1.密室の怪死者
お久しぶりの死霊術師です。今回は主人公が不可解な密室殺人事件(仮)に挑みます。
死霊術師なんて商売やってるとな、どうしたってホトケさんを拝む機会は多くなる。俺も駆け出しの頃から随分とホトケさんを見てきたもんだが……そのホトケさんの事ぁ能く憶えてる。とにかく死に顔ってやつが違ってたからな。何てぇか……恐怖と驚愕と無念の想いがこんぐらかったような死に顔でな。
あぁ、もうずっと昔。メスキットのやつと知り合って間も無い頃の話だったな。
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「……また……何とも言えねえご面相の爺さまですね」
検屍台の上に乗っけられたホトケさんを見て、俺ぁそう感想を漏らしたんだけどよ……俺を呼び出したやつの返答が振るってたね。
「爺さまか……死ぬ前はもっと若々しい人物だったそうだがね」
「……はぁ?」
俺ぁ妙な事を言い出したやつの顔を見上げたんだが……そいつはやっぱり妙な表情を浮かべながらも、態度の方は大真面目だった。
ちょいと前に妙な切っ掛けで知り合った「癒しの滴」修道会の修道士で、メスキットってぇやつなんだがな。……ま、妙な経緯で知り合ったやつから妙な話を持ち込まれたわけで……平仄が合ってると言やぁ合ってるんだがな。
そんな妙な知り合いが、こんな遠くの町まで態々、ちんけな駆け出し死霊術師を引っ張って来たわけが解らねぇ。例によって浄化は済ましちまったってぇから、死霊術師の出番は無ぇ筈だしな。
俺ゃ内心で首を傾げてたんだが、メスキットの方はそんな俺には頓着せずに話を続けた。
「紅顔の美少年――とまではいかないが、男盛り……四十絡みの精力的な人物だったそうだ。……死ぬ前日まではね」
「……はぁっ!?」
前日って……この野郎、全体何を言い出しやがったと目を剥いてる俺を放っぽらかして、メスキットのやつぁ淡々と話を続けていく。
「これまでに判明している事実を、時系列に沿って並べてみよう」
――そう言ってメスキットが説明してくれた経緯ってなぁ……どうにもぶっ魂消た……ぶっちゃけて言えば信じらんねぇ話だった。
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「……つまり何ですかい? こちらのご当主が昼近くになっても起きて来なかったのを不審に思ったご家族が、中で卒中でも起こしてるんじゃねぇかって心配して、鍵の支ってある扉をぶち破って寝室に押し入ったところが、洗面台の前でこの爺さまが、血塗れになっておっ死んでた。なのにご当主の姿が見えねぇもんで……」
ちょっと寝坊しただけで、斧で扉ぶち破ってカチ込みかけるたぁ、お貴族様のやる事ぁ違うわ……って呆れてたら、
「あぁ、いや……正確に言うと、少し違うんだ」
〝正確に言うと〟……いつもご当主が起きている時間、十時に寝室の扉をノックしたが返事が無ぇ。執事さんはちょいと首を傾げたが、ご当主にだって体調の悪い日もあるだろうと思って、その場は温和しく引き下がったらしい。
一時間後にもう一度扉をノックしたが、やっぱり返事が無ぇ。これは何かあったのだろうかと、奥方や他の使用人と相談していたら、決裁してもらう必要がある書類を持って、ご当主の秘書が現れた。今朝のうちに決裁が必要な事はご当主も知っている筈だし、仕事を蔑ろにするようなお方じゃねぇってんで、こりゃ本格的におかしいって事になって……
「扉をぶち破って、中で変死体を見つけたってわけですかぃ」
「あぁ。とりあえずは外聞を憚って、心当たりに訊ねて廻ったらしいが、どうにもご当主の行方が知れないというので、観念して領兵本部に届け出たそうだ」
「んで、領兵本部付きの検屍役が屍体を検めたところが……」
「色々とおかしな事が判明……と言うか、おかしな事しか出て来なかったらしい」
そう言ってメスキットが並べ立ててくれた状況ってなぁ……どんな検屍役でも、蹲み込んで頭を抱えちまいそうなもんだった。
明日もこの時間帯に投稿する予定です。