第四章 大陸の探究少女 17話 つたわりますか?
誠に申し訳ございません。
昨日この17話をとばして18話を投稿してしまいました。
「やっぱりそうだよなぁ。言葉で『伝わりますか?』なんて訊くのは野暮かぁ。男は拳で語り合わなきゃ納得出来んよな。いや、この場合は拳じゃなくて得物なのかな?」
確かに小男の言った通り全員ガタイは立派だがそれ以外に見るべき物が無い。
ナイフ投げも--探知系スキルが無くても--探究者に致命傷を負わせるには速度が足りないし、大鉈の男は明らかに膂力不足だ。
まず誰にも正式な武技の鍛錬の跡が見えないし、それを補う才能も努力も感じられない。
いや、おそらく人並以上の才能と努力はしてきたのかも知れないが、対人戦に特化したスキルでも持っていない限り、人並以上では全然足りないのだ。
その点この世は大いに不公平だ。
管理側面から人の上に立てるスキルを持つと同時に、魔術と武技を習得する才能と、努力を成果に繋げてくれる指導者、その全てを手にする者もいる。
解り易い【膂力】のスキルを勘違いして全く才能の無い武技に取り組んで時間を無駄にする者もいる。
しかもスキルにも差があり、同じ【鑑定】でもスキルに掛けられる対象と読み取れる内容に違いがあって、最終的に得る成果が大きく変ってしまう。
もっとも単純な【膂力】でも筋肉量と骨格に対して出せる力に差が有るだけでなく、速度を犠牲する物しない物があるし、速度に対する努力の成果が全く望めない場合まである。
もしそうなら巨大で頑丈な盾と長柄の重ハンマーでも選ぶしか成果は望めないが、魔獣の速さに付いていけないからほぼ護衛者止まりで探究者としては人並以下にしか成れない。
まぁ才能はスキルほど明確じゃ無くて見間違え読み間違えがあるから努力すればある程度の確率で報われる事もあるのだけど、見極めを付けられずにズルズルと続けてしまう例が後を絶たない。
一番厄介なのは周りに判断や指摘ができる者が居らずに凡庸なスキルを才能の開花と勘違いして無駄な努力を続ける事で、そうした失敗の結果が往々にしてここに居るような奴等である事が多いのだ。
スキルは成長しない。
ごく稀にどこかの誰かのようにスキルの要素がランダムに発現する為、成長している様に見える場合もあるが、それは発現に解明や理解が必要な特殊なスキルなだけで、決して成長している訳では無い。
『こういうのはちゃんと教育する制度が必要だよな』
こうした可哀想な輩を見る度に彼はこれまで考えてきた事を思い起こす。
あぁ決して、今こんなに長々と考えている訳ではない。
平凡で単純な攻撃だが5人の矢継ぎ早を捌くのに、流石の彼も長々と物思いに耽る暇は無いのだ。
どうやらここまでの様子からして、普段互いにいがみ合ってる割に外部干渉に対しての反応だけは結束が固いようだ。
扉を閉めて数歩前に出た彼を取り囲む様にじりじりと間合いを詰めて来る。
彼から見て右端が投げナイフ、左へ順に大鉈、長剣、ファイティングナイフ、分銅鎖。
分銅鎖は隠し武器用の物ではなくて分銅は大振りで鎖も長く、ファイティングナイフも刃渡り30センチを超える、どちらも殺害目的の実戦仕様だ。
彼は左手の甲に目をやる。
衣服に隠れて目立たないが両上腕と両膝下そして腹から胸にかけては大型魔獣防具を付けていて並みの刃物は通らないし、衝撃もある程度は吸収してくれる。
それが覗き見えるのが手の甲半分まで伸びた部分だ。
投げナイフの男が胸元で交差した両手にナイフを構え、これ見よがしに投擲のタイミングを計って見せている。
これだけ人数が居れば、どれが牽制か判断に悩むところだ。
大鉈や長剣もその気になれば投げるのは容易い。
大鉈なぞ膂力に合わないのは本来の武器を隠し持つカムフラージュかも知れない。
等と思っていると、下手に構えたファイティングナイフが鞭を振る様な仕草で飛ばされて来た。
上半身を左にスウェイしてそれを避けた所へ分銅鎖が重い風切り音を伴って迫り来る。
平らな分銅の底に押し裂かれた空気がまるで目に映るようだ。
鎖の長さを見切ってステップバック、伸びきった鎖を左上腕に絡め取ってグイっと引いてやると、投げ出しの態勢で前のめりの身体がつんのめってまるで押さえが効かない。
そこへ飛来する投げナイフ。
上腕の魔獣皮がバレない様に鎖を巻いた左腕で同時2本を叩き落とした。
落ちるナイフを靴先の払いで蹴り飛ばすと長剣を上段から振り下ろして飛びかかる男の両肩口へと舞い上がった。
大胸筋の両脇にナイフが突き立ち男が苦悶の表情で崩れ落ちた陰から2本の矢が迫る。
左奥のカウンターにボウガン、正面右の大柱の後ろに短弓を持つ相手が隠れていた。
最初から【探査】で知っていたので用心は怠っていない。
蹴りの間に巻きを解した鎖をブルン廻して2本を弾き飛ばす。
そのまま分銅を持ち主の額の鉢巻に命中させると昏倒して引っ繰り返った。
飛んで来る投げナイフを見切って左右の指先で捕らえ、カウンターと柱の方へゆっくりと放り投げる。
右下から大鉈を振り上げながら駆け寄る男は得物の重みで動きが鈍い。
その僅かな重鈍さにつけ込んで踏み込み、大鉈の内側へ潜り込んで鳩尾に肘を減り込ませた。
【探査】で捕らえていた放物線を描く投げナイフをなけなしの魔力で加速方向転換、物陰に隠れた男達に致命傷にならない速さで突き立てる。
転げ落ちた大鉈の柄が宙にある内に掴んで回転、鉈の峰が2本目のファイティングナイフで迫る男の脇腹を打って、ダゥっと転倒させた勢いで振り上げ、そのまま跳び上がる。
振り下ろした鉈は投げナイフの男の鼻先を掠める。
仰け反って逃げた男が突いた尻もちの股間ギリギリに大鉈がグァズァっと床に深く突き刺さった。
「どうだぁ。満足したか? 足りなきゃまだ相手してやってもいいんだが。やる気は? ふぅむ。どうやら無理そうだなぁ」
彼が見渡すフロアにへたり込んだ男達は直ぐには動けそうにないようだ。
どれも致命傷には程遠いがやられ方が余りに圧倒的で身体よりは気力の問題の方が大きそうだ。
投げナイフの男なぞ。傷一つ負っていないが、突き立った大鉈と自分の股間と何度も視線を往復させるだけでは気が済まず、股を掌で触れて無事を確かめているらしい。
いやもしかすると粗相をしていないか思わず確認したのかも知れない。
「よぅし、いいか。良く聞くんだぞ。今日傷を負った奴はあとで治癒系の魔薬をやるから今はそのまま我慢するんだ」
強さが基準と言うにはお粗末だが、彼等の価値観としては間違いないところだろう。
今まで似たり寄ったり団栗の背比べでいざこざが絶えなかったのが、絶対強者の出現でこれまで通りに行かない事は誰の目にも明らかだ。
「うむ。お前達がどんな話でここに居るかは知らんが。俺が聴いたところでは、ここは一時的な待機場所で人数が揃うのを待っているらしい。ここの責任者はお前等がここを出た後、何をするかも良く知らないそうだ。ただ、お前らを集めて必要な所に送り込むのが仕事だから、その前に互いの潰し合いで人が減ったり怪我で働けないのは非常に困るんだと。なので、今からしばらくの間は喧嘩・諍いはいっさい禁止だ。なぁに、引継ぎまでのほんの短い期間だ。もし我慢出来なきゃ俺が相手してやるから言って来な。まぁ、今ので懲りてなきゃだがな」
皆の目は彼を見ているが押し黙ったまま返事が無いので、分かっているのかどうか。
この世界には言語は1つしかない--残っていない?--ので、通じていない訳は無い。
「はいはい、いい大人がダンマリかよ。よし、俺の話が分かった奴は右手を上げるか、それとも頷くだけでも良い。どうだ、分かったのか!」
不承不承で右手が上がり、腕を負傷した者が頷いて見せる。
「よしよし、いい子だ。じゃあ、これが魔薬だ。俺が付けた傷以外も全部治しちまえ。また様子を見に来るから、大人しくしてんだぞ! いいな!」
今日のところはこんなもんだろうと路地に出ると小男が待ち構えていたように声を掛けてきた。
「いやぁ、想像以上のお手並みでした。しかしあんな奴等に魔薬をやって良かったんですかい?」
「前のヤマで貰った残りだ。俺の腹が痛む訳じゃない」
「太っ腹ですねぇ。それじゃあ、寝床の準備が出来たんで案内しますよ」
「ありがとょ」
大失態ですが、何卒ご容赦の程よろしくお願いいたします。




