4.理不尽な説明(その1)
まぁ兎にも角にも――だ、そんなメスキットとの腐れ縁のせいで、俺ぁこんな罰当たりな事件に引き摺り込まれちまったわけなんだが……この一件の真骨頂ってなぁ、まだまだこんなもんじゃなかったのよ。取って置きの不可解事ってやつがまだ残ってたわけだ。……被害者が一夜にして老け込んじまったって難題がな。……あぁ、被害者がご当主本人だって事ぁ、奥方様や他の使用人が確認したらしい。身体の痣や何かでな。
「……って、こりゃどう考えても、魔術か何かの仕業じゃねぇんですかぃ?」
「確かにそうとしか考えられないんだが……担当者はその可能性に懐疑的だ。魔術による攻撃を受けた痕跡が、屍体のどこにも無いらしい。おまけに現場の密室自体が、外からの攻撃を防ぐように設えられている」
おぃおぃおぃ……
「問題はだな、仮に魔術の関与を想定したところで、一体全体どうしてこんな錯綜した状況が出来上がったのか、その説明が付かないという事なんだ」
「あぁ、確かに……」
試しにおかしな点ってやつを列挙してみると――
①被害者はなぜ一夜にして老化したのか。
②魔法攻撃を通さない筈の室内で、なぜ不自然な老化が起きたのか。
③加害者はどうやって閉ざされた室内に侵入し、そして逃げ出す事ができたのか。
④加害者はどうやって、無い筈の隙間に立って被害者を襲う事ができたのか。
⑤衣服を通り抜けるようにして被害者に傷を負わせた凶器は何か。
⑥被害者が二つの――老化を加えると三つもの――異なる手段で襲われたのはなぜか。
ざっと考えただけでも、こんだけの問題点があるわけだ。
これら全部の説明が付くような解決ってやつを、当局のお偉いさんはお望みなんだろうが……
「ちっとばかし強引に、①と②はそんな魔術があるんだって事で押し通したとしても……」
「あぁ、仮に③は室外からの攻撃だと言い募るとしても、④から⑥までの説明が付かない」
「……段平とか爪とかの攻撃自体も、そう見せかけた魔術だった……てのは?」
「目標の位置を確かめもせずに、そういう魔術を放つ事は至難の業だそうだ。この部屋の状況を外から窺うのは極めて困難……そう断言されたよ。犯人が現場にいたのなら、被害者がそれに気付かなかったというのは無理があるし、第一、犯人がそんな面倒な真似をした説明が付かん。同じタイミングで老化の攻撃を受けている理由も――な」
「なるほど……」
――俺ぁちょいとばかし頭を捻ったね。
「掟破りの【空間魔法】ってやつを仮定すると、③から⑥までは説明できなくもねぇような気が……」
「できるのか!?」
「いやまぁ……かなり強引なこじつけなんですがね……ホトケさんの目の前の空間が、いきなりどっか別の場所に繋がった――としたら、どうです?」
「……何者かが【転移】して来たわけではなく……被害者の目の前に【転移門】が開いた……そう考えるのか?」
だから――そぅ疑り深そうな顔をすんなって。俺だって半信半疑……いや、七分方は「疑」の方に傾いてんだからよ。
「えぇまぁ……続けますぜ? 例えば目の前の空間が、いきなりダンジョンかどっか、冒険者と魔獣がガチンコやってる現場に繋がっちまったら?」
「何?」
「冒険者と魔獣の方だって魂消ちまったのかもしれませんや。泡喰って双方が攻撃した――ってなぁどうです?」
メスキットのやつぁ呆然としてやがったが……
「つまり……これは『事故』だった……という事か?」
「ま、そういう可能性も無くはねぇって事で」
「……だが……その場合、被害者の傷の位置はどうなる? どちらも前方から受けた傷だという事だが」
「双方の間に割って入る形じゃなくって、三角形になるような位置取りだったんでしょうな」
「……不自然な老化の説明はどうなる? それと、衣服には破れが無かった事は?」
「何もかも一遍に説明しようったって、そりゃ難しいんじゃねぇですかぃ? ただまぁ、老化の方ならこじつけられなくも……」
「できると言うのか!?」
「例えばですけどね……転移門で繋がった先が『現在』じゃなくて、『過去』か『未来』のどこかだったら? 空間の繋がりが切れた時に、反動で爺になっちまった……ってなぁどうです?」




