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24 僕の探偵デビュー⁉

 叔父さん曰く、竜の素材を狙う窃盗団あるいは今回の首謀者である貴族の手先が、この辺境伯家に既に潜り込んでいる可能性が高いらしい。


「俺はエイベル殿の護衛として、大っぴらに付いて回る。物理的な襲撃や食事にアヤしげなモノが入っていても、まあ、ある程度はそれで撃退出来る。だがその分、調査が出来ない。ハルトには表向き『白竜(グウィバー)の世話係』となって貰って、この館の中を色々探って欲しい」


 調査!


 叔父さん曰く「竜の素材を盗むくらい金に困っているなら、この館の中にある美術品も普通に盗もうとするだろ」ってコトらしい。なるほど。


「でも、いくら僕が『白竜(グウィバー)の世話係』だからって、お屋敷の中をウロウロしていたら、おかしくないかな……?」


「ああ、それは一応考えてあってだな……」


 そう言いながら、叔父さんは廊下の途中、ひとつの扉を迷いもせず開けていた。


 そっか、僕もちゃんとこのお屋敷の配置図を見せて貰って、覚えないといけないよね!


 そんな風に思いながら叔父さんの後から部屋の中に入ると、そこはどうやら食料倉庫みたいだった。

 そしてちょうど僕が中に足を踏み入れたあたりで「ばう!」と、太めの動物の鳴き声が鼓膜を揺さぶった。


「え? うわっ⁉」


 僕の足元をナニか黒い影が駆け抜けて行き、最後ソレは叔父さんの足元に文字通り「突撃」していた。


「あー、はいはい。やっぱり無駄に元気あり余ってんな、おまえ」


 叔父さんは免疫があるのか、僕ほど驚いた感じはなくて、ぶつぶつ言いながらその黒い塊を抱え上げていた。


「え、犬?」


 首を傾げながら近づいた僕に、叔父さんは「惜しい」と微笑(わら)った。


黒妖犬(ヘルハウンド)の幼犬だ」

「へル……って、ええっ⁉ こんなカワイイ――って、そうじゃなくて」


 犬は犬でも黒妖犬(ヘルハウンド)は魔犬だ。見かけたら、討伐対象になるほどだ。


 だけどこの子犬は、足がぶっといし、毛はふさふさしてるし、耳は垂れ下がっているしで、成長すればさぞや良い番犬になりそう……としか見えない、どう見ても「犬」だ。成長したら黒妖犬(ヘルハウンド)になるなどと、とても信じられない。


「ん、ほら」


 目を丸くしている僕に叔父さんは、その子犬をひょいと差し出して来た。


 なんてことない、って感じに僕に預けてくるので、僕もついうっかりそのまま受け取ってしまった。


「ハルトはコイツ抱えて屋敷内をウロウロするといい。好奇心旺盛で、すぐ屋敷の中で行方不明になるから、辺境伯に頼まれて探していた……とでも言えば、大抵の人間は納得するだろう。ただ白竜(グウィバー)の世話係でいるってだけだと、おまえの言う通り、屋敷の中をうろついてる理由にはならないからな」


「…………あ」


 なるほど、と僕は納得した。

 僕が言うまでもなく、叔父さんは最初からちゃんと考えていたんだ。


「その場しのぎで良いんだから、その犬が()()()()()いいだろうよ。パッと見、黒妖犬(ヘルハウンド)に見えていなければ、それで」


 探偵を目指すリュート叔父さんだけど、根っこのところでは冒険者らしいところもある。


 叔父さんにとっては黒妖犬(ヘルハウンド)は、普通の犬と変わらない扱いなのだ。


「コイツは例の竜の卵狙いの襲撃現場に居合わせて、親犬を殺されたらしくてな。まあ黒妖犬(ヘルハウンド)がそこにいれば、大抵の冒険者も軍人も攻撃するだろうしな。たまたまその辺を縄張りにしていたんだとしても、それは仕方のない側面はある」


 子犬の頭をそっと撫でながら、叔父さんが何とも言えない表情になっている。


「ただ、コイツはこの見た目だろう?もしかしたら、別の犬種との混血なのかもしれない。このまま成長するんなら、無意味に殺すこともないんじゃないか――と、火竜騎獣軍の中の犬好きが、保護して連れてきてしまったらしい」


「な、なるほど」


 ちょっと、その気持ちは分からなくもない。


 僕は普段、犬は好きでも嫌いでもないといった立場にいるけど、この子犬が可愛くないかと聞かれれば、可愛いと即答せざるを得ないからだ。


「そんなワケで、ソイツは今やこの辺境伯家の中で色んな連中に可愛がられているから、間違いなくおまえも疑われない。上手く屋敷内を探索して、盗賊まがいのことをしでかそうとしている阿呆どもを見つけてくれ」


 まあ、一種の潜入捜査みたいなものだと叔父さんは微笑(わら)った。


 ザイフリート辺境伯家の許可はあるワケだから、一般的な潜入捜査とは、ちょっと意味合いが違うのかも知れないけど。


「とりあえず、怪しげなヤツを見かけたら、コレで知らせてくれ」


 叔父さんはそう言って、おもむろに服のポケットからブレスレットを二つ取り出した。


「通信機だ。ここに掘られた花模様の上を少し(さす)れば相手に繋がる。まあ、この場合は俺になるワケだが」


 そう言って、二つあるうちの片方を僕の手に握らせる。


「ここから直接声が響いてくることはない。相手の声は、腕輪から装着している当人の腕を通って、頭の中に響く仕組みになっているんだ。逆にこちらが話したことは、この腕輪に全て吸い取られる。よく考えるとホラーな仕組みではあるが、例えば潜入捜査中だったりした場合には、その声が洩れて相手に聞こえてしまった、なんてことにはならないから、意外に重宝されているみたいだな」


 すごいな魔道具。


 気付けば拒否権なく持たされている状態だったけど、どうやら辺境伯家当主としてのエイベルさまが、黒妖犬(ヘルハウンド)ともども、色々と手を回してくれたようだ。


「ハルト。多分『いかにも』な連中は、そうあからさまにこちらとの接触を避けたり大きな声を出したりはしないだろう。探し出すのはハルトの双肩にかかっているぞ。人探しなんぞ、探偵業務の基本中の基本。()()()()として頑張ってもらうからな」


「!」


 俺の弟子。


 その言葉に、分かりやすく僕は舞い上がった。


 僕も、僕もついに「ただ養われる者」ではなく、叔父さんと仕事が出来るんだ、って!


「屋敷をウロウロするもよし、コイツ抱えて宝物庫の入口で張り込みしてみるもよし、だ。記念におまえが方針を決めて調査をしろ!」


 そう言って、叔父さんの方はくしゃくしゃと僕の頭を撫でた後、ご当主エイベルさまの方へと向かって行った。

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