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23 首長竜(ギータ)のプライド

 ギルさんや軍団長さんたちが、ダドリーさんを追いかける準備をしている最中、僕はここまで僕を乗せて来てくれた首長竜(ギータ)の所に、様子を見に行っていた。


「あのさ、僕をここまで乗せてくれてありがとう」


 僕の言葉に反応をした首長竜(ギータ)が、首をグッと立てて、僕の方へと視線を向けた。


「えっと、僕は叔父さんと一緒にここに残るんだけど、キミはどうする?卵を取り返しに行く火竜(リントヴルム)の部隊と一緒に追いかけてもイイってさ」


 この首長竜(ギータ)は、竜の牧場に暮らす竜たちのリーダーらしいと、ダドリーさんは言っていた。


 だとしたらきっと、卵の奪還を他竜(ひと)任せにはしたくない筈。


 たとえ火竜(リントヴルム)との間に圧倒的な実力差があっても、行かずにはいられないんじゃないか。


 そう言う感情は、人間も竜もさほど変わらない気がする。


「僕のコトなら、気にしなくても大丈夫だから。牧場で仲間が待っているんだよね?だったら頑張って、卵、取り返しておいでよ」


「!」


 首長竜(ギータ)の目がわずかに見開いた――気がした。


「僕、今日、騎獣訓練初日だったんだよ?だから、また行くから。そうしたら、キミに乗せてよ。いい?」


 そして、首長竜(ギータ)が僕を見たのは、ほんの一瞬。


 長い首をググっと僕の方に下げてきたから、僕も、すぐ傍にいたリュート叔父さんもギョッとしたけど、首長竜(ギータ)は自分の額を、僕に軽く当てただけで、すぐに元の姿勢へと戻っていた。


「あ……いい、ってコト……かな?」

「だろうな」


 ここに残るって雰囲気じゃないな、と叔父さんも微笑(わら)いながら、首長竜(ギータ)のお腹あたりを軽く叩いていた。


「ま、火竜(リントヴルム)には火竜(リントヴルム)の、首長竜(ギータ)には首長竜(ギータ)の良さがある。おまえにも、竜導香の香りを嗅がせるように騎獣軍には言っておくから、おまえはおまえのペースで追いかければ良いさ」


 案外、首長竜(ギータ)同士相通じる何かがあって、火竜(リントヴルム)から遅れて到着しても、何かしら見つけられるかもしれない――なんて、叔父さんは言っていた。


 それに全長も違う分、もしかしたら火竜(リントヴルム)の体格では入れないような山や森に犯人がいた場合、かえって役に立つかも知れない、と。


「行くのなら、頑張れよ。首長竜(ギータ)の意地を見せてやれ」


 叔父さんの言葉に、首長竜(ギータ)は一度、長い叫び声を上げて、それに応えた。


 基本、空の馬車、人の足として使われることがほとんど。


 騎獣軍の竜に比べると下に見られがちな首長竜(ギータ)だけれど、人の言葉を理解出来る知性は充分にあって、多少小柄であってもやっぱり「竜」なんだなぁ……と、僕は感心しながら目の前の首長竜(ギータ)を少しの間見上げていた。





.゜*。:゜ .゜*。:゜ .゜*。:゜ .゜*。:゜.゜*。:゜ .゜*。:゜




「――いいのか、ハルト?」


 辺境伯家の建物の中に戻る道すがら、火竜(リントヴルム)たちの出発まで、その場で待機することにしたらしい首長竜(ギータ)に視線を投げるようにしながら、叔父さんが聞いてくる。


「せっかく、相性良さそうな竜だったのに」


 竜には知性があり、こちらの言うことはほぼ理解が出来ると言われているけれど、だからと言って、こちらの言うことを聞いてくれるのかと言えば、そこは全くの別問題だ。


 ただ、あの首長竜(ギータ)は少なくとも僕との意思疎通を嫌がってはいない。

 しかも火竜(リントヴルム)と行動を共にすると聞かされても、怯えひとつ見せない。


 なかなかに肝の据わった竜だと思う。


 だから、叔父さんはそんな聞き方をしたんだろう。


 僕は笑って、ゆっくりと首を横に振った。


「ケジメが必要なのって、人でも竜でも同じじゃないかな? 目の前で卵持っていかれちゃった腹立たしさは絶対にあるだろうし、ここは追いかけさせてあげないと。ホントはすぐにでも行きたかっただろうに、僕をここに送り届けるコトを優先してくれただけで充分!」


 多分、ああしておけば次の訓練では優しくしてくれる筈!


 あえて僕はそんな言い方をして、微笑(わら)っておいた。


「それに、いざと言う時は叔父さんが白竜(グウィバー)に乗せてくれるんだよね?」


 僕の言い分にどこまで納得したのかは分からないけれど「まあな」と、叔父さんは隣で頷いていた。

 

白竜(アイツ)なら、ハルトの小さい頃からもう見慣れてるし乗せ慣れてるからな」


「ギルさんたちが出発した後はどうするの? 僕は何をしたらイイ? 教えてよ」


 何しろ「探偵助手」だから。


 そう胸を張る僕に、叔父さんは笑って僕の頭をくしゃりと撫でた。


「そうだな、ハルトも大事な戦力だ。ここからはちょっと体力勝負で頑張って貰うから、覚悟してくれ」


「!」


 いつもなら、危ないから下がっていろとか、僕にはまだ早いとか言う叔父さんのその言葉に、僕は今いる場所(ところ)も忘れて大きく目を見開いてしまった。


 大事な戦力。


 これで気分が高揚しない筈がない。


「分かった、僕、頑張るよ! 叔父さんの足を引っ張らないようにする! 何をすれば良いかな⁉」


 ワクワクと目を輝かせる僕に、叔父さんは茶目っ気たっぷりに片眼を閉じた。



「――かくれんぼ、だ」

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