第四章 大陸の探究少女 5話 最高到達点.
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フィリアスが雇った馬車に行き先を告げると、御者が露骨に嫌な顔をする。
前金を渡して何故かを問うと『いやぁ、別に取り立ててどうって事は無いんだがね。まず、あそこへは雇われ馬車が行く事も無ければ、呼ばれる事も無い』と言うのでキャスリィへ眼を向けると黙って小さく頷いた。
外部の馬車も高くて使えないのは当然だろう、『まず』と言ったからには続きがある筈と黙って耳を傾ける。
『それになぁ。あの辺りには関わらない方が良いって噂を聞いたもんでな』と言う。
どこでどんな噂が広まっているのかを訊いてみる。
『あぁ、何でも、あそこらの事をほじくり返して金にしようと役人に近付いたヤサグレが探究者に難癖を付けられてボコボコにされた挙句、寝込んでおっ死じまったって話だったが。さぁ、どこで聞いたかはよく覚えてないな』
どこかで聞いた話だなと思いつつ
『そうなんだね。それで、行ってくれるのかな?』
『はい。前金をもらったら行かない訳にゃ参りません』
御者が地区の手前まで馬車を走らせ、そこからはキャスリィの案内でお婆さんの家に着いた。
ここまで街の様子を見る限りそんなに特別な風には思えない。
確かに良く言えば慎ましやか正直貧乏臭い佇まいばかりだが、貧民窟とか場末染みた気味の悪さとは無縁の健全な町のように感じる。
道幅は広くないが時折小さな荷馬車が通るくらいで徒歩の往来が殆どなので、家の前に馬車を停めても問題無い。
キャスリィが馬車を飛び出して家の中を確認して戻った。
「お婆さんは寝てるよ。良くなってはいないけど、まだ大丈夫みたい」
「それは良かったね。じゃあ馬車に乗ってもらおう。歩けないだろうから僕がおんぶするよ」
「大丈夫かい? そんな細こい体で」
「これでもね、武技を習って近々探究者になる積りなんだ」
「へぇ、それはお見それ。じゃあ背負うのを手伝うわ」
6人掛けの後部座席に毛布を敷いて、無事お婆さんを寝かせることが出来た。
息はしっかりしているのに目を覚まさないのは、かなり病状が悪化しているのだろうか。
そのまま薬草師の診療所に寄って【先生】を訪ねた。
こちらは意識は万全だが全身満身創痍で、馬車に乗るのに痛がって大騒ぎの一苦労だ。
治癒ならフィリアスも使えるのだが、完治するのに再生が必要かも知れないのでマチアに任せる方が良いと判断したらしい。
そちらは命に別状が無い筈なので、とにかくお婆さんの診断が先だ。
御者に任せてまず近場の医院へ向かう。
医院の前に馬車を横付けし診察を申し込む。
キャスリィの真摯な説明とフィリアスの前金の威力で馬車の中で診察をしてもらえる事になった。
「胸の中に熱が籠って息苦しくなってるんだから見立ては素人でも肺炎だよ。病因と治療法を聞くために来たのに『本人の体力次第』って、医者もいい加減だな」
「でも薬を出してくれたわ」
「そうだね。何とか飲んでくれれば良いけどな」
診察を受けたものの発症から日が経ち本人の話も聞けないのでは、確かに診断も難しいだろう。
取り敢えず宿に戻って皆の帰りを待つしかないようだ。
*
「へぇ、そりゃご苦労だったな。フィリアス」
「うん。良くやったわ。治癒の判断もよかった。でも私だってこれに再生は使わない。同じ治癒でもあんたと私じゃレベルが違うからね。あんたのだったら傷口は塞がっても動きに不自由が残るから」
「問題はお婆さんだ。このままじゃジリ貧で弱ってく一方だろう」
「そうね。怪我してる訳じゃ無いから、治癒系の魔法も効かないし」
「ねぇ、チャンク、ティリオ。貴男達スキルを連繋させてるけど、あれってどうやってるの? あたしにも出来るかしら」
「どうやってって。同じ系統のスキルだしずっと一緒に居るから自然に出来てるんだが」
「何する気なの? エノラ」
「そうだ、マチア。貴女もギルァム様の【練成】と【幻想】を繋げてたよね、半身像とか作るのに」
「あれはギルァム様から繋げてくれてたから私はいまいち良く分かんないんだ。でもそれを知ってどうしようって言うの?」
「お婆さんの病気なんだけど、急激に悪化しない所を見ると胸の中の病巣はそう酷い状態じゃ無いような気がするの。でも体力が無いから病気で出来た膿や悪い水を外に出せずにどんどん苦しくなってるんだと思う」
「ほう、成程な。それで?」
「あたしはスキルで溜まった膿や水が息の邪魔をしてる音を聴くことができるけど、体の中の仕組みが見えないからそれを取り出すのは無理なのよね。でもチャンクの【感知】ならざっとした息の通り道くらいは分かるんじゃないかと思って。それが私に伝われば要らない悪い物を外に出してしまえるんじゃないかなって」
「なんか先生って、やっぱり凄い事考えるね」
能力的に1人蚊帳の外のフィリアスは、あたし達が戻って肩の力が抜けていつもの調子だ。
「考えるのも凄いのも良いが、俺にそんな細かな芸当は無理だぞ」
「チャンクが無理でも、ティリオならどうなの? あんた達の連携もコントロールしてんのは全部ティリオでしょう」
「まぁそれはそうだが。そんな簡単なもんじゃないんだぜ、マチア。俺等は同系統のスキルだからそう苦労はしなかったが、エノラのスキルは得体が知れない。どうやって連携すればいいか想像も付かないんだよ」
「そりゃ確かにあんた達は完全な同系統だし、あたしの相手は【練成】だけで無くて【鑑定】も持ってたから【幻想】とも広い範囲で【知覚系】で一括りになるけどさ。エノラのスキルだって『音を聴ける』のは【知覚系】に入るんじゃないの?」
「そりゃ無理にこじつけりゃそうなるだろうが。エノラのはどっちかって言えば【生成系】に近い様な気がするぜ」
「いや、ちょっと待てよ。マチアの【幻想】も【生成系】寄りだよな。ひょっとしたら直接は無理でも、マチアを経由するとかの方法はあるかも知れない。まぁ、どっちにしても大変なのには違いないがね」
「……って事はぁ。私がティリオとエノラ両方と連携出来れば可能性があるって事ね」
「おぅおぅ、責任重大じゃないか、マチア。大丈夫かぁ」
「さあ、どうだろ。とにかくやってみないと分からないわね」
*
「要はさぁ。魔力を連携させるんだから、魔法野が関わるのは間違いないでしょ」
「でもな、マチア。別に連携したからって魔法野同士が繋がってる訳じゃないぜ」
「そうなのよね。繋がるってイメージじゃないわよね」
あたし達が宿に戻ってフィリアスの話を聞いてから、【先生】への治癒や夕餉を挟んで今はチャンク達の部屋で連携に関する話が続いている。
因みに、チャンクとティリオの新しい剣と盾はやはり彼等にピッタリで、半日掛けて深層手前に達する頃には練度も上がってかなり使いこなせる様になった。
大丈夫と見込んで進んだ深層で2人で初めてムカデ型を倒してから戻って来た。
少しぼぉっと無口になっていたチャンクが『最高到達点だぁ!』って叫んだのは帰り道の鞍の上。
小さな魔窟だし町から近いからそこまで進んでも半日で帰って来れたのよね。
宿に戻る前に武具店に寄ってマチアが最後の1セットに手付を打った。
買い取りはフィリアスと一緒じゃ無きゃ折角の値打ちが無いから、手付金だけをね。
【先生】はマチアの治癒で傷は完全に癒えたけれど、精神的に疲れ切っていたみたいで宿にとった部屋でそのまま寝ている。
キャスリィは夕餉の後もずっとお婆さんに付き添ったままだ。
「うむうむ。どちらかと言えば打てば響くって感じか」
「そうそう、響き合うってのが近いかもな」
『ん? 響き?』ティリオとチャンクの言葉が耳に残る。
響き合うって【共鳴】?
【響く】も【鳴る】も音だよね。
実際そうならあたしの守備範囲かも知れないけど、これは頭の中の話……。
『えっ! ちょっと待ってよ。そう言えば頭の中にも【波】があったよね!』
あたしのスキル【天鳴】はその【波】も扱えたりするんだろうか?
明日もよろしくお願いします。




