第四章 大陸の探究少女 6話 だってしょうがないじゃない.
3月に入りました。
今月もよろしくお願いします。
マチアとチャンク達の問答はあたしが口を挟まなくても……って言うか、水を差さなければ延々と続きそうだ。
あたしは自分の脳裏に浮かんだ思いつきを持て余してそれどころでは無いから、その方が都合は良い。
その思い付きの中に透けて点滅する淡い光を届けているのは【脳波】って言葉だ。
頭の中に脳みそがあって、人がそこで物事を感じたり考えたりしているらしい事はこの世界の殆どの人が知っているけど、その活動が微弱な電気の変動を伴っている事を知る人は居ない。
あたしだってその微弱な電気変動を拡大してグラフにしたものを【脳波】と呼んで脳の活動の研究に使われている事は知っていたけど、あのグチャグチャしたグラフが一体何を表してるかなんてまるで分かる筈が無い。
ただ、確かにあのグラフが【波】の形を描いていたから、【波】を扱えるスキルと言われたあたしの【天鳴】の対象の1つである可能性を無下に否定する必要はないと思ったのよね。
あのグチャグチャグラフから何かを読み取るのは絶対に無理だけど、スキルの俎上に乗ってしまえば無理でも通ってしまうのがこの世界なんだもの。
それにあたしが【波】と知った上で自分で感じれる【音】と【光】は物心ついた時から色々と試したんだけど、【光の波】は細かすぎるみたいで今までのあたしの力量じゃあ大したことは出来なかったのよ。
でも【脳波】を表す【波】は【光】や【電波】よりはかなり粗い波に思えるから、もしかしたら今のあたしでも扱えるかも知れない。
これは絶対『試す価値あり』なんだけど、その試し方が全く分からない。
あれを電気の波の一種だとして、それは今まであたしが電操系の魔法で扱った電気とは全く『似て異な物』に違いないわ。
あたしが知ってる電波や電気信号は電気回路の中で扱われるもので、伝わる物を感じられる音やプリズムで曲がる光と違ってスキルでの扱い方を想像しにくいのよね。
別に真空管やトランジスタにコンデンサや抵抗そしてコイル、そう言った物の役目をどうスキルが果たすのかまであたしが考える必要は無いと思うんだけど、『何がどうなればいい』のかくらいは最低でも考えをまとめておかないと駄目なんだと思う。
そもそも前提としてこの世界に無い考え方をする事が間違っているかも知れないし。
で、そんな時不思議と耳に入るのがチャンクの言葉。
「俺っちが魔窟の中でティリオと連携してる間何考えてたか分かるか?」
「何? 今そんな事言って何の得になるのよ」
「マチア、あんまり目くじら立てずに聞いてやれよ」
「ふん。じゃあ言ってみなさいよ」
「何かなぁ。最初は一所懸命へばり付いてたのが直ぐに力が抜けて、引き寄せられるみたいに自然な感じでティリオの考えてる事が分かるような気がした。うん、そうなんだ。頑張って横に並んでも空いてしまう隙間が、吸い寄せられるように無理なく近づいてピタリくっ付くイメージかな」
「あぁ、それ分かる気がするわ。ギルァム様と連携した時だけど、向こうの意識が近付いて来たら引っぱられる感じでピタっとくっついた感じだったよ」
何だか今まであたしが持ってたイメージと違うような気がする。
連携って言葉から、勝手に『すり寄って隙間を無くす』様な感じと思い込んでいたけど、そうでもないのね。
そんな近距離の隙間を跳び越えて引っぱる力って何だか【磁石】みたいじゃない?
でも今はスキル連携の話をしてるのであって磁気を帯びただけの塊なんかに用は無い。
そのはずが頭のどこかに引っ掛かる物があるみたいでどうもスッキリしない。
「ねぇ、マチア。それって磁石みたいな感じなの?」
「うん、そうね。そんな感じ。でも磁石みたいにずっと同じ強さじゃなくて、引き始めは凄く強いけど引っ付いちゃっえば適当な強さに治まるみたいな」
「俺もそんな感じかな。実際には離れてるし、束縛も何もないんだけどな」
「ティリオは?」
「俺の場合はもっと自然体って言うかスキル任せな感じだな。引っぱってる積りもないんだが、チャンクの魔法野が寄り添って来るイメージ? うむ、決して繋がってはいないけれどすぐそばで分かり合えるって感じが近いかな」
「なるほどね。ちょっと考えなくっちゃ」
聞いた感じみんな同じ様なイメージを持ってるみたい。
磁石に近いけど強さは一定じゃない。
繋がってるって感じじゃなくて寄り添ってるイメージ?
磁石と同じ性質で強さが変えられるって言うのは【電磁石】を連想する。
でも実際には魔法野は人それぞれの中にあるからどんなに惹き付け合っても物理的に引っ付く事はできないのよ。
その感じって多分完全な比喩で段々近付いているのは魔法野の距離じゃないに違いない。
そこで思い当ったのが、『人と人の波長が合う』って言葉。
ここの世界では誰も使わないけど、前は良く聞いたわ。
脳波の波長や形状が似通っていれば、離れていても【共鳴】するんじゃないかしら。
チャンクとティリオはずっと親しい間柄でスキルも同系統だからその波長や形が元々似ているんだと思う。
マチアは奥様の姪でスキルが同系統だから2人のそれも似ている筈。
奥様とよく連携していた旦那様が初めてで直ぐにマチアと連携出来たのはそのおかげなのよ、きっと。
じゃあ、旦那様は奥様とどうやって連携する事が出来たんだろう?
そこまで考えてハタと思い当ったのは、肝心の脳波が分からない事。
いくら考えが纏まったって、それが分からなけりゃ何にも出来ない。
さっきまで色々考えながらあのグチャグチャしたグラフみたいなのが見えないか、マチア達を目を凝らして見てたけど見える訳が無い、だって私自身がそんなスキルじゃないと思ってるんだからね。
『あれ? でも、波を扱えるスキルなのに何故【天鳴】なんだろう? 天波とか天浪とかじゃない理由は……。あぁぁ、在ったわ』
確かあたしが音を扱うスキルを望んだような気がする。
それを音に限定するのが面倒だからと【波】全般が対象になったような。
その辺りの経緯というか実際に何があったかは思い出せないけど、確かそうだったのよ。
だとするとどんな【波】でも扱えるにしても私にとってそれは【鳴る】物なんじゃないかしら、光でも電波でも。
あたしにとって全ての【波】は音として認識される、とすれば【光】の波長が短くて扱えないのは、その音が高すぎてまだスキルがそれを【聴く】レベルに達してないからよね。
だとすると、脳波も【聴く】事なら出来る筈!
あたしはまず自分の頭に【聴く】を集中した。
ふむふむ、耳から聞こえる音の他に確かに何やら聞こえてくる。
なんだか凄く馴染みのある生活音のような意味あり気な音。
そりゃそうよね、自分の脳波だとしたら馴染みが無きゃ変だよ。
皆のも聴いてみると。
マチアは……うん、全然違うけどあたしのに一番近い。チャンクとティリオは確かに同じ系統の音よね。
フィリアスは3人とはかなり違っていて、あたしを挟んで3人と逆の方に振れた音、つまりあたしがまだ一番近い気がする。
多分あるレベル以上の【鑑定】持ってる人ならそれでこの辺りの事が普通に分かるんだ。
旦那様は【練成】で自分の波長の外見を奥様と合う物に加工して連携してたんだろう。
【練成】を持たないあたしにはそれが出来ない。
でも【天鳴】は波なら扱える筈なのよね。
後はそのやり方を見つけるだけなんだけどねぇ。
まだるっこしいけど、ここからも今まで同様行き当たりばったりしかないのよ。
だってしょうがないじゃない、マニュアルなんてどこにも無いんだからさぁ。
明日もお待ちしております。




