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『5年後の5年前』

作者: 茶屋

 まさか自分が箱根駅伝に出場するとは、あのころ誰が想像しただろうか。5年前、高校2年生だった僕は交通事故に遭い、全治8か月の大怪我を負った。手術は成功したが、陸上部は辞めた。高校で実績を残して強豪校に推薦で入学し、1年生から箱根に出場しようなんて目論んでいた。推薦が絶望となったのに、復帰しようだなんて到底思えなかった。


 それなりに勉強して地元の大学に進路が決まり、ほどほどに学生生活を楽しめればいいかと思っていた新学期早々、信じられないことが起こった。前人未到の5連覇を成し遂げた帝国体育大学のあの小渕監督がうちの大学に招聘されたのだ。そして、3年以内に箱根駅伝初出場を目指すという。


 嘘だろと思った。心臓の鼓動が早くなる。息がうまく吸えない。やはり陸上に未練が残っていたようだ。すぐさま入部届を提出し、ブランクを埋めようと必死に練習に食らいついた。春が来るたびに監督の指導が受けたくて全国から有望な新入生が続々と入学してきた。苛烈なレギュラー争いから脱落し退部する者もいた。選手層は徐々に厚くなっていき、今年とうとう初出場を果たした。そして4年生で唯一残った僕にアンカーが託された。


 それにしても襷って本当に重いんだな。これまでの思いがこみ上げてくる。みんなの顔が思い浮かぶ。


 優勝争いどころかシード権争いにも加われないが、後輩たちが繰り上げスタートをすんでのところで回避し、襷をつなげてくれた。ついに最後の直線だ。沿道にお世話になった病院の先生たちも来てくれている。金メダルの被り物をして両手を振っている。何だそれ。あと100m。あと50m。チームメイトの顔がどんどん大きく見えてくる。必死で声を出してくれている。あと10m。泣いているやつもいる。早くあそこに飛び込みたい。あと1m。


「患者さん、今どんなイメージを見てますかね。」

「どうだろう。オリンピックとか箱根とかかな。」

「確かに。長距離をやってそうな体格ですからね。」


 脳科学が発達した現在、重体の救急患者の生きる気力を保つために本人が奮い立つようなイメージが浮かぶよう脳に信号を送る措置を施している。一般に、叶えたい夢が浮かぶケースが多い。


「よし、終わり。成功だ。」

「おつかれさまでした。」

「もし彼が本当に箱根駅伝に出場したら、金メダルの被り物をして応援に行こうか。」

「絶対にやりましょう、それ。」

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