第四章 大陸の探究少女 11話 年下のおとこの子
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立派なお宅だけあって鉄柵の門内には監視用の魔導具が据えられているのが見える。
これ見よがしに取り付けてあるのは防犯のためで、どこぞやの監視カメラと同じ道理。
魔法が使える世界ではどこぞやと同じような便利な設備や道具もあるのだけど、動力源が魔石や人の魔力だから随分と燃費が悪いし、魔導具自体もその手のスキルを持った者が作る一点物が殆どでかなり高い。
だからその便利さを享受できるのは比較的裕福な者に限られるのよね。
つまりここの住人はそれを使えるだけの財力があるって事になる。
昔からこの街の一等地に居を構えているとすれば、元々が有力な家柄なのかも知れない。
そうなると例の地区からの実入りだけでこの生活が成り立っているのか、それとも他の収入が主な財源なのかは中々判断し辛いところだね。
「ねぇ、何してるの?」
「…………!」
そんな風に少し離れて様子を窺っていると横の路地に面した柵を乗り越え出ようとする人影に気付いた。
忍び返しなんかを設えた柵じゃないし傍に立木も植わっているから乗り越えるのは難しくないけど、入るんじゃなくて出るのにそんな事をするのは誰なんだろう。
近寄って見るとあたしと変らないくらいの年の男の子が柵に掴まって四苦八苦、多分立木を伝って柵の上にしがみ付いたまでは良かったけど降り方を考えてなかったんだろうね。
全然こっちに気付きそうに無いから声を掛けたら目ん玉をひん剝いて固まってしまった。
「降りれないんじゃないの? 大丈夫?」
「むむぅ……、うぅぅ……、……。へんっ! 大丈夫に決まってるだろ」
柵の一番上に掴まったままようやく身体をこちら側に移すのに成功し、へっぴり腰でずり下がっていく。
爪先から地面までの距離が飛び降りても大丈夫になって、ようやく強気な返事が返った。
下を見て意を決したように手を離すと1メーター余りを落ちて着地したが、柵との距離がないので半身が柵に当たって尻もちをついてしまった。
大丈夫なのは分かっててわざと心配そうな振りで見下ろしてやると、バツの悪さを眉間に刻んだまま何気無い振りを装って立ち上がる。
「誰だ、お前」
「あんたこそ誰よ。柵を乗り越えるなんて誰が見たって怪しいわ」
「怪しくなんかないぞ。僕はここの息子だからな」
「あら、そうなの。でも何であんな事してたのよ」
「そんなの僕の勝手だろ。それよりお前なんか見た事無いぞ、ここでなにしてるんだよ」
子供相手なのであたしが年相応の喋り方で話すと、相手も突っ掛かってくる。
背はあたしよりちょっと高いけど、幼い感じが年下の男の子っぽいね。
何かの理由で家を抜け出たいけど門は魔導具で見張られているから柵を越える事にしたんだろうし、そんな子供の理由なんてどうでもいい。
「あたしは頼まれた使いを済ませて帰るとこだったんだ。そしたらこんな怪しい奴がいたから見てた。それだけよ」
「だから怪しくなんかないって言ってるだろ」
「それは分かったわ。で、わざわざこんな所から出て、何するの?」
「別に。何も決めてない」
「あぁ! 鍛錬か勉強から逃げてきたんでしょ!」
「大声出すなよぉ! ここに居るのがバレちゃうじゃないか」
「じゃあ一緒に逃げ出そうか。そうだ、市場の方へ行ってなにか食べない?」
「うん、分かった」
「さっき、お駄賃もらったから奢ってあげるよ」
来るからには辺りの地図はざっと頭に入れてある。
近場に1つだけの市場の方へ早足で歩きだすと、彼も慌ててついて来た。
『一緒に逃げる』で子供同士の連帯感が一気に芽生えたのかもね。
その後、市場のお菓子屋で幾つか駄菓子を買って二人で分けた。
駄菓子を摘まみながら市場を散策して他愛も無い話で笑い合う。
そんな普通の子供みたいな事が自分に出来ると思わなかったので正直驚きながら一時を過ごすと、名前も知らない同士なのに彼はすっかりあたしに打ち解けてしまった。
「ねぇ、あたしん家はあんたトコみたいに大きくないし庭だって無いんだ。家の中どんなだか見せてくんない?」
「良いけど、家の者に会ったら紹介しないと。名前も知んないんだけど」
「エノラよ」
「そうか。僕はジャットだ」
「うん。よろしくね、ジャット」
ジャットが家に戻ると建屋から女中さんが駈けてきて門を開けた。
彼が抜け出したのが分かって正門の魔導具で戻りを見張ってたんでしょうね。
「あら、今日はお友達とご一緒ですか?」
「あぁ。エノラだ。家を見たいって言うから連れて来た」
「まぁ、いらっしゃいませ。どうぞ、お入りください」
「お邪魔します」
なんて事のない大きいだけの家だけど、興味津々な素振りを交えながら女中さんの後に続いて建屋に入り、あとはジャットの案内で彼の部屋へ通された。
女中さんがお茶を持って来て、ドアを開けたままにして出て行く。
一応、男と女だから気を使ったのかな。
「へぇ、良い部屋ね。広いしあたしの部屋とは比べ物になんないわ」
「そうかぁ。普通だけどなぁ」
「全然普通じゃないよ。ジャットん家は特別だね」
「へへっ、そうかな」
「そうだよ」
親の甲斐性でも褒められると嬉しいよね。
「ねぇ、鍛錬や勉強もここでするの?」
「いぃや。先生が来るから父さんの書斎を借りてやるんだ」
「まぁ、今日は先生をすっぽかしたの?」
「まさかぁ。先生が来れないのに自習だなんて言うから抜け出してやったのさ」
「そう、安心したわ。それより書斎って見た事ないの、どんななのかな?」
「へぇ、見てみるか?」
「いいの? 見たいわ、ジャットがいつも鍛錬してる所」
「じゃあ、ついて来なよ」
書斎はジャットの部屋から更に廊下を奥に進んだ所に在って、誰にも会わずに入ることが出来た。
『ごめんね!』と頭の中であやまりながら、あたしはジャットの後から例の【脳震盪で昏倒させる魔力の手刀】を軽く振るって意識を刈ってしまう。
豪勢な机の椅子に意識の無いジャットを移送で座らせて、あたしは捜査を始めた。
狙いは勿論あの地区に関する何らかの記録。
ざっと書棚や机の中を調べたけれどやはり見える所に置いている筈も無い。
『こんな時チャンクの【感知】なら隠し棚でも見つかるのかな』なんて考えたけど、多分そんな無機的な物は上手く探せないんじゃないかな。
それではあたしならどうしたらいい?
【天鳴】は解り易い波として一番最初に【音】を扱える様になった。
『そうよ。隠し金庫とか棚があれば響きが他と違うんじゃないの?』
部屋いっぱいに【聴く】を拡げて『パァンッ!』と柏手を打ってみた。
あたしの手から広がる音の波が物に当って浸透し跳ね返る。
面白いことに目に映る場景に音の波紋が重なって見える気がする。
『見える』んじゃなくて『気がする』なのは目には何も映っていないから。
見えてはいないのに、目に映る調度や本などに届いて音の波がどう反応しているかが理解できる。
机に浸透した音波が板材を伝わり引き出しの空間でまた内部の物に当ると見えない物の構造が伝わってくる。
ほとんど全てが外観の見た目通りの構造……なんだけど、書棚の基部に不自然な所が在った。
基部だから分厚い木材で造られた枠組みだけの筈なのに、引き出しの様な構造が作りこまれている。
『へぇ、引き出しじゃなくて棚の下段がずれるのね』
基部の上に載った棚の下段、その左半分が左にずれる様に作られているのよ。
それをずらしてしまえば、基部の中に作りこまれた【物入れ】が現れるのよね。
ただし、棚の下段には車輪やコロのようにずらす力を減らず工夫が一切なされていない。
だから、そこに物が入った状態ではどんなに頑張っても人力では動かせないと思う。
わざといっぱい詰め込んである物を戸棚から出すだけでも一苦労どころではなく、出したとしても1人の力でずらせるとは限らない。
だから普通はちょっとした時間で【物入れ】の中の物を確認など出来ない。
でもその重みに見合った浮動が使えれば、中身が詰まったままでも下段の半分を浮かしながらずらす事が出来るのよね。
マチアみたいに魔法で細かい作業をするのは無理だけど、出力頼りの単純作業ならあたしも苦手じゃない。
下段の半分を簡単にずらしてしまって【物入れ】の中を確認したら『ドンピシャ!』、その手の書類がわんさかと入っていた。
明日もよろしくお願いします。




