5.理不尽な説明(その2)
メスキットのやつぁ苦虫を噛み潰したような顔をしてやがったが……無理はねぇわな。何しろ俺がでっち上げたなぁ疑問の解答じゃなくて、謂わば当局の回答ってやつだ。要は事態に収まりを付けるための与太噺よ。加害者のいねぇ事故だったって事にして、しかも再現性が無ぇように言い繕って、臭いものに蓋をしちまおうってんだ。「癒しの滴」修道会としちゃ、納得しかねるオチだろうな。
勘違いしてもらっちゃ困るんだが、別に俺だってこの決着をよしとしてるわけじゃあねぇぜ? ただ、こういうのにゃあ関係各位の思惑ってもんも絡んでくるからな。落としどころの一つくれぇ、準備しといた方が良いかと思ってよ。
ただな……メスキットのやつにこじつけの解答を説明してる時に気付いたんだがよ……今回の一件じゃ、物理的な攻撃と魔術的な老化ってやつが一緒くたになってんのがおかしいんだ。まるで交喙の嘴みてぇに、毛色が食い違ってやがんのよ。
もしもだぜ、この老化ってやつがホトケさんに対する攻撃のつもりだったとしたら、物理的な二つの攻撃――斬撃と魔物の襲撃――との関係はどうだったのかって事になる。
何しろ、致命傷になったなぁ二つの傷の方だ。老化で死んだわけじゃねぇ。だったら、老化の魔術にゃ何の意味があったのかって事になる。
傷に生活反応があったって事から、老衰死した屍体を傷つけたわけじゃねぇって事になる。老い耄れてくたばりかけてる爺に、ご丁寧に二回も追い撃ちをかけたってのも腑に落ちねぇ。
逆に傷が元で死んだってんなら、屍体が老化したってなぁ無理がある。傷の方はどちらも深傷だったってぇから、傷を受けてから間を置かずに死んだ筈だ。
つまり――老化の魔術と斬撃がほぼ同時だったって事になる。
偶然にしちゃあ出来過ぎてるから、物理と魔法による攻撃は、示し合わせて為されたんだろうって事になるわな? ……けどよ……そうすっとさっきも言ったように、老化の魔術にゃ何の意味があったのか――って事になるわけだ。
何よりおかしな点ってのが、何でまた選りにも選って「老化」なんてものを、攻撃の手段として使おうとしたのか――ってぇところにあるわけだ。老衰による自然死……なんてのを持ち出せる状況じゃねぇわけだしな。
唯一ありそうな説明が、〝被害者に害意を持っていたが、他に使える魔法が無かった〟ってやつなんだが……老化なんて珍しい魔法を使ってるくせに、もっと普通の攻撃魔法を使えなかった――てなぁ、こりゃやっぱり不自然だろう。偶さかそういう育ち方をしたのか、或いは、現場の抗魔術防禦を抜ける遠隔魔法が他に無かったとかいうんじゃなきゃな。
〝老化の魔法〟ってのがでっち上げで、家の連中が結託して、別人の屍体を寄って集って当主だと言い張ってる……ってんなら一応説明は付くが、今度は〝なぜそんな真似をするのか〟って問題が立ち塞がるわけだ。悪目立ちするだけだからな。
家人への嫌疑を晴らすために、敢えて卦体な方法を採って、事件の不可解性を演出した……ってぇ可能性はあるんだが……
「しかしそれだけなら、他に幾らでも方法はあった筈だろう……」
メスキットのやつがぼやいてるが……無理もねぇわな。
「けど、ここでホトケさんを視てるだけじゃ、これっくれぇが関の山ですぜ。これ以上は現場に行ってみねぇと」
「……そうだな。さっき提案してもらった〝ダンジョン内転移説〟の事もあるし、もう一度くらい現場検証を行なう必要があるだろう」
こうして、俺たちは犯行現場の密室ってやつを検分する事になったわけだ。
新作「眼力無双」、本日20時に公開しています。当分の間は連日更新の予定です。宜しければこちらもご笑覧下さい。