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13 竜の牧場

「ハイハイ、()()はもうハルト君は気にしないの。そろそろ送迎馬車の時間でしょ? さぁさぁ、行った行った!」


 護衛はともかく、仮にも「ルブレヒト侯爵家の子供」を名乗るお坊ちゃんの服を切り刻んで、縛り上げるとか……。


 いくらギルドが貴族の干渉を受けない場所だとしても、大丈夫なんだろうかと思うんだけど、ギルド長(ホリーさん)はニコニコと微笑(わら)っているから、僕にどうこう出来る話でもないってことなんだろう。


「行ってら~! とりあえず、帰って来たら解体部覗いていけよ。時間が合えば、夜もメシ行こうぜ」


 ニールスも、ホリーさんがそう言っている以上は、かえって関わらない方がいいと思ったに違いない。


 結局二人してひらひらと手を振る形で、僕は送り出されることになった。


 ホリー! と叫ぶ副ギルド長(マレクさん)の声を背中に聞きながら。




.゜*。:゜ .゜*。:゜ .゜*。:゜ .゜*。:゜.゜*。:゜ .゜*。:゜




 冒険者ギルド本部から一度外へ出た僕は、敷地内ではあるけれど、馬車を留めておくのに少し広い場所を確保してある、騎獣訓練の為の施設、通称「竜の牧場」へと向かう幌馬車の乗り場へと向かった。


「坊主、この馬車は騎獣訓練場に行く馬車だが、行き先は間違っちゃいねぇな?」


 馬車の前には、リュート叔父さんやギルさんよりは遥かに体格のいい中年男性がいて、僕にそう問いかけてきた。


 ただその人の表情を見ていると、僕を馬鹿にしているというよりは、単に行先を間違えて乗る事のないように確認しているだけだと思えた。


「はい、大丈夫です」


 現に僕がそう言って頷くと、豪快な笑顔と共に「よっしゃ、乗りな」と後ろの幌馬車を親指で指さしているので、僕もちょっとだけホッとしながら、幌馬車へと乗り込んだ。


 貴族階級者は、子供にしろ大人にしろ自家の馬車を使うと事前に聞いていた事もあってか、出発時点で幌馬車の中にいたのは、僕を含めて三人だった。


 そして僕の向かい側に腰を下ろしている二人は、兄弟か親戚か幼馴染か。

 どっちにしても、親しい顔見知り同士である事は間違いなさそうだった。

 隣同士に腰を下ろしていて、僕が来るまで、普通に何か話をしていた。


 年齢が近そうで、その会話に交ざってみても良かったんだけど、でも初対面で馴れ馴れしい態度をとるのも気がひけたから、ここはそのまま黙って座っておく事にした。


「坊主ども、馬車出すからなー? 途中、道の悪いところもあったりするから、基本的には座ってろよ? 行く前からケガしてりゃ、世話ないからな!」


 僕に「騎獣訓練場へ行くのか」と、さっき話しかけてきた男性は、一度幌馬車の中を覗き込んだ後、そう大きな声で念押しをして、それから幌馬車の前の馭者席に腰を下ろした。


 そして馬車は一度大きく揺れた後、騎獣訓練場に向けて走り出した。



 訓練場までは一時間半くらいと聞いていて、移動距離としては短い部類だとは思う。


 そもそも、ギルド本部のある地区から街の外へと出るのに30分くらいかかるのだ。

 実質副都から一時間と言うのが、訓練場までの距離と言ってよかった。


 副都自体は、全ギルドの本部を抱えるだけあって、活気のある都市だ。

 

 それでもたかだか一時間ほどの距離のところに、首長竜(ギータ)が暮らせる山があって、時間が決められているとは言え、訓練と称して上空を飛び交っていると言うのも凄い話だ。


 騎獣軍の大型竜が飛行するのとは違って、ほとんどの住民が、昔からの見慣れた光景と言う事なんだろう。


 やがて幌馬車の後方から見える景色は、街の門から山道へと変わっていき、そして更に道を進んで行くと、間違えようのない咆哮が、耳にも届くようになった。


 僕もそうだけど、同じ馬車に乗る二人もちょっとビックリして辺りをキョロキョロと見回している。


「ガハハ……! ビビんな、ビビんな、坊主ども! ありゃ首長竜(ギータ)の挨拶みたいなモンだ! ここでビビってるようじゃ、乗れるようになるまで何日かかるやらだぜ?」


 もしかしたら、馭者のオジサンが豪快に笑っているのは、あまり僕たちが怯えないようにと思ってくれているのかもしれない。


 幌馬車が止まって、外へと出ると、そこは周囲を岩肌に囲まれた、山の合間の窪地の様な場所(ところ)だった。


「ふむ、午後の部は三人か」


 馬車から下り立った目の前には、馭者のオジサンほどではないにしろ、リュート叔父さんたちを基準にするとやや年上の男性が二人、僕たちを待っていた。


「B級冒険者のダドリーとテッドだ。ここは月替わりでB級冒険者が指導員を務めることになっている。A級になるにあたっての条件の一つみたいなもので、今月は俺たち二人がその当番にあたっている。まあヨロシクな」


 なるほど上位の冒険者ともなれば、後進を育てていく事も立派な責務の一つ。

 上位ランカーであることを笠に着て、下位の冒険者を虐げる様では論外ということなんだろう。


「ハルトヴィンです。宜しくお願いします。学校で二人乗りの経験はあるんですが、一人で乗れるようにと、訓練に参加しました」


「カリです。こっちは弟のティモ。俺たちは、まったく乗ったこともなくて……ただ一人で乗るつもりはなくて、俺がティモを連れて乗れるようにと訓練に参加しました。宜しくお願いします」


「……お願いします」


 僕の挨拶に続いて、二人も名前を名乗って、頭を下げていた。

 ここでようやく僕も、二人の名前と関係性を把握した。


「ああ、だから指導員は二人でいいって話だったのか」


 僕らの話に、テッドさんが納得したと言わんばかりに頷いている。


 なんでも、指導は基本的に一対一なんだそうだ。

 そうしておかないと、身分や財力で指導の偏りが出てしまう場合があるらしい


 ぶっちゃけると、複数人の中から高位貴族の子弟を優遇して指導する、といった具合にだ。


「まあ、弟の年齢でも一人で乗るヤツは乗るが、人それぞれだしな。アニキくらいの年齢になって、一人で乗りたいと思うようになったら、また来ればいい話だ」


 僕に対してもだけど、あまりクドクドと個人情報を聞いてこないのは、冒険者ならではの習性かもしれない。


 正直僕も、そこはすごく有り難かった。


 どこまで僕と叔父さんのコトが知られているのかは分からないし、僕は叔父さんの名前に随分と助けられている。

 だけど切り離して見て欲しいと思う自分も確かにいて、我ながら未熟だしワガママだなと思ってる。


 僕も早く一人前と思われるように頑張らないと!



 そんな風に僕が決意を新たにしている間に、僕にはダドリーさんが、兄弟の方にはテッドさんが付くという形で、騎獣訓練がスタートすることになった。

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