第四章 大陸の探究少女 2話 それがダイジ
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大陸の町だからと言ってイクァドラットとそんなに違うところがあるわけじゃない。
そうは思うけど、夕暮過ぎに入った街並みは辺りの薄暗さも手伝って様子が分からない。
チャンク達も初めての町だそうで、馴染みの宿がある訳でもない。
大通りなのか広い道の両側に向かい合った2つの宿は同じ様な規模に思える。
取り敢えず少し手前で立ち止まって様子を見ていると右側の宿の方が流行っているのか、人の出入りが多い。
まずはそっちに入って3部屋空いてるか尋ねるが1部屋しか空きがないと言う。
チャンクが向いへ駈けて行ったのであたし達も通りに出て待つと、宿から姿を現したチャンクが両腕で頭のまわりに大きな丸を作った。
馬繋場は裏手だそうで、そちらへ6頭を牽いて行くと店の中を抜け出たらしいチャンクが待っていた。
『ほら、あの馬の背を見ろよ。あれ全部魔獣だぜ。どうだ、宿代にゃ勿体ないほどだろうが』と売り込みも済ませているみたい。
チャンクと一緒に居た少年が目を丸くして裏口に飛び込むと、少しして前掛けを着けた男が出てきてこれも驚いた表情でチャンクと短くやり取りを交わした。
「裏口の中に仕分け台が在るから、それに載せといてくれないかってさ」
「了解。みんな、運んじゃお」
チャンクとマチアの話を聞いて、それぞれ振り分け荷姿の小型魔獣を持てるだけ裏口の中まで運んだ。
最初に持ったチャンクとティリオがもう一度運んでシルファの背が空になる。
「それじゃ、部屋へ入ろうか。こっちだぜ」
チャンクが建物の奥へ進むのについて行くと廊下を抜けた先は宿のカウンターの横で、その先玄関までは吹き抜けの食堂だ。
食堂の壁沿いに折り返して造られた階段を上った所は吹き抜けに面した2階の廊下で、その途中で直角に分岐している。
そこに立つチャンクが奥を指差した。
『突き当りが女子2名、その右手が俺等の2人部屋で、左がフィリアスだ』
そう立て込んでも居ない食堂からどよめきが伝わったのは、品書きの黒板に魔獣肉のメニューが追加されたからじゃないかな。
その夜は魔獣肉の煮込みに舌鼓だったんだけど、この宿があまり流行らない理由が分かった気がした。
味付けそのものは悪くはないんだけど煮込みソースが濃過ぎて折角の魔獣肉の旨味が活きていない。
まぁ不味くは無いから格安の魔獣料理に他の客達は大喜びだったけどね。
その中の1人にチャンクが入ってるのをマチアがまた『馬鹿舌!』なんてぼやいてる。
先を急ぐって言うか、あたし達は魔獣狩りをしながらの移動になるので1つの街に長居するつもりもないから、そこはもうこの店の持ち味でいい。
*
翌朝は夜明けに合わせて、朝餉を取らずに出立した。
昨夜のうちに魔獣肉を燻しただけのを包んでもらって、各自それを齧りながら進む。
正直、夕餉の煮込みよりも燻して塩味を足しただけの魔獣肉があたしやマチアの好みに合う。
齧った魔獣肉を呑み込んだマチアが話しかけてきた。
「今日は中型も狩るのよね」
「うん。狩るかどうかはフィリアス次第だけど一応中型領域までは入るつもり。まずは魔獣をよぉく見て慣れてくれないとね」
「中型狩りならチャンクやティリオが適任だよ」
「そうだね。きっちりとお手本になる狩り方を見せてくれると良いんだけど」
探究者として普通に認められるには卒なく小型魔獣の群れを倒して魔窟低層前半を闊歩出来るだけで充分だけど、最低でもそれを中型魔獣と低層後半に置き換える力が無ければ仮ライセンスは貰えない。
本来の年齢制限を度外視させるにはそれなりの説得力が必要なのは当たり前で、普通には到達できない領域に簡単に踏み込める才能、もしくは努力の成果を見せつける以外の手段はベテラン上級者の旦那様も知らなかった。
中型魔獣の領域で何不自由なく活動出来るのは確実に中級探究者で、探究者を目指す者にはそこまで到達できずに終わる事も少なくない。
出会った頃のチャンク達は中層に達して大型魔獣を倒していたので上級の手前まで来ている。
でも、それはすでに第一線で5年近く活動しているからで、その彼等に近い力を証明しなければならないのよ。
『お手本』と言ったのは文字通りの事で、フィリアスに武技を教えた彼等自身が目標としての姿を見せてくれるのを期待してる。
フィリアスとは船旅だけの付き合いのつもりで天地流を教えなかったから、あたしやマチアをお手本には出来ないんだ。
実はそれと同時に、彼等自身にも【上級手前】を卒業して欲しいので基本の部分でどんな課題があるかをこの際じっくり見せてもらおうって思ってる……のは内緒だけどね。
*
「もう上級者でいいんじゃない」
「本当かぁ?」
「うん。2人1組が大前提だけどね。1人だけじゃ駄目駄目」
「なんだよぉ、それ」
中型魔獣の領域で2人が見せた連携が面白くて大型魔獣領域まで足を伸ばした。
魔獣狩りを終えて街道に戻り、チャンクから感想を聞かれたマチアの答えはちょっと分かりにくい。
「マチアが言いたいのは、多分2人の連繋がとんでもなくスゴイって事だと思う」
「そうかい?」
「えぇ。探知系を駆使した連繋で完全に盲点の無い結界状態を2人の周りに作り上げてるのね。只、スピードは申し分ないけど個人の攻撃力はやっぱり弱い。まぁそれも2人の連携攻撃で上級者個人並みの攻撃力を生み出して解決済みだし。良いと思うんだけど」
「だけど?」
「多分、すっごく絡みにくい……。そうよね、エノラ」
「うん。2人だけで中層を行くには完璧だと思うけど、2人1組でその攻撃力はやっぱり深層じゃあ全然足りない。で、深層に潜るにはパーティを組まないといけないんだけど」
「アンタ等2人の連係が完璧すぎてきっと他のパーティメンバーが付いてけないわ」
「そうなのか?」
「えぇ。近距離向きのチャンクの【感知】を同系統のティリオの【探査】で共有しながら、冷静なティリオの分析判断を運動神経抜群なチャンクの反射速度で2人同時展開の動きに繋げてる。見てもどうしてあぁなるのか分からなし、理屈で理解しても普通は生理的に受け付けられない……って、これがマチアが言った『付いてけない』の正体」
「それで、なんでお前等はそれが分かるんだ?」
「あたし達の流派じゃあ似たような事が自然に出来る様に鍛錬が体系付けられてるの。もちろん感知範囲も共有の仕方もあんた達とは全然違うけど、似たような事をしてるから分かるのよね」
「まぁ、今すぐ問題が起きる訳じゃないし、2人が深層を目指す時までに考えれば良いんだけど。問題はフィリアスの事よねぇ」
「どうしたんだ?」
「2人の中型魔獣狩りの様子をフィリアスのお手本にする積りだったんだけど、いつの間にかあんな連携ができてるから相方の居ないフィリアスが参考に出来なくなっちゃたのよね。私達のは元から参考になんないのが分かり切ってたから、どうしたもんかなって」
「確かに、今はそっちの方が深刻かもな」
「まぁ、エノラと2人で考えてみるわ。こっちも期限が決まってる訳じゃないから」
「ごめんね、皆。僕の為に」
「いいんだってよ。全部師匠に任しとけって」
お気に入りの白馬の上でじっと聞いていたフィリアスが申し訳なさそうにペコリと頭を下げたのに、チャンクがいつもの安請け合いを返す。
「師匠は駄目なんじゃないか。一番頼りになるのは【先生】みたいだからさ」
「そんなのどっちでもいいだろ、ティリオ。誰が頼りとかじゃなくて最後の結果、それが大事なんだからよ」
『チャンクは相変わらずだね』とマチアと視線を絡ませて微笑む。
フィリアスが欲しい結果は【探究者】じゃなくて、クラムザッツ総統に誇れる【成果】だろう。
あたし達が提案した【探究者】はその資金を稼ぐための方便に過ぎない。
だからもっと肩の力を抜いてチャンクぐらい気楽に考えても良いのかも知れないよね。
明日もお待ちしております。




