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4話 珍獣人形から体臭がするような…

 

 カミングアウトを受け、俺はどこか落ち着かなかった。

 ……あの占い師絶対、ヤブだ。


 「あっ! そういえば仲間の件であてを思い出したぞ!」


 その時、アイラは思い出したように言った。


 「おっ、そうか! それは聞きたい」

 「えっとだな、この先に道場があるんだ。そしてそこに武道の達人がいるらしい」

 「へえ、そりゃ朗報だ」


 武道の達人か、どれほど屈強な男なのだろうか。大男か、いや、小柄な老人だろう。

 そんな人が仲間になってくれるかは知らないが、是非仲間に入れたい。前衛でアイラとごちゃごちゃやってもらって、俺は後ろで高みの見物。完璧な寸法だ。

 ……いや待て、それじゃあ困る。俺の異世界ハーレムルートが一気に断ち切られてしまう。そうだ、本来の目的を見誤っていた。俺の目的は童貞を卒業すること。

 もちろんおじさんとゲイ……ではなく、可愛子ちゃんとすること。

 危なかった、危うく誰にも需要がない、催眠勇者×細身おじいさんの同人誌が発売するところだった。

 

 「ついた、ここだぞ」


 アイラがそう呟くのを耳で拾う。

 どうでもいい妄想劇を繰り広げていれば、道場がすぐそこに迫っていたらしい。

 

 「でか、」

 

 2文字の言葉で言い表せるほど、その道場は途轍もなく巨大だった。というかそれ以外の言葉で言い表すのが難しい。

 例えるならば、そう、少林寺道場を大きくしたみたいな感じだ。少林寺道場を見たことがあるわけでもなく、実在しているかも知らないがそう例えるのが的確だろう。

 その通り、外観は中華系の道場でカンフーでも教えてそうな見た目だ。


 「おお、奇遇だな。我が盟友よ」


 そしてアイラは問う、


 「おい、ユウタ。お前のこと見てるぞ知り合いか?」

 

 アイラは小声でそう言った。

 あんなやつ知らない。あんな厨二病を拗らせて、自分のことを『紅血(レッドブラッド)』と呼んでいそうな、あんな奴は知らない。

 

 「いやしらん、人違いじゃないか?」

 「そうか、なら、いいのだが。……どこかで見たような」

 「気のせいだよ、ほら行くぞ」


 アイラを連れ、道場の門へと進む。

 すると、


 「ちょっと待ったぁ! 『ルージュブラッド』よ!」

 

 その名を口に出されれば止まるしかない。

 ああ、疼くぜ左目がっ!


 「なんだよ」

 

 そして『紅血』は恒例の謎のポーズをとった。

 俺は今日のうちで何回この動きを見りゃいいんだよ。


 「とぼけるでない。この俺を不採用にしたこと。後悔したのだろう?」

 「いや、全然ちげぇし」

 「ええ……!!」

 「じゃあな。俺はここに用があるんだ」


 しょぼんと肩を落とす『紅血』を見届け、俺はアイラの元へと駆けて行く。

 その時だ、

 ガシッ! 肩が握られる。


 「ちょっと待て『ルージュブラッド』。お前、この道場に用があるんだろう?」

 「今度はなんだ?」


 ピクピクと小刻みに振るえながら、


 「俺は一応、この道場の門下生なんだ。案内、してやっても構わないが」

 「まじか」

 

 俺は初めてコイツを褒めた。



 「驚いた、まさかユウタの友人にこの道場の門下生がいたとは」

 「へへーん!」


 アイラの褒め言葉に得意げに声をあげる『紅血』。

 俺たちは『紅血』に連れられ、道場内のだだっ広い空間を歩み進めていた。


 「それにしても広い所だな」

 「聞くところによれば、世界トップクラスの道場だからな」


 道場内は幾つかの部屋に分かれていて、奥の部屋に武道の達人がいるそうだ。

 今はそこまでの道のり、すなわち廊下を歩いている。

 

 「ところで『紅血』は何段なんだ?」


 アイラが問えば、

 『紅血』はもじもじと身体を動かし、人差し指をツンツンさせ、バツが悪そうな顔をする。

 段というのはおそらく、剣道の階級のようなものだと推測する。


 「どうせ、3段くらいだろぉ」


 バカにしてやった、すると、


 「……初段」

 「ん?」

 「初段だよ、悪かったな!」


 『紅血』は苛立ちを吹き出しながら、蹴りを放つ。

 それは生命の危機もの。

 共感できるものならわかると思うが、サッカー経験者に蹴りを入れられる時、上手い者はボールのミートで飛ばすのだが、下手な者の場合、無理矢理蹴り上げるため力む。そのため下手な者ほど痛い傾向がある。

 それは武道にも同じことが言え、初段のコイツの蹴りは相当痛いんだと予想ができる。

 いや、結局。股間は誰でも蹴られれば痛い。


 「うぎゃぁぁ!!」


 待ち受ける恐怖に悲鳴をあげた。

 そして蹴りは俺の股間直撃。

 突如として痛みが……!


 「あれ? 痛くないぞ!」


 多少の圧迫感はあるとはいえ、全くと言っていいほど痛みはない。

 何故だ何故だ。と股間に手を突っ込む。

 するともっこりとした何かが俺を出迎えた。

 

 「まさか!」


 そこから出てきたのは、先程購入した珍獣人形だった。それもブッサイクな人形だ。

 そうだ。このズボンにはポケットはなく、パンツに突っ込んでおいたんだった!

 銃弾をペンダントで弾いたような、そんな爽快感である。


 「な、何故。生きている貴様!」


 『紅血』は仰天の様子。

 マジシャンがトリックを公開するような手つきで珍獣人形を取り出す。


 「これさ」

 「それはさっきユウタが買っていた人形!」


 アイラが解説を入れるように呟いた。


 「でも何故?」

 「これでお前の蹴りを防いだのさ」


 髪をサラリと上に靡かせ、鼻を高くして言う。

 そして珍獣人形を手渡す。


 「このブッサイクな人形が防いだのか!?」

 「まぁな、良かったらあげるよ。もう俺には必要ないしね」


 おそらく今のがEDの原因なのだろう。そしてそれを回避した今、俺にはその人形は必要がない。

 一応、ラッキーアイテムというので『紅血』に差し上げることにした。


 「なんか臭くない?」


 『紅血』は言った。

 そしてクンクンと人形を嗅いで、


 「なんかイカ臭い」


 さあ、何故そんな匂いがするんだろうな。俺にはわからないや。というか無関係だ。

 きっとあの占い師の仕業に違いない。

 俺は知らないぞ。


 「たしかにイカ臭いな。なんの匂いだ? ユウタ?」


 追い討ちをかけるように、アイラも言った。

 だから俺は無関係なんだって……

 仕方ない。俺が嗅いでやる。


 「クンクン……確かになんか臭うな。一体なんなんだろうな。まったくあの占い師は……」


 ポイっ。丁度そこに置かれたゴミ箱に俺は投げ入れた。

 臭いのは良くない。よな。


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