第四章 大陸の探究少女 14話 ラストチャンス
今日もよろしくお願いします。
ソルサイゾを出てあたし達はまた想定ルートを変更して北上している。
何故かと言えばフィリアスが仮ライセンスを貰って魔窟に潜れるようになったから。
ツフガ国内にはソルサイゾの北方にまだ5ヶ所の魔窟が在り、それをジグザクに繋ぐルートに変更したのよね。
それぞれの魔窟の間は騎乗で四五日の行程で、その間の街も真っ直ぐは並んで居ないから移動距離は格段に増えるけれど、チャンク達の故郷の魔窟までお預けするよりもフィリアスの探究者鍛錬としてはずっと良いのよね。
既にここまで2つの魔窟に潜って、これから3つ目の魔窟の街に入る。
もうすぐ三週間になるけど、その間にフィリアスは格段の進歩を遂げた。
移動中の昼間に地上の魔獣狩りがノルマなのは今まで通りなんだけど、ソルサイゾの手前まで中型を1頭狩るのが精一杯だったのが、今じゃ大型を軽々と倒してるのよね。
もちろん、チャンク達と御揃いのお高い剣と盾が有っての事なんだけど、実はあの魔具の魔法はまだ解禁してないのよね。
つまり今までと違うのは武具の重さと切れ味だけ。
それまでもそれなりの武具を使ってたから切れ味の差は誤差範囲で、実質は自分の膂力で扱える武具に巡り合った途端にメキメキと力を伸ばして来たのよ。
チャンク達もあれに出会って一気に上級者へ駆け上がったし、本当巡り合わせってあるのね。
移動中の魔獣狩りで旅費は完全に黒字だし、探究者パーティ・アルマージとしての活動でギルドの預託金は潤沢。
多分チャンクとティリオのあたしへの借金は故郷に着くまでにはきれいさっぱり無くなる筈、なにせ深層魔核を毎回複数個持ち帰ってるからね。
マチアからフィリアスへの分はだいぶ掛かるけど。
流石に深層で蟲型を仕留めるのはまだまだ無理で、あたしかマチアがお膳立てした超大型に止めを刺すのがやっとだから。
武具の魔法を使えば簡単に倒す事は出来るけれど、それを禁止してるのはあのレベルの魔法じゃ深層では通用しないから。
マチアみたいに自前で極大魔法が使えれば別だけど、そうじゃなければ魔法はあくまでも補助的に考えないと痛い目に遭い兼ねないの。
だって魔法を攻撃のメインに組み込んでいて、それが効かなかったり魔力枯渇を起こしたりしたら、そこでお陀仏だもの。
取り敢えず、挑む階層の魔獣は武技とスキルで倒せるのが大前提だと思うのよね。
そんなフィリアスの現状はさておいて、探究者パーティ【アルマージ】の活動が日を追う毎に人々の口の端に上ることが多くなったのは、実はあたしの情報戦略の一環でもあるのだ。
チャンクとティリオがパーティ名を決めた時に、【アルマァジ地区】と【アルマージ】の関係性を口コミに出来ないかを考えた。
アルマージが突出したパーティとして認知されるようになって、その名前がソルサイゾに新しく出来た地区の名前に酷似している事が同時に判れば、否が応でもそれを関連付けて考える者が出て来るでしょ。
そのやり方って?
まず、ソルサイゾを出る前にギルド長にお願いして、ツフガ国内のギルドへ掲示を出してもらった。
内容はざっとこんな感じ。
①ソルサイゾで旧被災民受入地が改名され【アルマァジ】となった。
②現在【アルマァジ】は経済格差是正改革に取り組んでいる。
③ソルサイゾ探究者ギルドは全面的に当改革を支援する。
簡単だけど当然詳細は併記されてるわ。
これは当然ソルサイゾの既得権益者達を牽制する意味も持ってて、あのギルド長さん結構な力を持ってるみたいで、これまで寄った魔窟のギルドではかなり大きな掲示スペースが割かれていた。
そしてイクァドラットでは無かった事だけど、ツフガでは各魔窟の上位ランカーが掲示される。
アルマージが1つの魔窟でその日の最深到達者になれば翌日には隣の掲示板に載るし、歴代記録の上位に入ればずっと掲示されるわ。
【アルマァジ】と【アルマージ】が近くに掲示されれば当然その類似性に気付く者は多いし、ソルサイゾのギルドが支援を明言してるんだから探究者パーティが関りを持っていても変じゃない。
国単位の広域マスコミが存在しない世界だから噂の種は結構取り沙汰されるのよね。
もちろん人の噂なんて良い形で広まる物なんてほんの一部だけなのは当たり前。
どんな形にせよ人々の間で話題になって記憶の隅にでも残る事に意味があると思う。
何と言っても今この世界で探究者パーティの上位ランカーは抑止力としてかなり価値があるから。
今の世の中が平和なのは何故か。
それは国単位の軍隊に大した力が無いから。
当然、数の力に意味はあって、国土という面を支えるのに軍隊は不可欠なんだけどね。
問題はその質で、個人の力は圧倒的に探究者が上回っているのよ。
だって軍隊に入ってどんなに昇進するより、探究者で普通に成功する方が余程儲かるんだもの。
戦略的に面を広げるには戦術的な点の戦闘勝利によって繋げた線による囲い込みが不可欠なんだけど、現状はそこに必ず破綻が生じる。
例えば侵略の意図を持って侵攻してきた軍が彼我の力関係で戦線を押し上げたとしても、そこに探究者が一ヶ所切り込みを入れるだけでそれはあっと言う間に分断されてしまう。
そして人の力ではなく、魔導具などの力でそれを打開しようにも肝心の魔石の供給が探究者ギルドに握られているのよね。
だから今、国の軍隊は戦争がしたくても出来ない。
昔は軍隊を統率してた王侯貴族の力が探究者より上回っていたか、少なくとも拮抗していたから、そんな事を考えずに戦争が出来た。
戦争でしか解決できない問題を持つ国と言うものがあるなら話は変るけど、そうでない限り一般庶民にとっては今の方がいい世の中なのは間違いない。
でも王侯貴族という枷がなければ既得権益を振りかざして庶民を困らせる【お役人様】が横行したりもするから、起こるかどうか判らない戦争とどっちがマシかも難しいところよね。
あはっ、またまた話が横道に逸れちゃうトコだった。
まぁとにかく、私達探究者一人一人は措くとしても上位ランクパーティの力が侮れない事はこの世界の常識と言っても間違いじゃない。
だからそんなパーティと『馴染みが有りそう』ってだけでも一目置かれて迂闊な真似をされずに済むかも知れないでしょ。
そんな訳でフィリアスの仮ライセンス取得の都合で思いがけず結成する事になった【アルマージ】は否応なしにメジャー路線を爆走する事になってしまった。
しばらくはチャンク達と行動を共にする積りではいたけど、まさか同じパーティのメンバーとしてこれほどあからさまに世間に認識される事になるなんて考えもしなかった。
けどまぁ、チャンクもティリオも気のいい奴だし、フィリアスが驚く程良い子なのも判ったから、これはこれで面白そうな気もする。
こうなったら遠慮は要らないのでドンドン魔窟攻略を進めることにして、あたしとマチアは日帰り深層最深部到達に取り組んでるのだ。
魔窟の街の滞在も2日から一週間前後に伸ばす事にした。
魔窟の歴代記録塗り替えにはやっぱりそれなりの時間が必要だもの。
全員で深層に入るとあたしとマチアがフィリアスの護衛に回ってチャンクとティリオがムカデ型を狩りまくるって言うのがパターンだったけど、それを日替わりであたしとマチアだけが深層に入る日を作る事にした。
残りの3人は中層奥で超大型を狩りながら待ってもらうのよね。
それで2人で深層を進んで最強のカブトムシ魔獣やクワガタ魔獣と闘った。
2人共何とか光刃を使わずに倒せることを確認してからは、遠慮なしに光刃を使ってるんだけどやっぱりカブトやクワガタは強くて中々いつもみたいには進めない。
毎回時間切れで戻るんだけど、それを何とか日帰りで最深部初到達の記録を作ってしまいたいと思ってるのよね。
6日目の明後日がこの魔窟のラストチャンス(・・・・・・・)だから中層までの攻略速度も考えて万全の態勢で臨もうと思ってるんだ。
明日もお待ちしております。




