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第三挿話 亡国の小公女  10話 アンウン

早い物で100回目の投稿と成りました。

今週もよろしくお願いいたします。

 パラメニィは上目がちにランスールのをじっと覗き込むように話しはじめた。


わたくしはセムリの下級貴族の流れを汲む者で、エノルはわたくしが大変お世話になった方の遺児に当たります。ウチの本家が何処の何某なにがしでエノルのお父様が何方どなたかをお話しする事は出来ませんが、お父様が亡くなった事でエノルがセムリに居れなくなりましたので、わたくしは彼女に同行して国外に出る事になったのです。そしてその時すでに彼女は娘のような存在になっていたのです。実はわたくしは若くに嫁いだ経験がありまして2度妊娠もいたしましたが、どうも相手との折合いが悪かったようで全て流れてしまい、それが原因で別れる事になりました。彼女に対する気持ちもその経験が関係しているのかも知れませんね」

「成程な。何か事情があるとは思ったが、随分と入り組んだ話なんだな。それで国を出てからどうしたんだい」


 パラメニィが息を継いだすきを埋める様にジャンガが次を促した。


「はい。セムリと縁が遠いカンジュが出国先になったのですが、これが中々に大変で。我々がセムリの出と知れるとたちまち誰もが嫌な物を見る眼付きになってまるで誰も居ないかのように相手をされなくなるのです。それでも何とか数少ないよすがに頼って生きて来たのですが、何とセムリがアシュバの手先になってカンジュを攻め出しました。青天の霹靂とはまさにこの事でこうなっては無視するどころか、八つ裂き良くて精々吊るし上げが運命さだめの身に成り果てました。とは言え元々国を出る理由があってセムリに戻る事も叶わず、這う這うの体でナクラに向かったのです」

「そこで俺と出会ったのかい」

「出会ったと申しますか。何の準備も出来ずに飛び出したものですから、たちまち困り果てる事になりました。何とか気力を振り絞って山道を歩いておりましたが、とうとうわたくしが足を踏み外して崖下に落ちてしまったのです。まだ幼いエノルですが魔力はずっと強いのでわたくしを見つけ出して生操系で救ってくれました。しかし、わたくしの意識は戻らず、エノルも魔力枯渇で倒れてしまったところへ、通り掛かったのがジャンガさんなのです。その節は本当にありがとうございました」

「いやいや、俺達が助けなくても次の日にはちゃんと目を覚ましていたんだし、きっと大丈夫だったんだ。その後無理矢理連れ回す事になったのは、こっちが申し訳ないな」

「しかし、その御蔭でこうして私と出会う事になったのだ。お二人が良くても、私から礼を言わねばな、ジャンガ殿」

「やめてください、男爵様。尻がむず痒くて座ってられませんや」

「ジャンガさん、下品ですよ」


 エナレィシェが久し振りに口を利いた。


「少しだけ、良いでしょうか?」

「何かね、えぇっ……と、エノルさん」

「私達は出来ることなら大公国や公国のどこから離れてしまう積りだったのです。この5国は否が応にも深い関係にありますし、アシュバとセムリが手を組んでカンジュを攻め落とせば、ナクラとツフガも軍門に降るか、良くても属国まがいの同盟を組まざるを得ないでしょうし、それでセムリの者に見つかっては私が困ってしまうのです。そこで、ナクラを抜けてアルテ王国に向かう事に決めていました。今もし男爵様がパラムを見染めていただいたとして、私が困る状況ではパラムも色好い返事は出来かねるのではないかと」

「成程、少々厄介な問題ではありそうだが、今は一旦保留と言う事にさせていただこう。それに関して悩むのはお互い条件が満たされるかどうかを確認してからでも良いのではないかな。もしそれがそちらからの条件だとするなら、私の条件をクリアしてから話し合うのも手ではないかな」

「そうでございますとも。まずは男爵様のご条件ですが、最低でも準騎士爵級の魔力でございましたな」

「いや、男に二言有りで申し訳ないが、条件を変えさせてもらおう。最低ラインを準男爵とする代わりに、男爵級を越える魔力があれば将来の約定を側室ではなく正妻とさせていただくが、いかがかな」

「ヒュェッ! 男爵級超で正妻でございますか! しかしご当家は男爵様でございますよね。それを越えるのは条件としていかなものかと」

わたくしは別に構いませんわ。でもどのような試し方をなさるのかしら」

「私はね、男爵家に生まれたが、成人前から男爵に負けた事など無い。成人後に負けたのは伯爵様だけだ。勿論それ以上の御方はこの国では男爵の相手などしていただけないがね」

「まさか男爵様がお相手の手合わせなどと……」

「ふむ。それで行こうと思う。私と互角ならば子爵越え、3分凌げば子爵、1分で男爵越え、30秒で合格の準男爵という事でどうだろうか」

「いやぁ、どうかと言われましても」

「得物は何でもいいのでしょうか?」

「あぁ、貧乏所帯だったが武具だけは贅沢する家系でね。中の武具庫に女性向けも揃っているから選べば良い。準備が出来たら早速始めるとしましょう」

「はい」


     *


「ねぇ、パラメニィ。あの時の【試し】って少し手を抜いてたわね」

「やはり分かりましたね。確かに魔力はアムメッテ男爵の方が少し高いようですが、魔法だけで戦闘結果を左右するのは侯爵級以上でなければ難しいでしょう。武技については私の方に分があるので、1対1で真剣に闘えば私が有利だと思います」

「だから武技を控えめにして男爵に花を持たせたのね」

「僅かな事ですよ。ぎりぎり勝てそうなところを向こうの優勢勝ちに持ち込んだだけですもの。あそこで勝っても誰の得にもなりませんわ」

「男の人の強さは大事なプライドなのよね。勉強になるわ」

「それにしても男爵であの強さは特筆物です。子爵家が娘を嫁に出してその後も支援を続けただけの事はありますね」


 2人が乗っているのはジャンガの馬車ではない。

あの日一度ジャンガの馬車で街に戻り、この2日間にアムメッテ家からの結納金で身の回りの物を買い揃えた。

今日の馬車はどうやらアムメッテが新規購入した物らしく、こじんまりした質素な造りだが乗り心地は良く、後部の荷台はそこそこの荷が積めるように成っている。

キャビンには2人だけなので今は遠慮なく話ができる。

御者の牧童君は数少ない男爵の家臣の1人で、童顔で若く見えるがもう二十はたちを過ぎているそうだ。

なんと正規の家臣は彼とあの時の女中に、狭い農場と庭園の管理をする庭師の3人だけで、他は牧場の作業者として都度雇用している者達だと言う。

『それは確かに貧乏暇なしね』とエナレィシェは笑ったが、家宰候補の若者とメイドと庭師が居ればなんとか体裁は保てるものの困窮していた頃は3人を食べさせていくのも大変だったのではないだろうか。


「でも息子さんが実母おかあさんの所へ行ったと聞いて驚いたわ」

「亡くなった奥さんが居る頃から男爵が内密に会わせていたみたいね。生活費は男爵家から援助するらしいし、一般人並みの魔力ならそうするのが一番よ。娘さんはある程度の魔力持ちなので、知り合いの準男爵家に輿入れが決まって既に花嫁修業で先鋒に入ってるそうだし。私としては気が楽でいいわ」

「私を男爵家の養女扱いでアルテに留学させてくれる話も何とかなりそうだし、心配なのは戦争の行方だけ」

「それが一番の問題なのだけどね」


     *


 馬車を出迎えるテンラァトは破顔大笑、諸手を広げて2人を出迎えた。

家具は部屋ごとに造り付けの物が在るので、買い込んだ身の回りの品を運び込むだけの簡単な引っ越しだ。

しかし午後には小の月の司祭を呼んで正式な婚礼を挙げた。

白い質素なドレスもパラメニィが着るとメリハリの利いた胸や腰が強調されて見栄えがいい。

来賓は寄り親のメトランツ伯爵夫妻と子息だけだが、近所の豪農や大商家の出席で賑わった。

少し酔っ払ったテンラァトと初めての夜を過ごしたパラメニィが翌朝の寝床で幸せを噛み締めていると、寝室のドアが勢い良く開いた。

もちろんドアからベッドの位置が見通せない事を知っての事だが。


「お義父とう様、お義母かあ様、大変! アシュバ・セムリ連合軍がカンジュの完全平定を待たずにナクラへ転進したそうよ! 伯爵様から参陣要請が届いたって牧童君マルードが言ってるわ!」


 順調かに見えたエナレィシェ達の先行きへ急激に暗雲・・が立ち込める。

挿話はここで一旦休止、

明日からは本編に戻らせていただきます。

明日もまたお待ちしております。

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