第四章 大陸の探究少女 3話 おんな一人
今日もよろしくお願いします。
あたし達が魔獣狩りを昼の日課に北上を続けて一週間が過ぎた。
フィリアスは中型魔獣領域でチャンク達と一緒に狩りを始めた。
最初の獲物はツメヤマネコで、チャンクとティリオが他の数頭を相手取って1対1にしてくれた隙を逃さずに見事仕留めて見せた。
チャンクとティリオも中型魔獣相手なら例の特殊な連携なしにオーソドックスな以前のやり方でフィリアスのお手本を務められるようになっている。
小型魔獣は基本売り物にならないから宿への持ち込みにしたけれど、中型以上が引く手数多なのはイクァドラットと同じなので、出来るだけ店が開いてる時間に町に入って売り捌くようにしてる。
小型領域を通り抜ける時に倒す小型魔獣は邪魔にならない量だけを持ち帰る。
メニューを書き換える程じゃなくて賄い程度の量だけど、判で押したように女将さんの機嫌が良くなるので、宿に進呈するのよ。
今夜の予定は小さな魔窟が在るソルサイゾって町で、アテメア上陸初の魔窟探究をするために2泊する積りだから、少し多めに渡すようにしようかな。
チャンク達は元々別の北上ルートを考えてたのだけど、話し合って変更したのよね。
ソルサイゾは魔窟は小さいけれど古くから賑わった町で伝統的に魔具の開発が盛んなの。
チャンクとティリオが深層に潜って名実ともに上級の仲間入りをするには、やっぱり攻撃力不足の改善が不可欠。
探究者がステップアップするのに魔具や武具を工夫するのは良くある事。
何も出来ない初級者が魔具なんかに頼っても赤字で自分の首を絞めるだけなんだけど、中級以上の者には何の差し障りもないし、遅いか早いかの違いだけだと思う。
これまでよく長剣と手盾だけでやってきた……っていうか、スキルのおかげでこれまでほとんど悩まずにやって来れたんでしょうね。
そんな訳で今日は魔獣狩りもそこそこにソルサイゾ目指して馬を駆けさせてる。
*
「なぁ、どんなのが良いと思う?」
「そうね、やっぱり使い慣れた形は変えない方が良いんじゃないかしら」
「それじゃ、やっぱし剣と盾か」
「うん、いざと成れば魔力無しでも使える方が心強いよね。魔力で機能を底上げしてて、出来れば魔法も放てるとかがあれば良いんだけど」
ソルサイゾの探究者ギルドにライセンスの提示を済ませて、今は近場の魔具店に居る。
ギルドでも武具は売っているが以前2人が『旧王国のギルドほど付帯施設が充実していない』って言ってた通り、間に合わせ程度の物が幾つか飾られていただけだ。
ティリオが腕組みで少し悩んでいる風なのに、チャンクは自分で考えるのを端から諦めているのか、一番根本的なところからあたしに訊いて来た。
「そりゃあ、魔具はピンキリで金さえ出しゃあ選び放題だけどな。予算に限りが有るのは分かってくれてるよな」
「ここでケチって現場で高い代償を払うなんて散々聞かされた昔話みたいだけど、よくある話にはそれなりに実績が有るものなのよね」
「相変わらず嫌な言い方するよな、マチア。まぁとにかく条件を絞って、値段は後で悩めばいいっか」
不思議なものでどれ程真剣に探しても縁が無い時には見つからない物が、まるで呼び寄せたように現れる時がある。
今がまさにその時みたいで『今売り出し中の魔具工房の新作が昨日入荷しまして』と店主が店の奥から出して来たのが、まさに長剣と手盾の2組だった。
『この2組は付加魔法が違うだけで、それ以外は全く同じ長剣と手盾でございます。基底的な付与によって生活魔法以下の魔力消費で継続的に強化され、似た形状の通常武具の2分の1の重量で倍の切れ味と強度を維持します。赤い修飾の方に熱系、青い修飾の方には冷却系の温操系魔法が付加されておりまして、ご本人もしくは装着魔石の魔力で剣からは灼熱投槍又は氷柱槍を、盾からは灼熱又は凍結を放ちます。更に、盾には浮遊剣に浮動が付加され、慣れればかなり複雑な飛行も可能との事でございます。また更に、盾に予備の魔石を装着しておりますと、通常の剣速を超える接近に対して感応式の結界を一瞬だけ立ち上げるようになっております』なんて、まるで2人のために誂えたとしか言いようが無いわ。
値段を聞いて目を丸くした2人が固まっているのに、思わずあたしが『買います!』って叫んでしまった。
確かに高いけど、チャンク達が今ギルドに預けてる金額の倍にしかならない。
あたしの預託金だと1つ10分の1以下だもの。
「即金で払うけど、明日魔窟で試してダメだったら返品するからね」
「おぃおぃ、俺達払えないぞ」
「貸してあげるから買いなさいよ。これが売り口上通りなら甲虫以外の深層魔獣が倒せる様になるわ。そしたら借金なんてあっと言う間に消えてなくなるんだから」
「はぁあぁ。まあ返品可能ならそれでもいいけどよ」
「ねぇ、店主さん。お支払いはキルドの預託金だから、このままギルドに同行出来るかしら」
「はい、問題ございません。それと実は明日同型品がもう1点入荷します。温操系を電操系に置き換えた物で、襲雷と襲雷送撃が放てる黄色の修飾品でございますが」
「あぁ、それはあたしが手付を払うわ。明日問題が無ければそれも買うから」
「おぉ、誠にありがとうございます。素材が限られておりまして、工房でもこの3組以外はいつ作れるか分からないと言っておりましたので、これは誠に良い買い物をされたと存じます」
ギルドに気が向いていたあたしが『それも買う』を口にする前にマチアが手付を打ったのはフィリアスの分だ。
フィリアスはまだ膂力が付いていないので剣も楯も小さな軽い物を使っているけれど、それでは大型や超大型を相手取るには心許ない。
半分の重さで通常の武具以上の性能があるなら、それだけでも充分に役立つ。
もちろんそれだけの為に払えるような金額ではないけれど、あたし程じゃないけどマチアだって預託金は潤沢なのだ。
魔法の師匠として可愛い弟子の将来への投資とか、そんなことを考えた訳でもなくて只これまでの流れに乗っただけなんだろうけどね。
*
翌朝、現役探究者の4人はソルサイゾ魔窟に向かったのでフィリアス1人が宿に残った。
エノラが置いて行った【宿題】を粗方片付けて『あぁぁ、疲れた。よくあんなの考え付くよなぁ』と呟きながら部屋を出る。
階段を下りた先は宿の食堂だが昼餉時真っ最中で満席だ。
それは予測していた事で恐らく他の食堂も大した差はないだろう。
表に出て宿屋の裏手に回り、馬繋場に残った白馬の所に向かった。
『留守番同士、仲良くやろうな』などと声を掛けながら馬毛ブラシを持ち、毛並みを整えてやる。
「アンタの馬かい? ガキの癖に良い馬に乗ってんだね」
背中から女の声が掛かった。
振り向くといつの間に近寄ったのだろう、すぐ目の前に立っている若い女ひとり。
若いといっても彼より二つ三つは年上、おそらく成人を迎えたばかりの15歳と言ったところだろう。
「ここに凄腕の若い探究者が泊ってるって聞いて来たんだけど居ないみたいだね。当てが外れちまったよ」
「あぁ、師匠達なら魔窟に行ったよ。何か用だったのかい?」
「そうだよなぁ。こんな時分に来たって居る訳ないよね。あれっ? アンタ今、師匠って言った? ひょっとして凄腕さんのお弟子さんなのかい」
「君が言ってる凄腕が誰の事か分からないけど。ここに泊ってる4人のうちの誰かなら、僕は弟子に違いないよ。『まぁ一番の凄腕は師匠じゃなくて先生だけど』」
「そうか! 凄腕さんの弟子なら話が早い。ちょっとばかし話を聞いてくれないかい」
「聞くだけなら構わないけど。聞いたからには何とかしろとかは、言いっこ無しだよ」
明日もお待ちしております。




