3話 未来への暗示
その後、あの調子でジャンジャン仲間を見つけられたかというとまったくと、言っていいほどなく。
あっという間に時は流れ、遂には受験者がいなくなってしまったのだ。
「なかなか、いい人は見つからないな」
深いため息を吐く、このままではパーティを設立するはおろか、冒険にすら行けない始末になってしまう。俺はというと、それで一向に構わないのだが、この聖騎士はどうやらそれをよしとしないらしい。
「できるなら早く出発したいからな。しかし私たちのレベルに合ったものでなくてはならん……」
アイラは腕を組み苦い顔でそう呟いた。
何もそんな焦ることはないじゃないか。
ここは少し宿舎にでも寄って、二人で大人の会話を嗜もうじゃないか。
と、助言してやりたいものだが、俺たちの関係は初対面に近い。なのでそんなこと言えるはずもない。というか、ただのセクハラだ。
そこで、俺は親睦を深めるべくある提案をすることにした。
「とりあえずデー……城下町を散策してみないか?」
まだ異世界に来て一日も経ってっいないわけだし、少し異世界というのはどんな街かと気になる節があったのだ。
「そうだな……あまり考えすぎるのも良くない」
「それじゃあ、行こう」
特に荷物も持たず、手を仰ぎアイラを招く。
アイラはそそくさと、俺のもとへと駆け寄り。行こうと言う。
何気ない調子でいるもんだから驚いたよ。
「装備付けたままなのか?」
アイラはただの散歩だというのに、装備をつけたまま外に出ようとしたのだ。
しかし、アイラはポカンとして、
「何か変か?」
と、問いを問いで返す始末。
どうみたって変に決まってる。
「ほら、少し散策するだけだし、暑いし、重いだろう?」
それにアイラちゃんの私服も見たいしな。
しかしアイラはそれに苦笑を浮かべる。
まるで俺が異常のようではないか。
「いついかなる時に、背後から忍びが襲いかかってくるかわからないからな」
「一体どんな地域で育てばそうなるんだよ!」
流石にこれにはツッコミをしざるを得なかった。
……ボケ担当のはずなのに。
「まあ、いいや。それでいいよ、それで」
ここで言い争ったって埒があかない。早めに切り上げてしまった方が後々楽だ。
それに、いきなり装備を脱ぐのもキャラが弱くなるしな。
王国の門を過ぎればすぐに城下町に到着した。
「うわぁ。すげー」
現代の地球じゃ考えられないような景色が広がっていて、童心を忘れたようにはしゃぎまわる。
「すごいとこだな、アイラ!」
「ここは世界でもトップクラスに栄えているからな」
アイラは嬉しそうにそう言った。
嬉々とした街人たちの声でそこら一体が賑わっている。
「ちょっとお二人さん。そこの平民と騎士様こっちへ来てみなさい」
……平民顔で悪かったな。これでも着ている服は高価らしいぞ。このヤロー。
と、明らかに俺たちを指した声が聞こえてきた。
声の主へ振り向けばそこには……
占いの館『魔魔』があった。そしてその先に腰をかけるのは、水晶玉を見つめる漆黒のローブを纏い腰掛ける老婦だった。
「胡散草」
あまりの胡散草が限界突破してつい口に出してしまった。
胡散臭いなあ、ここまで胡散臭い占い師見たことないぜ。
「アイラ行こうぜ、こんなの時間の無駄だ。ってアイラ?」
アイラは瞳をキラキラと星のように輝かせ、占いの館を見つめる。
そこからは絶対に動くまいという強い意志を感じる。
そしてアイラは言う、
「少し、ここに寄って行かないか?」
犬が尻尾を振るような、そんなワクワクとした雰囲気がアイラから感じる。
女子は占いが好きだとかよく言うものだが、まさか堅物だと思っていたアイラにそんな乙女な一面があるとは。
仕方ない、ここはアイラのギャップに免じて付き合ってやるか。
「わかった、少しだけだぞ」
「ああ、少しだけだ」
俺の言葉に被せるようにアイラは言い、先導していく。
まったくこんな時にお前が倒したいという魔王が暴れ出したらどうするつもりなんだ。
と、思いつつアイラの後を追うように俺は占いの館の闇へ潜っていった。
「いらっしゃい、占いの館『魔魔』へようこそ」
ああ、それそうやって読むのね。
想像より遥かにダサいな。
「今なら運気を上げるパワーストーンが安いわよ」
「やっぱ帰らないか!?」
開始と同時に商談を持ち込む人に碌な奴はいない。
席に腰掛け、対面で座る。
「それで、今日は何を占って欲しいのかな?」
「えっと、それじゃあこれからの私たちについてでお願いします」
「おい、誤解を招く言い方をするな? 俺たちの冒険についてだろ?」
すると、占い師ははいはい、と言いながら水晶玉を見つめた。
「はっ!!!!」
魂でも抜けてしまったかのような途轍もない叫び声が放たれた。
そして占い師は俺を指差し、こう言った。
「あなたにはとんでもない未来が待ち受けている」
「なにぃ!」
聞こうじゃないかその未来。
そして占い師は口を開き、
「あなたはいつかEDにな……あ、間違えたこれじゃなくて……」
いや、ちょっとまてぇ!!
占い師は続けて、
「いつか大きな選択を迫られる時が来るだろう」
そんなのどうだっていいけど、EDってどういうこと!? 俺、なっちゃうの!?
不能に!?
その口から発せられたのは衝撃のカミングアウトだった。
俺はしょんぼりと背中を丸める。
「しかし、案ずるでない。未来はきっと変えられる」
ああ、そうだよな。
EDにだってならない未来が作れるんだ……
「ラッキーアイテムはこれ、珍獣人形。今なら安く売っとくわよ」
「か、買います!」
国から支給された金をほんの少し使った。