第四章 大陸の探究少女 9話 じれったい.
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「分かってるでしょうけど、今のは全部あたしが立てた仮定の積み重ねなのよね。これまでに聴いたキャスリィの話については今日一日町で確かめたけれど、あたしの仮定は何一つ裏付けが取れてないわ。だからこれは公言出来ないどころか、まだキャスリィにだって話せないの。じれったいかも知れないけど、変に先走ったら駄目だからね」
『正義感が強いのは悪いことじゃないけど、それを行使するにはかなりの自制心が必要』だなんてどの口が言うんだって思うだろうけど、一緒に居る4人より少し位はマシじゃないかなって気がする。
それがあたしの思い込みだったとしたって、釘を刺しておくのは悪いことじゃないもの。
「ちょっといいか?」
「どうしたの? ティリオ」
「不正って言うが。現状ここの住民から訴えどころか相談もされてないんだよな」
「何言ってんのよ、キャスリィが言ってたじゃん。まともな病院や学校が無いからちゃんとした治療や教育が受けられないって。それにその辺りの事を確認しようとした【先生】が役人から門前払いされた上に、あんな暴行を受けたのよ」
「あぁぁぁ、そうだったな、マチア。2人の怪我や病気が良くなったらすっかり済んだ事みたいに感じてたよ」
「これまでもずっとそうだったんじゃないの。色々と疑問を感じても、日々の暮らしに追われてその問題が過ぎ去ればどんなに強い疑問だって忘れてしまうのよね、人って」
「よし、分かった。それで、これからどうするんだ、エノラ?」
「僕からいいかな? まずは、生活保障関係の法規の確認。次に権益代表の法人の特定」
「おっ凄いな、フィリアス。分かってんじゃないか」
「チャンクったら、自分は分かんないくせに他人のこと茶化さないの!」
チャンクは日頃見せる言動から軽率で浅墓な人間と思われがちだけど、あたしはそう思わないし、いつも辛辣な物言いのマチアだって決してそう思ってはいない筈。
まぁ確かに少し直情的で調子に乗りやすい所はあるけれど、相棒のティリオがどちらかと言えば落ち着いたキャラなのでお互いわざと対照的なキャラクターを演じてるような節もあるのよね。
それで2人にとってそんなキャラが大事って言うのもマチアは充分理解してる。
だからキャラが立つように余計に厳しく突っ込んだりしてるんじゃないかな。
まぁ周りも出来るだけそんな雰囲気を壊さないようにしないとね。
「フィリアス。気にしなくていいから続きを聞かせて」
「うん。それと【先生】を襲った探究者が気になるよね。特に『寄って集って』てトコが。普通あんな小父さんを探究者は相手にしないよ。最後に【先生】とキャスリィをあしらった役人。その役人と権益法人の関係とかね」
「うん、いいんじゃない。明日から4人で手分けしてその辺りを調べてもらってもいいかな?」
「へっ? エノラは」
「あたしはちょっと別に動いてみるわ。あぁ、フィリアスの事お願いね、マチア。フィリアスはマチアと逸れない様にしてよ。色んなトコを突くんだからね。誰が出てくるか分からないから、皆気を付けて」
「「了解」」
「わかった」
「オッケー」
*
さて、翌日あたしがどこに向かったか。
それを話す前にこの世界のお金事情から説明しないとね。
基本的に【銀行】は各国に1つだけで貨幣を発行するいわゆる中央銀行的な役所があるだけ。
市中銀行の役目を果たしてるのは【探究者ギルド】の様な組織で、その組織に所属する人達がその組織で儲けたり使ったりするお金を預託される。
金利はつかないけど元本保証で、預託されたお金はその組織の運営資金として、組織員が効率良く活動してより効果的に成果を上げる為に運用される。
例えば探究者ギルドなら、魔窟周辺整備とか魔核精錬施設更新や魔石需要拡大の為の魔導具開発とかね。
この組織はすごく大雑把に分けると資金自主調達型と支援金運用型に分けられる。
要は構成員と組織だけで成り立つ組織と外部資金がなければ成り立たない組織。
もちろん探究者ギルドは前者よね。
探究者ギルドなら構成員が収獲した魔核を魔石に生成した物を役所その他に売る事を資金調達の基本にしている。
では、支援金運用型って何?
これは役所からの支給金や各団体からの援助金が運用資金のほとんどを占める組織。
構成員はこの団体の活動では何も産み出さないので、外からもらえるお金が頼りって事よね。
長々と話したのは、例の【権益代表法人】がどっちなのか分からないから。
普通に考えれば役所からの生活保障支給金頼りの【支援金運用型】しか考えられないんだけど、『本当にそうかな?』が頭の中でチカチカ点滅してる。
もしも今回の不正に役人が関わっているとしたら、それはきっと用意周到に考えられているのじゃないかな。
地主達はともかくにして、役人は自分達がすること全てが既得権の行使と考えているから違法脱法なんて露も思ってないだろうけど、似た様な権限を行使できる者からの横槍を疎ましく思うのは人として当たり前の感情。
それに事前に破綻の芽を出来る限り摘んでおくのが役人の習性だろうから【資金自主調達型】にカムフラージュしてる可能性も無くはないと思うのよね。
どちらにしても構成員はこの地区の住民達な訳で、地主達本来の目的なら構成員への保障支給金を法人が受取り構成員へ支給する代わりに地主達が吸い上げるんだけど、それは余りにもあからさま過ぎる気がする。
じゃあ、あたしがもしその仕組みを考えた役人だとしたら何をどうするのか。
構成員は変わらない、それじゃ構成員が普段してる事は何?
この地区内で完結する経済活動よね。
何かを作ったり加工したりして売って、売ったお金で他の住民から物を買う。
本来ならこの活動に外部の干渉があって段々と外部と内部の経済が均一化していく筈なんだけど、そうなると住民は豊かになっても契約に縛られた地主たちの実入りは増えない。
それは嫌だから『外部の経済干渉を阻害する』のを第一義に置くんじゃないの?
例えば『収入が少ないこの地域の住民を守るため物価上昇を防ぐ必要がある。だから外部の個人法人がこの地区の物品を購入しないような働き掛けを当法人の業務にする』なんてね。
住民保護の名目での活動の経費に支給金を転用するのは難しくないし、その責任者が地主達であっても不自然じゃ無い。
これなら誰かが不審に思っても【悪意】の存在を証明するのはかなり難しくて、咎められるにしても精々『自由な経済活動を阻害した』程度の可能性が高いよね。
そんな何が悪いのか分からないような罪をわざわざ暴こうとするのは『労多くして功少なし』の典型になりかねないでしょ。
それに元々、この地域の地主達が現状に見合った利益を得られていないのが原因だから、何らかの形で彼等が正当な金額を得るのは構わない。
今はただその金額の正当性が確認されていないのと、住民に医療と教育が行き届いていないのは見過ごせないし、何より本来何の権利も無い役人が甘い汁を吸っていそうなのがいけ好かない。
それに手間に見合う結果が出なくてもあたしなら構わないからね。
そんな訳で今あたしが居るのはどこか?
「おぉ、貴女が当院に寄付をされたいと言う探究者殿ですかな」
「はじめまして、エノラ・バクルットと申します」
「ご寄付は有難いのですが、非常に若くお見受します。そのお年でなぜ寄付をしようと思われたのでしょうか」
「ご懸念を持たれるのも当然です、実際まだ成人前の子供ですから」
そう、今居るのはこの魔窟の街の孤児院だ。
さっきギルドで預託金を下ろして来たばかり。
男連中の武具に使った分を先日チャンク達と潜って獲った深層魔獣の魔核の代金で補填したんだけど、結局同じ位引き出す事になった。
おおよそで一般成人男性の平均年収の10倍ほどかな。
まぁ寄付としては特別な額じゃないでしょうけど、孤児院側が無視できる金額でもない。
なので筋書き通りちゃんと院長が出てきてくれたわ。
明日もお待ちしております。




