第四章 大陸の探究少女 1話 まちのあかり
今日から本編(エノラの物語)復帰です。
どの話も中途で切り替えになるのはご容赦いただければ幸いです。
暴風雨帯を抜けた後の航海は順調そのもの、たまに風雨に見舞われる事もあるけれど散々嵐を経験してきたあたし等にとってはお湿り程度の気分だったりする。
ヒェロゥム・スァンズからの連絡は2度とも調査難航の報告だった。
成果が無くても報告するのはクラムザッツ総統への告発を牽制するためだよね。
明日にはカゼノム港に着く予定なのに海賊騒動の真相や黒幕について何も分からず仕舞いで、あたしとマチアは船を降りてからの予定を決めかねている。
チャンクとティリオはどちらにしても一旦故郷のセムリに戻りたいらしくて、フィリアスはマジャンの親戚に断りを入れて彼等に同行する積りだと言っていた。
確かに武技の鍛錬が一段階上がったばかりで今止めると中途半端になるみたいだから、それに片が付くまでは一緒に居る方がいいんだと思う。
フタリノ島のハァモニ港でスァンズの厳ついナビゲータを伸したのを見ても分かるようにフィリアスの実力はかなり上がっていて、今直ぐ探究者になっても初心者の域はとうに越えている。
少なくとも低層でマゴマゴする様な事は無いから、チャンク達の故郷に魔窟が在るならそのまま探究者登録をしてしまうのも1つの手だろう。
あたし等やチャンク達と一緒に潜って資金を稼げば、親戚に頼らなくても自前で好きな事が出来るし、そのための知識はあたしがみっちり教え込んだからね。
*
「やっぱり報告は来なかったな。もう突堤が見えてきたが、どうするんだ?」
「うぅぅん、どうする? エノラ」
「ねぇ、昨日ティリオが言ってた故郷の魔窟って実際どんな感じなの?」
「あぁ、旧四公国連合の中でも最も古くに制覇された魔窟の1つだ。当然宝箱なんかどこを探しても見つからないが、その分地図や魔獣分布分析は充実していて潜り易いのは確かだな。イクァドラットの魔窟の外でえらく高い値で売ってる分布図より、あそこの入り口で無料配布してる奴の方が余程詳しくて解り易い。それに深層はきっちりカブトとクワガタまで出るからエノラやマチアの力試しにはいいかも知れんな。俺達は御免こうむるがね」
「ギルドはどうなの?」
「ちゃんとした方だと思うぜ。旧王国系のギルドの方が付属の宿や飲食は充実してるみたいだが、そんなのは外に出りゃどこにでもあるんだ。魔窟の管理さえしっかり出来てたら充分だろ」
「それはそうよね。でもさ、セムリって旧四公国連合の北の端じゃなかったっけ? カゼノムから酷く遠いんじゃないのかな」
「あぁ確かにセムリは陸央山脈寄りで北側だけどな、アルテのアルトスよりはずっと近いし、フィリアスの親戚が居るマジャンのトケアまで行く事を考えりゃほんの散歩みたいなもんだ。イクァドラットみたいな島国と違って大陸だからなアテメアは。移動のスケールは置き換えとかなきゃ後々苦労するぜ」
「分かった。ありがと、ティリオ。ねぇエノラ」
「なぁに」
「どっちみち何処の魔窟に行く予定だったんだから。そこでもいいんじゃない?」
「じゃあ、そうしようか。アテメアは初めてだから2人だけよりは安心って事で」
ほどなくカゼノムに入港し乗務員達が着岸作業をする間にあたし達も下船仕度をする。
自分達の手荷物はとうにまとめてあるけれど、馬達も一緒に降りるので馬小屋の掃除や馬場の片付けも含めて作業が残っていた。
どのみち他のお客が降りてしまわないと馬達を中央甲板の降り口まで連れていけないので、わざと作業を残してある。
もちろん別料金を払えばしなくて済むしお金が無い訳でもないんだけど、探究者が馬の世話を面倒がっていたらそれこそ本末転倒よね。
作業自体は慣れたものなので、他の乗客が降りた頃にちょうどいいタイミングで自分を清浄で身綺麗にしてタラップに向かう事ができた。
着岸前後には大忙しの船長達との挨拶は入港前に済ませてある。
「昼飯前にフィリアスの馬を買いに行くんだよな」
「うん、いつまでもシルファは貸せないからね」
あたしは相変わらず痩せっぽちだけど、背丈が伸びた分だけは確実に重くなってる。
ダフネが嫌がる事はないけれど長距離をずっとだと負担が大きくなると思うので、これからはシルファと交互に乗るようにする積りだし、チャンク達と同行するなら当然フィリアスも自分の馬を持つべきだからね。
勝手を知ってるチャンク達の案内で港町を抜け出て小さな牧場に入る。
かなり離れた所の大きな牧場で育てた馬を売りに出してるそうで、チャンク達の馬もここで買ったらしい。
フィリアスは真っ白な牡馬を一目で気に入ってしまったみたい。
見た目優先で少し割高な感じもしたけれど良い馬には違いないので誰も反対せずにすんなりと即決で購入が決まった。
肉類や野菜の売り場もあり、横手の空き地で火を熾して串焼きをする事もできる。
あたし達はたっぷり食材を買い込んで久し振りの地上の食事を愉しんだ。
ダフネ達も新鮮な野菜をたっぷりと食み味わったでしょ。
その日は午後だけの行程でカゼノムから20キロ余り北の町で宿をとった。
もう少し進む事も出来たのだけど途中で街道を外れて魔獣を狩る事にした。
あたし達が同行すると言う事はフィリアスの仮ライセンスを視野に入れるのと同じ事だとマチアとあたしは勝手に思ってるし、実際それは全然無理な話じゃないんだけど難しいには違いない。
正直あたしやマチアに比べると対人戦や魔法の実力は格段に落ちるから、審査員を圧倒して合格をもぎ取る事は出来ない。
魔法に武技に魔獣や魔窟に関する知識などの総合力で審査員を納得させなければ駄目なのよ。
でも本来仮ライセンスが発行された者のほとんどはそんな人達で、あたし等みたいなのが特殊なんだからね。
ただ、ギルドにも国や地域で少しずつ違いがあるみたいだし審査員との相性みたいなものもあるから、これが出来れば大丈夫って保証は誰も出来ないんだと思う。
とにかく、地上に出てくる魔獣くらいは全部狩れないと話にもならないんで、今日は手始めに小型魔獣から始めてみたって訳なの。
航海の間のチャンク達の薫陶よろしく、ちゃんと実力がついたフィリアスは小型魔獣を苦にせず、三四頭の群れまでなら単独で倒す事が出来た。
「どうだ、マチア。俺の教え方が良いんだぜ!」
「これはフィリアスが真面目に取り組んだ成果で、アンタが偉ぶる様な事じゃないよ」
「教え方が悪きゃフィリアスが真面目だろうが不真面目だろうが、上手くいきっこないんだぜ」
「だからぁ、上級に手が届きそうな探究者が、そんな出来て当たり前のことを自慢してどうするのって言ってるのよ」
「そんなに言わなくてもいいだろうが」
「まぁまぁ、とにかく今日はめでたく合格なんだ。宿に獲物を持ち込んで宴会と洒落込もうじゃないか!」
小型魔獣を縛って振り分け荷にしたのをシルファの背に山ほど積んでいるのは、チャンクとティリオが面白がって狩った数頭を除いて全てフィリアスが仕留めた獲物だ。
小型魔獣は肉が小さいから出来る料理は限られるけれど味は中型や大型にも劣らない。
料理を出す宿ならば、これだけ持ち込めば5人どころか10人でも宿代は取られないだろう。
もちろん皮だってパッチワークの手間を掛ける気さえあれば上級の防具素材になる。
ただ、手間の割に高くは売れないから職人は中型魔獣のパッチワーク品しか作らない。
もし身に付けている探究者いるならそれは本人か周りの者の手作りが殆どなんじゃないかな。
こんな感じであたしとマチアの大陸到着初日は終わりを告げる。
夕暮時に行先に見えた街の灯りは久し振りの陸地での1日を実感させた。
あぁそう言えば、フィリアスにとってもアテメア大陸は初めてだったね。
明日もお待ちしております。




