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5 誰がための報酬

「ま、ハルトには刺激の強い話かも知れんが」


 そう断った上でギルさんが教えてくれたところによると、山間で今回見つかったのは、黒妖犬(ヘルハウンド)と呼ばれる、見た目は犬ながら、火を吹く特殊能力を備えている魔獣だったそうだ。


 国内でもそこそこ有名だという冒険者パーティーによって、黒妖犬(ヘルハウンド)自体の討伐は上手くカタが付いたものの、実はそこからが大変だった……というのが、ギルさんの話だった。


黒妖犬(ヘルハウンド)は一体で動くことが少ない。複数で組んで、獲物を追いつめて、炎以外にも鋭い爪や牙でとどめを刺す。だからまあ、その時も複数たむろしていた、ねぐらごと潰したワケなんだが」


 当然、ねぐらと言うからには餌場があり、食糧が蓄えられていたりした。


 そこに、既に食べられてしまった後の竜の幼体の骨や卵の殻、もちろん、まだ食べられる前だった、生きた魔獣たちも含めて、なかなかに現場は凄惨な空気が漂っていたらしい。


 確かに、冒険者ではない僕にとっては、ちょっと想像しただけでも吐き気をもよおしそうだ。


 いやいや、ダメだダメだ!これじゃいつまでたっても、叔父さんに心配をかけてしまう!

 僕はふるふると首を横に振りながら、不気味な想像を頭から追い払った。


「骨や殻と言った、素材になり得るモノはギルドに運ばれて、運良く喰われる前だった魔獣たちは、東のザイフリート辺境伯家に送られて今後、どうするかを話し合われる予定だった」


「だった……ね」


 そんな僕にはまるで気が付かない様子で、机の上に肘をついたリュート叔父さんは、ギルさんの話を聞いて難しい顔をしていた。


「冒険者側に非はない、と?」


「ああ。連中に罪がないことは、もう分かってる。ヤツらは東の辺境伯領の手前の街で、素材や生きた魔獣たちを『辺境伯家の家臣』を名乗る者たちに、引き渡しているんだ。討伐による依頼料は依頼を出したギルドから得ているし、現れた連中は辺境伯家を示す火竜の紋章入りの甲冑を着用していた。それ以上を疑えってのは酷ってモンだ」


「そして、そこから足取りが途絶えたと……そういうわけか」

「そうだ」


 二人の表情は、真剣だった。

 僕は黙って二人のお茶を注ぎ直して、話の続きに聞き耳を立てた。


「だが当然、辺境伯家(ザイフリート)からも捜索の人手は割いているんだろう? 公平な目で、何を探れと言うんだ」


「問題なのは、火竜以外の騎獣軍でも、似た騒ぎが起きてるってコトなんだよ。そしてその都度、当該辺境伯家が疑われて、最悪、当主交代の騒ぎにまで発展している」


「……ほう。おまえの所以外に、どこがやられているんだ」


「風竜と地竜だ。それで今回の火竜(うち)だろう?残る水竜が疑われるのはもちろんだが、逆に水竜騎獣軍の連中からも、自分達への疑いの目を逸らしたい、自作自演じゃないかと突っかかられてな」


 国を魔物の襲撃から護るという点において、辺境伯家同士の争いというのはあまり好ましくない。


 それは国を引っ掻き回したい、他国からの仕掛けではないかというリュート叔父さんに、ギルさんはかなり苦い表情を浮かべた。


 日ごろは闊達な、ギルさんらしくない表情(かお)だ。


「それが断定出来ないから、困ってんだ。大体がホラ、火竜(うち)には素行不良の次男サマがいるだろう? 手元に金が欲しくてやったんじゃないかって言われると、親父(おやっ)さんにしろ、他の兄弟、当主様にしろ、明確には否定出来ねぇんだよ」


「あー……」


 天井を見上げるリュート叔父さんの顔色が、何だか良くない。

 どうやら軍団長さんの、すぐ上のお兄さんは、あまり評判の良くない人みたいだ。


家名(ザイフリート)で呼ぶと、該当者がポコポコ湧いて出るから、アンヘルと、名前で呼ぶように軍団長さんからは言われているけど、僕程度が「アンヘルさん」と呼ぶのは、正直恐れ多い)


 公平な目で――というからには、きっと、いざという時には忖度なくその兄を捕まえてくれということなんだろう。


 竜を堕とす者、などと言う二つ名を持つ叔父さんは、貴族の身分制度にも軍の規律にも縛られない。

 多分、王家以外に口を出せる唯一の人じゃないかと思う。


「一応だな……」


 そう言ったギルさんが、床に置いてあった鞄の中から書類の束を取り出して、机の上に置いた。


「被害にあった風竜、地竜、今回の火竜――騎獣軍に限られちまうが、調書を持って来た。この資料室の中なら、読んでも良い……と言うか、むしろ盗まれない様に資料室(ここ)で保管しておいて欲しい。いくら親父(おやっ)さんの顔が利くっつっても、手癖の悪いヤツはどこにでもいる。その点、冒険者ギルドの資料室ほど防犯設備の整った場所もないからな」


「待て、拒否権の三文字はどこに行った」


 目の前に積まれた紙の束を見ながら、リュート叔父さんが半目になっている。


「そう言うなって! 親父(おやっ)さんも、この件が上手く片付けば、可能な範囲で好きな素材を譲るって言ってたんだよ! おまえはいいかもしれんが、ハルトの護身用の武器になりそうな素材とか、あったって困らねぇだろ?」


「ほう? それがオリハルコンだったとしても、用意する気はあると?」


「ミスリルでも何でもっつってたから、どうしてもって言えば、何とかするんじゃねぇの?」


 しれっとギルさんは言っているけれど、ミスリルは上位の冒険者が持つ様な武器の素材で、相当に高額、希少。

 そしてオリハルコンは、さらにそれよりも上位の鉱物だ。

 あれば、家くらい余裕で建つんじゃないだろうか。


「おまえ……」

「頼むよ、リュート! さすがに親父(おやっ)さんが失脚するかもって言うのは、俺も見過ごせない。何なら調査には俺もついて行くから!」


 後で聞いたことだけど、リュート叔父さんが、身寄りのなかったところを僕の両親に育てられたのと同様に、ギルさんも元孤児で、ザイフリート辺境伯家に拾われて、軍団長さんの下につく事になったんだそうだ。


 そう聞けば、僕には少し、ギルさんの気持ちが分かる気がした。


 僕だって、リュート叔父さんがいなければ、事故で両親を失った後、どう転んだか分からないのだから。


 そう思いながら、僕がじっとリュート叔父さんを見ると、叔父さんはちょっと引いていた気がしたけど、それでも僕の言いたいことは分かってくれたみたいだった。

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