第一章 商都の孤児少女 11話 うえをくいてあばこう
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お供の2人はとっくに気持ちを切りかえているみたいだけど、あたしの頭はさっき食べたパフェがいっぱいであふれ出しそうだ。
甘味屋で食べてる時はお嬢さまたちの話に気が向いていたからそうでもなかったのに。
お祭りの夜店のお菓子もいろいろあって全部おいしかったけど、ちゃんとしたお店ではじめて食べたパフェの味はぜんぜん違った。
お嬢さまからお給金をいただくまでは商店街横道の焼き菓子屋の菓子クズがいちばんの甘味だった。
おなかがふくれるゴチソウは揚げ物屋の揚げカスやパン屋の切りクズなんかだったけど、菓子クズの甘さはトクベツなごほうびみたいに思えた。
夜店のお菓子たちは1つ1つちゃんとした物がいろいろあってまた新しいトクベツを教えてくれたけど、今のゴハンでお腹いっぱいになる幸せとくらべたらゴハンのほうがダンゼン孤児院の時とのちがいを感じる。
でもあのパフェを食べて思ったのは、なんて言っていいかムツカシイけどそういった物とはまたちょっとちがう事なんだ。
『人として生きていい』ってのと『人として生きるよろこびを感じていい』?
ううぅん、まだちがうけどまぁそんな感じ。
孤児院やまわりの人たちに食べさせてもらっていたあたしはまだ【人】じゃなかった。
大きくなって仕事をもらえるようになればあたしも【人】になれたんだろうけど、そこに【あたしのよろこび】はぜったいにない。
よろこびを見つけるためにはあそこを出ないとダメだったから、何とかして力のある人にあうための工夫をしてメルノアさまに出あうことができた。
あのパフェの味はあたしがやっと【あたしのよろこび】を感じて生きれる所にたどり着いたことを教えてるみたいに思えた。
だってあんなにおいしい物がお嬢さまにいただくお給金で食べれるなんて幸せすぎてウソみたいだもの。
「エノラ! 何ぼうっとしてるの?! そんなにパフェが美味しかった?」
「あっ、えっ! はい。あんなにおいしい物があるなんてビックリしてしまいました」
「あらそう? まぁ確かにあの店のパフェは絶品だけど。あれはうちが卸している材料が良いおかげもあるからね。覚えておきなさい、どんなに腕がよくても材料が悪いと碌な物にならない。良い物をちゃんとした値段で売るから皆さんうちの品物を買って下さるのよ」
「はい!」
*
バクルット家にもどってしばらくしたらもう昼餉時だ。
あんなにりっぱなパフェを食べたのにもうおなかが空いているのがフシギ。
お嬢さまのケイカクだとまたお出かけになるはずなので、お昼もしっかりいただく。
時間がかかるのは分かっているので、あたしはつくろい物をはじめた。
お嬢さまには、あたしがなんにも知らないふうに見えているかな。
お日さまもだいぶ下りてきたころ、勝手口のむこうから見習いくんのかけ足がスキルにひびいた。
気づいたけど素ぶりには出さない。
言葉をそのまま伝えられる事は話してあるけど、まわりの音を聞きわけられるなんて言ってないからね。
バタンと勝手口があいて、離れのそばでお嬢さまを呼ぶ声がみんなに聞こえた。
あたしが裏庭をのぞいたら『入れてあげて』とメルノアさまがおっしゃるので、戸口までいって見習いくんを呼び寄せる。
居間のテーブルに腰かけたお嬢さまの横に立って見習いくんが話しはじめたので、あたしは自分の部屋になっている控えの間に入った。
たぶんお嬢さまは気にしないけど、見習いくんの前ではそうするほうがいいような気がした。
もちろんスキルまで使わないつもりもないので、中身はしっかり聞かせてもらったわ。
「エノラ。出掛けるわよ」
「はい。すぐに!」
見習いくんが母屋にもどるとすぐにお嬢さまから声がかかった。
あたしが部屋を出るのを待たずにさっさと母屋へ向かうお嬢さまは、いつもみたいにカザムさんをさがすふうもなく店の表へ出ていく。
追いかけて店を出るとそこには2頭立てのりっぱな馬車が待ちかまえていた。
「どうぞ。メルノアさま」
カザムさんが馬車の横でお嬢さまに手を差しのべている。
4頭立てではないので重い箱馬車ではないけれど、4人乗りの4輪台車に後ろからキレイな布地のほろが差しかかっていて、後ろの席なら雨も日ざしも気にならない。
当然お嬢さまが後ろの席にみちびかれたあと、とまどっていると『お嬢さまの隣に』とカザムさんが教えてくれた。
孤児院のころは馬車にのったこともなくてはじめて辻馬車にのるのもまごついたけれど、こんなにりっぱなのはまた面くらってしまう。
これは『キャリッジのうちかな』って事だけどバクルット家にはこれより大きな4頭立てのコーチだけじゃなくてクーペやカブリオレもあるそうで、同じ町の外れのほうに馬も飼える馬車庫が在ってそのための使用人が寝とまりしているそう。
とにかく、あたしたちの前の席にカザムさんが乗り、朝の人たちよりは少し小柄なお供2人が御者台に乗りこんで馬車は動きだした。
背にうける日で、進むほうへ馬車の影が長くさしているのが見える。
向かったのは朝と同じほうだけど、商店街の手前を右に折れたのはやっぱり行き先が孤児院だからね。
孤児院はまだ先だけどスキルにざわざわした感じが伝わってきた。
見える所まで近づくとその前で何人かの人たちが言いあらそっているみたい。
孤児院の前に立っているのは院長と2人の先生だ。
2人と話しているのは役人風の2人でその後ろにうでぐみのタリアンさんがいた。
孤児院はかなり大きな建物でずいぶんお金をかけて造られたみたいだけど、今は古ぼけてボロボロだ。
その手前で馬車をとめてカザムさんが声をかけた。
「どうしたんですか?」
「いやぁ何ね。役所から孤児院を調べに来たんだが、中に入れてくれんのだよ」
「だから、役所に調べられる様な事は無いと言っておるだろうが!」
上等な馬車を見てうなずいた役人風の1人がこたえると、でっぷりと太った院長がいらだたしげに言いはなった。
その両わきで先生たちがいかめしい顔でにらみつけている。
子供たちは先生とよばされてるけど本当は何のシカクも持っていない孤児院の使用人。
そうじは魔法がつかえる子供の役わりだし、ごはんを作るのもかよいの女の人だから、形だけ読み書きを教えるのと子供をしかるのだけが役目でほかには何もしない。
院長はほとんど院長室にいるか外に出てるかで、子供とはすれちがう事くらいしかない。
「そうですか。実は私達も孤児院の状況に興味がありましてね。その確認に伺ったのですが、やはり入れていただけないのでしょうか」
「当たり前だ。どうやらバクルット家の馬車のようだが、隣町の者を中に入れるような筋合いは無いぞ」
べつに孤児院は町のシセツじゃないからとなり町でもこの町でも変らないんだけど、カザムさんはそこを突くつもりはないみたい。
「はい。ですからこの町の方々にお集りいただくようお願いしてあります。多分もう来られるでしょう」
「なにぃ!」
なるほど、通りのむこうからスキルに届くのはその人たちの馬車、音からすると一頭引きのカブリオレが何台かつらなってるわね。
それほど時間もかからずバクルットの馬車の前後にカブリオレが並んだ。
「皆様、御足労いただき誠にありがとうございます。ご連絡いたしました通り、本日は当孤児院の運営に疑問点がありご参集いただきました」
「何を言うのだ! 我々には何らやましい事なぞ無いぞ」
「ご覧の通り、院長がご不満で中に入れていただけません。皆様には失礼いたしますが、ここで調査内容を披露させていただきます」
あたしの目には、カザムさんのすずやかな目がギラリと光をはなったように見えた。
明日もよろしくお願いします!




