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22 狙いは選王侯会議?(後)

「何故、王子妃がいるのに選王侯会議に出席出来ないのかと、以前から騒いでいたのは間違いない。ルブレヒト侯爵家が資金を欲しているなら、狙っているのは間違いなく選王侯の一角だ」


 以前から騒いでいたのか。


 いや、でもあれだけ冒険者ギルド食堂で騒いだうえに、似たような騒ぎを他でも起こしているのなら、もう、隠す気ゼロで狙っているってコトなんだろう。


 脳筋か? 参謀はいないのか? なんて呟いているリュート叔父さんも、エイベルさまの言葉に多分僕と同じ感想を持ったんだろうなと思う。


「だが、どの席を狙っているのか、単独犯なのかが不透明なままでは、迂闊に手を出しにくい。さて、どうするか……」


「どの席もなにも、捕まえて吐かせれば良いのではないのか⁉」


 恐らく軍団長さんは、こうしている間に卵強奪犯との距離が開く一方になることを懸念している。

 その直属部下であるギルさんも、きっとそう。


「……まあ、時間がないことも確かだ。その策を貫く手勢は、まず必要だろうよ」

「父上、手勢を分けるのか」


 軍団長さんとしては、多めの人数で一気にカタをつけたいのかもしれない。

 けれどエイベルさまの方は、軍団長さんの意向を分かっていながら、賛同の意を表さなかった。


「ルブレヒト家単独で選王侯の椅子を狙うのなら、最短の道のりとしてはメルハウザー辺境伯家の寄親たるベレフキナ公爵家を狙うだろう。それならば火竜騎獣軍の全力を持って叩きに行けば良い。だが――」


 そう言ったエイベルさまは、指を折りながら幾つかの可能性を挙げた。


 ・ベレフキナ公爵家を狙うにあたって、メルハウザー辺境伯家と手を組む場合

 ・ベレフキナ公爵家と逆に手を組んで、他の選王侯の椅子を落としにかかる場合


 これらのパターンだった場合、ルブレヒト侯爵家はいざ物事が露見した場合に「上」から切り捨てられる可能性があるのだと言う。


「そうなると、根本的な事態の解決にはならない。卵はこれからも狙われ続けるコトになる。それに」


 それに?と、首を傾げた軍団長さんに、エイベルさまは淡々と自分を指差した。


「今、一連の騒動で竜の卵や素材をくすねたのがザイフリート辺境伯家だと疑われている現状を考えれば、可能性としてはベレフキナ公爵家と手を組んで、ブラウニール公爵家が持つ選王侯の椅子を狙ってると考える方が自然だ」


「一連の事件の犯人をエイベル殿の指示として、ブラウニール公爵家に連帯責任をとらせる、と?」


「さすが英雄殿は理解が早い。そうなると、この館を空にしてしまうのは悪手だ。つけ入ってくれと言っているようなものだからな」


「だから手勢を分ける、と」


「ただ、本当に狙われているのかどうか、今手元にあるのは状況証拠のみ。結局のところ、分けるも分けないも、どちらも賭けだ。さて、どうしたものか」


 テーブルに両肘をつき、手の甲に顎を乗せた状態で、エイベルさまが意味ありげな視線をリュート叔父さんへと向けている。


「英雄殿。ミスリルに加えて火竜(リントヴルム)の皮でベストでも作るのはどうかね」


「エイベル殿……」


 叔父さんは、痛いところを突かれたとばかりに顔を(しか)めているけど、二人が何の話をしているのかは、僕なんかよりもギルさんや軍団長さんの方が、気付くのが早かった。


「そうか、リュートがいる」


「おお、確かにリュートが残ってくれるのなら、白竜(グウィバー)もいるし、腰に〝魔法剣〟もあるわな。一人で複数の騎獣軍の軍人の相手も出来るしな。父上も屋敷も安心して任せられる」


 国内で他にいない竜を持つ叔父さんは剣の腕も規格外で、オリハルコン製の剣で振るわれる力は、周囲の山を吹き飛ばすとも言われていた。


「いや、しかしハルトをここに置いておくのは――」

「言い方を変えようかな、英雄殿。これは、私の警護と言う『依頼』だよ」

「――――!」


 エイベルさまが、文字通り「にやり」と笑った気がした。

 探偵を主張する叔父さんの自尊心を、それは巧妙に突いている。


 さすが、海千山千の貴族社会を歩く辺境伯家当主と言うべきだった。


「ハルトの事とて、変に副都まで戻すよりは、其方もかえって守りやすいのではないか?」

「それは……」

「もしかしたら〝竜を堕とす者〟の看板があれば、誰も寄って来ないかもしれない」

「…………」

「もし、滞在中に無精卵が生まれた時は、卵料理を作らせよう」


 決して短くはない沈黙の後で、叔父さんはそれを受けて、内容を再確認するかのように、ぶつぶつと何かを呟き始めた。


「……ミスリル、火竜(リントヴルム)の皮のベスト、卵料理」

「全てハルトのための物、と言うことでどうかな」


 エイベルさまのダメ押しに、僕の方が「えっ」て、思わず声を出していたけど、すかさずギルさんが人差し指を口元にあてて、僕に静かにするようゼスチャーしていた。


「まあ、卵は確約出来ないが、そのくらいの楽しみはあっても良いだろう」


 もしかしたら、ここに残れば何かしら叔父さんの役に立つかも知れないって感情が、ダダ洩れに洩れていたかも知れない。色々叔父さんには読まれちゃっていそうだ。


「…………分かった」


 最後にはそうやって、エイベルさまの提案を受け入れる形で、頷いてくれたのも大きかった。


「よし!では騎獣軍(こっち)は我らに任せておけ! 無論、竜の牧場に怪我人を迎えに行くメンツもこちらで振り分ける。リュートは父上を頼む!」


「ふふ……よろしく頼むよ英雄殿」



 僕も何度か「大事なのは腕っぷしじゃない」と叔父さんから聞かされていたけれど、今日はそれを地で行く場面に遭遇した気がした。

 そしてエイベルさまは、下手に逆らっちゃいけない人認定が、僕の中でされたのだった。

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