なくなりそうだ。
*
「おぉ、今度はちゃんとノルマ通り10人いるじゃないか。だぁが、えらく小さいのが2人混じってるが、大丈夫なのか」
「はい、少し魔法が使えるんで強さは他のと似たようなもんです」
「そうか、それなら構わんが。おいこら、手前等。うだうだしてんじゃねぇ! 一日金貨1枚も払うんだ、役に立たなきゃ袋にされるのは覚悟しとけよ」
「それじゃコッチは引き揚げますんで、あとはお任せします」
「おう! 次も頼むぜ」
「はいはい、ではこれで」
緊張の素振りも見せないのは『大した肝の座り方だな』と少し感心しながら去って行くのを眺めていると、小男から引継ぎを受けたスキンヘッドの大男が近寄って来るのを感じる。
蹴りが来るのも分かったが効きそうにもないので放っておくと、彼の尻に派手でな音を立てて脛が当たった。
『わぃってぇ!』と大袈裟につんのめる振りをすると『うだうだすんなって言ったろうが!』とご満悦の台詞が飛ぶ。
『勘弁して下さいよ』と情けない声で尻を擦ると『気ぃ抜くんじゃねぇ、馬鹿野郎が!』とドヤ顔に輪か掛かった。
『済みゃせんした! ところで俺たちゃこれから一体何をするんですかい』
『心配すんな、簡単な事よ。慣れた奴について歩いたり、頼まれた物を預かったり、喧嘩の仲裁や助太刀をしたり、弱ったり酔っ払った奴を介抱したり、困ってる年寄りに伝言を届けたりするだけよ』
『へぇえ、そんな事で金貨を毎日貰えるなんてまるで夢みたいじゃねぇっすか』
『そうだろう。夢の仕事だからよ、ちゃんとしねぇとダメだろうが。あぁぁん!?』
なんて、そんな甘い生活が続く訳がないんだけどな。
明日よろしくお願いいたします。




