第四章 大陸の探究少女 15話 わすれない
今日もお読みいただきありがとうございます。
「いやぁ。ギルドの連中の驚いた顔ったらなかったよなぁ」
「もう。何度同じ話してるのよ。3日も前の事なのよ」
「未だに俺も信じられん。お前さん等が最深部まで行ったって中層に出てきた時の驚きはなぁ」
「口で言っても誰も信じないかも知れないけど、どこまで行って何を倒したかはライセンス証に記録されるから誤魔化しようがないんだからね」
「誰かが到達すればパーティの実績になるのは確かめてあったから。アルマージの最短到達記録は当分残る筈よ」
「当分じゃないよ。あれはずっと残る大記録さ」
「でもこれから行く先々でどんどん記録を作れば珍しくも無くなっちゃうだろうけどね」
「でよ。次の魔窟じゃ、どんな記録を狙うんだ?」
行く先々とは言ったけれど、ツフガで行く魔窟はあと2つだけだ。
明日には着く街の東にあるけっこう大きな魔窟、そしてその北東へ騎乗4日分の距離に在る小振りな魔窟。
この前の魔窟で最終日に【日帰り初制覇】を達成したけれど、次の魔窟は大きいらしいから端から日帰りは諦めることになりそう。
男3人の興味の対象は私達がその代わりに何をするのかなのよ。
あの魔窟でも初めは何も決めていなかったし、そんなの実際にどんな魔窟かを確かめないと分かる筈もないのにね。
同じパーティメンバーが野次馬根性の急先鋒って何だか情けないものを感じる。
実際あたし達があの魔窟で作った記録はそれ以外に主な物だけで
①最深部最短到達時間【パーティ】、7時間48分
②最深部最短帰着時間【パーティ】、5時間9分
③最年少制覇【個人】エノラ・バクルット、12歳3ヶ月(ほんとはもっと下)
④最年少制覇【パーティ】、平均15歳5ヶ月
⑤最強魔核取得数【パーティ】、119個
⑥時間当たり平均戦闘回数【パーティ】、25.5回/時
⑦時間当たり平均討伐個体数【パーティ】、83.3体/時
⑧初回制覇メンバー負傷数【パーティ】、0人
⑨初回制覇遂行メンバー数【パーティ】、5人(タイ記録)
なんて、細かい物まで入れると枚挙に暇がないって感じね。
ちなみに帰着時間の5時間9分だけど、あたしとマチアが深層を出て3人と合流してからはほとんど小走りに駆け通しだった。
そうでもしないと街に戻った頃には夕餉を食べる店も開いてないもの。
もう大型魔獣以下は相手にもせずに突っかかってくる奴だけを切り捨て御免。
魔核なんて拾う暇もないけど、皆の背嚢は深いトコの魔核でほぼ満杯だったからそれはそれで問題も無かったし。
4人に囲まれてたとは言え、あのペースについて来たフィリアスも大したものよね。
最後にあたしの年齢詐称はご存じの通りで、この記録が訂正される事は無いと思うわ。
*
「どうだ? ソルサイゾのギルドからは連絡が入っていたかい」
「えぇ、定時連絡みたいなものね。今のところ順調で問題は無いって」
「そりゃ何より。まぁまだ一月経たないんだ。こんなとこで躓いてちゃあ、どうにもならんがねぇ」
街に着いて昼間狩った魔獣を売り、宿を取って、ギルドにライセンスの提示を済ませてソルサイゾからの連絡を受け取ったばかりのところ。
このままギルドを出て外か宿でか、どちらにしろ夕餉の頃合いだ。
話しながら正面扉へ足を運びかけた時、カウンターの奥から出てきた女性職員から声が掛かった。
「アルマージの皆様。ギルド長から、お話がございますのでお時間をいただきたいとの事です。よろしければ2階のマスタールームへご案内します。いかがでしょうか」
職員に見詰められたティリオが救いを求める様にあたしに視線を流してくるので、『ふんふん』と小さく頷いて見せる。
魔窟の街でギルド長に逆らってみても良い事なんか何一つない。
「別に構わんよ。手短に願いたいが内容は聞いて無いだろうから君に言ってもしようがないよな」
「はい。ではどうぞこちらへ」
1階フロアの奥から階段で2階に上がり、真っ直ぐ伸びる廊下の突き当りまで進んで彼女はドアをノックした。
*
バーカウンターだけの店内は酷く薄暗いが、これがムーディで良いと思う客も多いのだろう。
もちろん客の目当ては厳ついベテランバーテンダーが提供する旨い酒に違いない。
カウンターの一番奥に掛けた若い男は羽振りがいいらしく、店で一番上物のシングルモルトをストレートで注文続けている。
しかしその身形はお世辞にも上等とは言えない。
クタクタの作業服は清浄が掛かってはいても皺くちゃで生地の色も剥げて斑になっている。
ポケットからカウンターに載せられる金貨の前売りでなければ安酒の一杯も出してもらえないだろう。
酒には強いようで5杯も飲んでようやく顔が赤らみ始めたばかり、注文と酒以外には重かった口元も
「なぁ、マスター。ここいらで腕っぷしだけで実入りの良い仕事って、誰に頼みゃ口利いてくれんだろう」
「お客さん、そんな事しなくても充分羽振り良さげじゃないですか」
「こりゃ、前の街で稼いだアブク銭だよ。アブクはあっという間に酒で流れてくもんだ」
「はっ、そりゃあ確かだ。しかし、ここは魔窟の街だからねえ、腕っぷしで伸してくのは難しいんじゃないですかね」
「探究者かぁ。あいつらそんなに強いのかねぇ。俺ぁ今まで自分より強い男に会った事がねぇんだが、一度腕試しに一戦交えてみようか」
「客さん、悪いことは言わない。それだけは止めとくのが賢い大人ってもんですよ」
「そうかい? ギルドの傍で何人かそれらしいのを見かけたが、存外大した者にゃ見えなかったがな」
「あの人等は見掛けと力が別物なんですよ。とにかく我が身大事にが一番なんだから」
さすがに10杯も立て続けに呷って表情は緩んでいるが、足元はまだしっかりしている。
バーを出た若い男がどこへ向かうでもなく夜の街を漫ろ歩いていると、後ろから声が掛かった。
「お兄さん! ちょっと良いか?」
「むん? 何者だ、お前?」
「さっき、バーで小耳に挟んだんだが、腕っぷしの仕事を探してるのかい? お兄さん」
「うむ。そうだ。それはそうだが、それがどうした?」
「いやいや、そんな禅問答みたいなのはそこらに措いて、俺の話を聴く気は無いかい?」
「あぁ、聴くだけなら構わんが。それで聴く価値のない話だった時はアンタをタコ殴りでいいのか?」
「うっ。いゃ、それは無しで頼むわ」
「分かった。それで、こんなトコで立ち話で済む話なのか、そりゃ」
「おぉ。悪かったな。酒が呑めるトコでいいかい」
「ふむ。酌してくれるのがいりゃあ何よりだが、贅沢は言わんよ」
声を掛けた小男が先に立って2人はまた繁華な方へ歩き出す。
彼等が消えた先とは逆の辻から数人の人影が姿を現した。
「ねぇ、大丈夫なの?」
「大丈夫さ。同じ方に歩いて近付きゃあまた連携はピピッと繋がるからよ」
「それにしても上手いもんですね。僕ならあんなに堂に入った喋り方は出来ません」
「そりゃよぉ、フィリアス。今まで踏んだ場数が違わぁな。それにティリオの奴ぁ昔から芝居っ気が多くてよ。ガキの頃、奴が強面で睨むだけでせずに済んだ喧嘩も少なかぁない。あの端整な顔が睨めつけると昔から寒気が走ったもんだ」
「あんたはどうなのよ、チャンク。どうせ芝居も何も、一発で湧き上がって殴り掛かるのが関の山だったんでしょ」
「まぁな、そんなもんだ。だけどよ、最初に話し掛けて来たのはティリオの方だぜ。随分と昔の細まいガキの頃だが『何してんだ? 俺も混ぜろや』ってな。あの時のあいつの照れたような顔は今でも忘れないよ」
「へぇ、そう言うのって何だかいいですね」
明日もまたお待ちしております。




