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第四章 大陸の探究少女  10話 待ち伏せ

本日もよろしくお願いします。

「国が違うのでご存じないと思いますが、バクルットと言えばイクァドラットでは名の知れた商家なのです。ただ、あたしは孤児院育ち、養子縁組でバクルットに拾われた身の上です」

「なんと貴女あなたも孤児院出身なのですね」

「はい。別段それを恥てもいないし、隠してもいません。でも悲しいかなイクァドラットの孤児院の中にはたちが悪い施設も在りまして、あたしが育った所では子供達の養育費を院長達が着服して子供は食うや食わずの生活を強いられていました」

「なんと! そんな悪辣な輩が責任者だとは。私にはとても信じられませんが、事実なのでしょうね」

「あたしは小間使いとしてバクルットへ奉公に上がっていたのですが、その生い立ちを聞いたバクルットのお嬢様が商家仲間と共に院長達の不正を暴いて下さったのです」

「その貴女あなたが、養子となり、更に探究者となって、このツフガに来られた。そのお年で中々の経験をされたようですね」

「いいえ。偶々探究者としてのあたしの素養を見込んだ旦那様が全て段取りして下さり、その流れに乗っただけの事です。まぁ、そんな素性ですのでこう言った施設の事は非常に気になるものでして」

「ふむ。それはそうでしょうな」

「幸い、ツフガではあのような酷い施設は無さそうで安心しています。取り分けこちらでは院長が率先して子供達の為に奮闘されていると聴いたものですから、少しでもお役に立てばと探究の成果をお持ちしました」

「そうでしたか! いやいや私などお褒めいただくような者ではありませんが、もし子供達の為にいただけるならば遠慮するのはお門違いでしょうな」


 話がすんなりと進み寄付の目途が立って、院長も一安心と言うところだろうか。


「どうでしょう、子供達の様子でもご覧になりますか?」

「いぇ、それはまた後日に。今日は別のお願いがあります」

「はて? どのような事でしょうか」

「役所の担当者をご紹介願えませんか」

「担当ですか? 当院の担当なぞ末端の職員で役人ですらありませんが」

「はい。実は将来施設の経営を考えていまして。ツフガの現状を聴ければと思って」

「なるほど、現状程度ならば確かに一番良く把握しているかも知れませんな。承知しました。部署責任者に連絡を取ってみますので、このままこちらでお待ちください」

「はい、その間に寄付の手続きも進めてくださって大丈夫ですので」

「そうですか。では事務方に手続きも進めるよう申し付けますので、よろしくお願いします」


     *


 少し買物をしてから役所へ向かった。

連絡のあと間無しではそれこそ余裕の欠片も感じられないでしょ。

役所は至って開放的な雰囲気で、これまでに出会った【お役人様】とのイメージの違いに少し違和感を覚えたけれど、あれは官僚でこちらは公僕とでも言ったところなのかな。

簡素な造りでも清潔な印象の開け放たれた大扉を入り、院長の話通りに正面のカウンター前を右に向かうと真っ直ぐに通路が伸びていて、3つ目の扉に【福祉係】の札があった。

扉が開いているので戸板をノックして中を覗くと、奥に並んだ一番うしろの事務机から立ち上がった女性が軽い会釈でカウンター前の応接セットへ掌を差し向けた。


「福祉係の主務ですが、自己紹介はよろしいですわね。孤児院の院長からのご紹介でお越しになった。随分お若い探究者なのは連絡を受けた通りですが、その若者がわざわざ何を目的にいらっしゃったのでしょう? 普段お若い方に興味を持たれる事が無い部署なもので後学のためお聴き出来れば」

「院長からどこまで伝えていただいたかは存じませんが、私自身が孤児院の出身なので児童福祉に関心を持っています。故郷のイクァドラットで養い親から探究者としての指導を受け人並み以上の力が付いて、それなりの収入も得られるようになりました。今回は既存施設への寄付と言う形を取りましたが、ゆくゆくは自前の施設を運営できればと考えております。出来ればソルサイゾの福祉・教育・医療についてお話を伺えればと思いまして」

「それは素晴らしいお考えですね。内容にもよりますがお答えできる範囲はきっちりとお話ししますわ」

「ありがとうございます。では早速……」


 役所の事は良く知らないけれど、部署責任者としてはかなり若い部類じゃないかな。

こちらから前向きな話を振ると随分前のめりにやる気を見せてくれる。

こんな機会が滅多に無いのは想像に難くない。

当然公表可能な物ばかりだろうけど、資料まで出してきてあたしの質問に答えてくれる。

私にすれば本当に興味がある分野なので質問の種が尽きる事は無い。

こちらの真剣味が伝わって主務さんの前のめりに拍車が掛かる。

『そろそろいいかな?』

彼是かれこれもう2時間近く話して、カウンター奥のデスクに着く部下だろう人達にもいぶかり顔が並び出した。


「あのぉ、最初に見せていただいた資料に、公的な福祉施設・教育機関・病院の分布図がありましたよね。あれで気になったところがあって」

「これですね。どこか不審な点がありましたか」

「はい、この地域は全ての施設が無い空白地帯になっていますよね。何か理由はあるのでしょうか」

「あぁ、これですか。そこは過去の被災民の受け入れ地区でしてね、公的機関だけでなく他地区からの出店や転居が行われない様に保護団体から地権者に規制が掛かっているのです」

「保護団体が規制? そんな権限があるんですか?」

「保護団体が全て地権者で構成されているらしく、自主規制がそのまま公的に運用されているようです」

「なるほど。もし保護の要項が分かればそれに抵触しない計画を立ててみたいのですが、その辺りをお話しするとしたらやはり保護団体との直接交渉になるでしょうね」

「確かに全くの空白地帯に施設進出となれば意義は大きいですが、さて先方が応じてくれるかどうか」

「一度申し入れだけでもしたいので、団体のリーダーさんを教えていただいても良いでしょうか」

「えぇ、それくらいならば。確かこの資料に……」


 彼女が手にした資料には【秘】の文字が入っているので、あたしは見せて貰えない。

ページを繰って見つけた内容をメモにして渡してくれた。


「えぇっと。この方がリーダーさんですか」

「リーダーとは書かれていませんが、記載が1名だけだし、あの地区の地主の1人なので主要メンバーには違いないでしょう」

「ありがとうございます。計画の素案だけでも受けて貰えるか連絡を取ってみます」

「あの地区は私の担当外なのでお力にはなれませんが、頑張ってくださいね。実のところ官僚の直轄案件のようで私には担当部署もよく分からないのですよ」

「そうなんですか。了解しました。また別件でご相談に伺うかも知れませんのでその時はよろしくお願いします」

「えぇ、次回は直接ご連絡ください。それではこれで」

「はい、失礼します」


     *


 さぁて、やっと糸口が見つかったけれど直接会いに行ってもきっと相手にしてくれないよね。

とりあえずお宅拝見と言う事でいただいたメモの住所に行ってみる。

ソルサイゾの街は魔窟の東側に在って、当然安全面から魔窟方向には街を広げられない。

それで原野だったあの地区がある東に向けて街が発展したのよね。

役所は今の街の中心部に在るけど、メモの住所はそれより西側。

つまり広がる前のソルサイゾの中心部だった辺りだ。

今はかなりの高級住宅地になっていて、立派なおうちが建ち並んでる。

もちろん昔の王侯貴族みたいな広大な庭に囲まれたお屋敷とかじゃないけれど、ちゃんとしたアプローチの前庭と裏庭が付いた寝室が幾つもある邸宅ばかり。

くだんの住所もそんな邸宅の1つだった。


 役所に行く前に買ったのはごく普通のワンピースの衣装一式で役所のトイレでいつもの服の上に着込んで来た。

正直、次にどうするか役所に行く前から決められずにいて、とりあえずいつもの探究者スタイルは何をするにも目立ち過ぎるものね。

まぁそのままの格好で殴り込むのも選択肢の一つには有るんだけど、それは最後の手段と言うことで。

きっかけはやっぱり人だろうと、前の通りで誰か出てくるのをまちぶせ・・・・する事にした。

明日もお読みいただければ幸いです。

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