第四章 大陸の探究少女 7話 LINK.
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さぁて、【鑑定】も【練成】も無いあたしがどうすればいいのか。
行き当たりばったりも全くの考え無しじゃ成る物も成らない、だから考える。
旦那様がマチアと連携した時、自分の波長をマチアに合わせたのは間違い無いとして、変えたのは表へ出る部分だけなのは想像に難くない。
脳波--でいいのかな?--を根本的に変えるって脳ミソを取り替えるのと同じようなもんだからね。
想像するにスキルによる連携って、魔法野から出る脳波がアタッチメントと言うかコネクタと言うかそんな役割で、そこの相性で接続ができるかどうかが決まるんじゃないのかな。
つまり、繋げる機械の中身はそれほど重要じゃなくて、コネクタの形状が合いさえすれば何とかなるって事なんだろう。
【鑑定】でどう変えるかを判断して【練成】で変えてしまえるなら事は簡単だ--なんて言ったら旦那様はむくれるだろう--けど、どっちのスキルも無いあたしはさっき【聴いた】それぞれの音を頼りにするしか無いのよね。
【鑑定】や【練成】みたいに名の知れたスキルじゃないけどあたしの【天鳴】もそれなりに凄い筈……だって特別にもらったんだから。
孤児院を出る前くらいから少しずつその辺りの事を思い出してきてるんだけど、思い出すのがごく断片的でまとめて話せないのが残念だわ。
うん、寄り道は止めて、スキル連携に話を戻さないとね。
旦那様が【鑑定】と【練成】でやった事をあたしは【天鳴】1つでしなきゃならない。
それは多分、あたしに聴こえる【音】を少なくともチャンクとティリオ程度まで似通ったものに変えてやる作業だ。
音に関する遊びなら色々と試した覚えが有る。
ただそれはあくまでも電子部品やDAWのようなソフトウェアを介しての事で、アタシ個人の力じゃなかった。
それを【天鳴】で何とかする……って言うか、しないとお婆さんの命が持たないのはもう誰が見たって明らかなのよね。
幸い機械任せとは言え、音を弄った経験は大きい。
でないと、それぞれの音をどう変えたら似通って来るのかも分からなかった筈だから。
それが分かってると思えるだけでも随分と気は楽だわ。
あたしの【天鳴】が厄介なのは何一つ勝手にしてくれないところかな。
大概のスキルは出来る事が決まっていて当人の思いや意思に関係なく出来る事は出来るし出来ない事は出来ないんだけど、【天鳴】は個別に何が出来るかは全く分からない。
これが『波を扱えるスキル』だって思い出さなかったら、『聴くだけのスキル』だってずっと思ってたかも知れない。
あぁ……また脱線しかけてるね。
音を加工するのは色んなやり方があって、あたしが今回基本になると思うのは周波数の変更だけど、それ以外だと楽器にかけるエフェクターが解り易いかな。
例えばファズやディストーションみたいな歪み、コーラスやファランジャーの揺らし、リバーブやディレイの残響、コンプレッサーやエンハンサーの強弱、ワウやゲートの濾過、オクターバーやハーモナイザーの和声、そんな感じで音声にかける効果を使い易く個別に切り取ったのがエフェクターだけど、そんな効果を組合せて使わないと結果は付いて来ないと思う。
スキルの基本は使い手に手間を掛けない事。
お嬢様の【鑑定】や【解析】だって、凄い成果を上げるのに別段手間が掛かる訳じゃない。
それは【天鳴】だって同じで、唯一つ違うのはあたしが【天鳴】にして欲しい事を理解してる必要がある事だと思う。
だから『あたしが出してる【音】にこれ位のディストーションを掛けて』の意味をあたしが理解していればそれが実現する。
実際にスキルが何をしてるかは分かんないけど、この場合はさっき考えてた磁力が仕事をしてるんじゃないかな。
脳波だって元は電気信号みたいな物で、電気と磁力は極めて密接な関係にあるから。
【音】を生み出す【脳波】を変えるのは御法度だけど、脳内に余ってる電気エネルギーを回転させて磁力を発生させ脳波が【音】を生む過程の電気信号に影響を与えれば【音】も自ずと変化する。
例えばあたしの【音】の周波数を○△ヘルツ下げる代わりに倍音を原音の▽分の1の大きさで追加して▷パーセントの歪みを加えるとマチアのとの差が許容範囲に納まる。
4人の【音】のバラツキの真ん中がマチアだから、チャンクとティリオのもマチアに合わせるような調整をする。
これを面倒な個別の魔法を使わずに自動で実現してくれるのがスキルなのよね。
「はぁい! 皆集まってぇ!」
「しばらく押し黙ってたと思えば。一体どうしたんだ、エノラ?」
「4人で連携する方法を考えたんだけど、実際にできるかを確認したいの」
「本当かよ。もしそれが出来たら、魔窟でスッゲー事になるぜ」
「あぁ、今それは無理だわ。出来たとしても多分まだかなり集中しないと駄目だから、魔窟だと直ぐに死んじゃうと思うわ」
「そりゃ残念だ」
「そんな皮算用は要らないからさ。あたしなりの前準備は出来てるんで、早速始めたいんだけど。あたしが指を振ったらティリオはマチアとチャンク両方と連携できるか試してくれるかな。あたしはマチアと連携してみる」
「成程。それが出来れば4人全員の連携完了って事だな」
「うん。じゃあ始めるよ」
まず、ティリオとチャンクの【音】を調整する。
ここで2人に別の調整をかけると2人の連繋に差し障りがあるから、2人共まったく同じ調整なので実質1人分と同じ。
それを済ませてティリオに指を振って見せたら自分の【音】を調整して、マチアのに共鳴する様に【音】の出方に指向性を持たせる。
「うわぁっ! 気持ち悪! チャンクをこんな間近に感じるなんて有り得ないわぁ」
「なんだよ、それ! 嫌なら出てけよ!」
「馬鹿、ケンカしてる場合か。こっちの3人は上手くいったぞ。おぉ……、エノラも来たな」
「うん。成功ね。思ったよりスムーズなのはティリオのバランス感覚のおかげかな」
「それで、これからどうするの?」
「一旦連携を解除して、キャスリィとお婆さんの所へ行くわ。そこでもう一度連携する」
「それで?」
「チャンクは【感知】でお婆さんの胸の中を知覚して欲しい。あたしが胸から【聴く】異物音をそれに重ね合わせて、膿や要らない水分の位置とそれを取り出すルートを特定するから、マチアが魔力でそれを排出して欲しい。ティリオは当然その間全員の連携が維持できるように調整をお願い」
「ふへぇ、こりゃ大変だなぁ」
「それぞれ得意分野の合わせ技か。何とか上手くいって欲しいもんだな」
「欲しいじゃなくて、成功させるのよ! ねぇ、エノラ」
「そう。絶対にね!」
*
それから1時間程、あたし達はお婆さんの横で脂汗を流しながら無言の精神作業を続けた。
キャスリィはお婆さんの口から漏れ出る痰や膿を献身的に取り続け、フィリアスが痰壺の交換と後始末を担当した。
「やったわね。随分と息が楽そうだわ」
「うん。胸の炎症自体は進んでいないみたいだから、ちゃんと呼吸さえ出来れば快方に向かうと思うのよね。意識が戻れば薬も飲めるしね」
疲れ切ったあたしとマチアは部屋へ戻るとそのままベッドに倒れ込んで朝まで眠りこけたし、チャンクとティリオも多分そうだったんじゃないかな。
爆睡のおかげで目覚めはスッキリ。
服までまとめて全身に清浄をかけて部屋を出て、キャスリィ達の部屋をノックすると彼女が満面にこやかにドアを開けた。
「さっき薬を飲んだところなの」
横になったままだが、お婆さんは目を覚ましていた。
しばらくするとチャンク等男3人が顔を覗かせて『良かったな』と声を掛けていった。
入れ替わる様に【先生】がすっかり元気な姿で現れる。
意識を取り戻したお婆さんの枕元で、言葉なく頷きを繰り返しているのが何だかとても印象的だ。
明日もよろしくお願いします。




