第一章 商都の孤児少女 10話 うえを〇いてあ〇こう
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「それにしても孤児院への偏見はずいぶんと根深いみたいね」
ジュラネルさまが教都カンツォに向けてナムパヤを離れたころにお嬢さまからたずねられた。
お祭りの夜にあたしをつるし上げようとしたドラ息子たちのことを気にかけていたみたいで、まずはあたしから話を聞いてみようという事らしい。
「成程ねぇ。大人の事情はともかく、子供たちは実際食うや食わずぎりぎりの生活なのね。教育もほとんど受けられなくて仕事も肉体労働しか受け皿がないから、体が出来上がらない子供のうちは施しを受けるくらいしか収入の道がない。体力系のスキルでも無ければ辛いばかり。世間から鼻つまみにされるような育ち方をする子が出るのも分かるし、そんな子が一定数居れば全員がそう思われても仕方ないかも。でもよく貴女、そんな環境でまともに育ったものだわ」
「はい、あたしは近くの物知りなおばあさんと仲よしだったので、いろいろ教えてもらいました。おばあさんもビンボウだったのでお腹のたしにはなりませんでしたけど。おばあさんが亡くなって孤児院を出たくなった時タリアンさんに出あえて本当によかったです」
レベッサさんにそう言ったから、とうぶんこのウソをつき続けないとダメなのよね。
こんなウソがメルノアさまにどこまで通じるかは分からないけどジロリと見られた目にあるのはいぶかしさの色だけなので、まだまるきりウソだと思われてはないでしょ。
じっさい孤児院にはなんの思いいれもない。
たしかに捨てられていたあたしを育ててくれたのはありがたい。
でも自分が食べていくためにそこにいる人がほとんどで、孤児がひもじい思いをしていても自分たちはじゅうぶん食べるだけのお金を得ていたし、その他にいたのは『人のために何かをする』事をたのしむためにあつまるヒマ人だけ。
赤ん坊の時はヒマ人たちがよろこんで手をかけてくれるので赤ん坊が死ぬ事はめったにないけれど、物心がついたら役所からお金をもらう頭かずのためにギリギリのごはんで生かされるだけ。
読み書きを教えることになってはいるけど、それが大事なわけを教えてくれる人もほめてくれる人もいない。
だいいちお腹のたしにもならないのを、どこのだれががんばるって言うんだろう。
「知ってしまった以上、このまま放ってはおけないわね」
メルノアさまの言葉に目を上げたあたしの顔がよっぽどマヌケて見えたんだろうか、鼻にシワをよせて言葉をつづけた。
「何をポカンとしているの。早急に孤児院の状況を改善して世間の評価を改めないと、また私の小間使いが不当な扱いを受けるかも知れないのよ。明日朝から早速動くわよ」
*
朝から孤児院にのりこむのかと思ったら店のほうでカザムさんをつかまえて、あたしがいた町にある取引先をしらべてすべて書き出した。
そしてさらさらと書きあげた1枚をレベッサさんにあずけ、字のキレイな奉公人に先ほど書き出した取引先の数だけうつしを作って、ほかの奉公人にとどけさせるように言いつけた。
もちろん写しはレベッサさんが目をとおしてバクルットとメルノアさまの書印をおすのだ。
そこまで済ませるともう一度カザムさんに耳打ちをして表へ出た。
空にはうすい雲がひろがっているけれど日が高くなればキレイに晴れそうな気がする。
店の使用人でも体が大きくて目立つ2人がお供についてお嬢さまが歩きだすと、あたしのつぎに若い見習いの使用人が横をすりぬけて走って行った。
辻馬車をつかうようすはないから行き先はあたしがいた町でまちがいなさそうだ。
まるで散歩のようにのんびりとしているのは、見習いくんが仕事をすませる時間を見はからっているんじゃないかしら。
やっぱりお嬢さまが向かったのはあの町、あたしがよく行った商店街だった。
ようやく開いたばかりの店が多くて人どおりはまだ少ない。
ゆっくりと店をながめながら辻ごとに横道のようすもしっかりと見て進む。
そんな感じで商店街のまんなかまで歩いて大きな甘味屋の前に立ち止まる。
店の前には客あしらいがじょうずそうな女給さんが待ち構えていた。
『いらっしゃいませ』と大きく開かれた戸口をお嬢さまがくぐると、女給さんはお供の2人やあたしも入るようにうながした。
あたしたち3人は入り口近くの席に、メルノアさまはずっと奥の席にとおされる。
注文をとりにくるようすもないので手はずはもう決まっているんだろう。
しばらくすると店の戸があき、見習いくんが姿を見せる。
ぺこりとお供の2人に頭を下げながらお嬢さまを見つけてそそくさと近づき耳うちをした。
メルノアさまがうなづくといそぎ足で店からおもてへ出る。
すぐにもどった彼とあらわれたのは、やっぱりタリアンさんだった。
なんだかすごく遠まわしなやりとりに思えるけれど、お祭りのような時は別にして若い男女がおおやけに会うのはそれなりの場でないとダメなのよね。
ちゃんとしたお店で店の人やお供が見ている前でなら、かげ口を利かれることもない。
タリアンさんがメルノアさまの方へ歩きだすと、見習いくんはまたぺこりとしながらあとずさって店の戸をしめた。
帰る彼の足音がスキルにさびしくひびくのは甘味屋がなごりおしいのかも。
タリアンさんがお嬢さまの向いにすわるとお店の人たちが動きだす。
見習いくんはちゃんと仕事をしたみたいで、何も言わなくても大きなパフェがあたしたちの席にも出てきた。
シラタマだんごやカンテンにアズキあんまで入っているのを『クリームみつまめ?』なんて言ったらお里が知れてしまうかな。
すっごくおいしそうでよび名なんてどうでもいいんだけど、『こんなに甘そうなのを食べるのかな』と見ていたら、お供のあんなにいかつい2人が顔を幸せそうにとろけさせて食べはじめた。
やっぱり人って見かけによらないのね。
お嬢さまたちのようすを気にしながらあたしも口をつける。
ふつうなら聞こえるわけがないのがスキルでちゃんと分かるんだけど、あんまりパフェがおいしすぎて思わず聞きのがすところだったわ。
孤児院の話がタリアンさんとどうつながるのかあたしには見当もつかなかったけど、なるほどねぇ。
あそこで育ったあたしが思いもしなかったことを話を聞いただけでそこまで考えるお嬢さまもスゴいけど、それを受けてこの場でこたえるタリアンさんもハンパじゃない。
【阿吽の呼吸】ってこんな感じなのかな。
お供の2人は早々に食べてしまったので、お嬢さまたちの話を気にしていたあたしがはまだ半分ほど残っているのをうらやましそうに見ている。
でも急に話がすすんでもう終わりそうだ。
あたしが残りをあわててかき込んだのとお嬢さまたちが席を立ったのが同時。
あたしはほっとムネをなでたけど、ほとんど手が付けられていないパフェを見つめるお供の2人はとても物ほしげに見えた。
『それじゃあ』と先に出るタリアンさんを見送って『勿体無いわね』とメルノアさまは席にもどった。
タリアンさんとちがって『やっぱり女子なんだ』と安心する。
タリアンさんのは全く手付かずだったのを『あっちの3人に分けてちょうだい』の声を聞いて大きな2人の顔がぱっと明るくなった。
『ほんと見かけと違いすぎる』って少しおかしくなる。
笑いをこらえようってがんばってみたけど、うまくがまんできたかな。
「さぁ、一旦戻って待機よ!」
キレイに空になったうつわを見てまんぞく気にうなずいたメルノアさまのかけ声で2人がお供の顔にもどる。
店の外に出て見上げるとキレイな青空からまぶしいお日さまが照りつけていた。
早いもので10話となりました。
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