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UFO島  作者: 俶つ由明
1/1

取り残された赤い光

 「ははははっ」

 町中を駆け回るより、雑木林で遊んだほうが、隠れられるし楽しい。ただの追いかけっこも、たくさんの天然の障害物があり、予測できない無意識開発のルート。雑木林で遊ぶと疲れは100倍、満足度も100倍になる。今日も僕たちはいつもの雑木林で遊んでいた。訪れたその景色に何ら変わりはなかったと思う。そこまで詳しく見てはいないが…。

「ちょっと待ってよ!それ僕のだよ!」

 「じゃあ取り返してみろよ康太!」

いつもの雑木林で僕たちはいつものように追いかけっこをしていた。自分も相手もこの手の遊びには慣れていた。しかし、この時、なぜか僕は魔が差し、いつもと違うルートで逃げた。もしかすると、飽きていたのかもしれない。

 ザッザッザッザッザッ

これまで来たことがないエリアに僕は侵入した。景色は何ら変わりはないが、その空気・雰囲気は明らかに異なっていた。

「そっち危ないって!戻ってこい!」

後ろから声が聞こえる。康太のやつ。康太の奴まさかビビっているんじゃないか?

「じゃあこれは僕のものってことでいいの!?」

僕は煽るような口調で康太は挑発した。すると康太は間隙なく

「そういうわけじゃいないけど…そっちなんていったことないじゃん!」

康太の声から勢いがなくなり、一抹の不安が空気に変わり口から漏れ出た。それと同時に後方の足音が急速に遅くなる。僕は走るのをやめ、歩きながら後ろを向いた。

「大丈夫だって!僕ちゃんと来た道覚えて…うわっ!!」

僕の目の前から康太が消える。消えるというより康太が上昇する。後ろを向いていたせいで前方の急斜面に気付かなかった。

「おーい!大丈夫か!」

上からそう聞こえた。

「うん。大丈夫ー」

背中が痛い。思いのほか腰も強打していた。こんな経験は初めてだった。漫画でしか見たことがなかった。

「今そっちに行くからー」

僕は仰向けに倒れている自分の体を起こし、とりあえず四つん這いになる。

(クソー。やっぱ知らない場所に来るんじゃなかった…)

ガサッ

僕の前の草むらから物音がする。とっさに前を向いたが誰もいない。気のせいかと思った次の瞬間。

ガサガサッ

やっぱり物音がする。動物か?気にはなるが動けない。

スラッ

問題は自ら現れた。すんなりと僕の目の前に。人生のターニングポイントはそのようにやってくると教えるように。

そこにいたのは……



 ミーンミーン。セミの声が聞こえる。夏になったとすでに理解していたが、この鳴き声を聞くとより強くそう思わせられる。俺にはこの鳴き声が「死ね」と言っているように聞こえるのだが俺だけだろうか。ひび割れたアスファルトを重い荷物を運びながら歩く。木陰ができているだけまだマシだが、足場が悪いため、余計に体力を消耗する。この道は長い一本道で同じ景色が目の前を流れる。

今でこそ慣れたが、最初のころはこの時間がなんとも嫌だった。気持ちをブレさせずこのなにもない一本道を30分歩けるようになったのはつい最近のことだ。


 青い地面に平らな石が真ん中に乗っかっている。俺は一つしかない少し朽ちている木製のベンチに腰かけ、ぼーっとその景色を見ていた。さすがに疲れた。

ここから見る海はとてもきれいで、目を見張るものがある。海の真ん中に浮かぶあの島の形は本当にきれいだ。

 「あ?斗真。もうきてんのかい」

目の前の小さな波止場に停泊していた小さなボートからおじさんがこちらに顔を出した。

 「いつからおったんじゃ。」

 「もう20分前にはこのベンチに座ってました。」

 「来たんやったら俺に一声かけてくりゃええのに」

 「だっておじさんいつも寝てるじゃないですか。」

 「まあ。そうだな。…もう出るか?もう少しまってほしんやが」

 「待ちますよ。」

そういって、手に持っていた競馬雑誌を置き、ボートの整備を始めた。カチャカチャという機械をいじる音が聞こえ始める。その間も、俺はぼーっと向こうの島を見ていた。

 「いつ見てもきれいだろー。水淵島は。」

 「え?あっはい。」

唐突に話しかけられ、俺は一瞬戸惑う。

 「昔はこの港からわんさか人が水淵島に行き寄ったからなー。」

 「そうなんですか?」

 「あらっ話したことなかったか?」

 「はい。」

 「父ちゃんからも聞いてないか?」

 「何も」

もう今回でこの帰省を始めて3,4回になるが、そんな話は初めて聞いた。お父さんからそんな話は一度も聞いたことない。

 「なんでそんなに人が押し寄せてきたんですか?」

おじさんはボートの中を雑巾で吹きながら、こちらに目をやらず答える。

 「UFO島って聞いたことあるか?」

 「UFO島?」

聞きならない言葉に、頭にはてなが浮かぶ。昼時になり気温はさらに上昇する。汗が額から滑り落ちる。

 「昔20年以上前かな。水淵島はUFO島って言われとった。」

 「…。なんでUFO島って言われてたんですか?」

それまでしていた作業を止めて、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの満面の笑みで、俺を見つめる。

 「水淵島。きれいだろ?形が。空から見ればきれいな円形になっとる。それを見た有名な都市伝説研究家がな、『水淵島は墜落したUFOからできた島だ』なんて言い出したんや。ようは水淵島があんなきれいな円の形をしているのはUFOがそのまま島になったからっちゅうわけだ。あんときは人面犬やらなんやらそういう話がはやっとってな。すぐ広まったんや。」

都市伝説研究家。そんな人がいるのかと、それが驚きだった。おじさんの話は止まらない

 「それで『あそこはUFO島や!』って話題なってようさん人がここまできた。あんときは観光目的で人が来るなんてことなかったから船が少なくて大変やった。本土からの物資を乗せる船に無理やり観光客乗せていきよったからなー。」

そう笑いながら首に巻いていたタオルで額の汗を拭く。タオルは薄汚れており、様々な用途で使われているのだろう。よくあれで顔が拭ける。

 「それでそん時の島の首長さんがそのブームにあやかりだしてな?わざわざ定期便まで作って港もこぎれいなった。そんでUFO島って大々的に宣伝しだして、島に宇宙人のオブジェやらUFOの模型やらなんやら置いて一大観光地にして一儲けしようとしたんや。それ、そのベンチの横に宇宙人の絵描いてる看板ないか?」

俺は右を向いて確認すると、確かに看板が仰向けに倒れていて、うっすら電球頭に大きい黒目玉の絵が見えた。

 「ほんとだ…」

 「それもそん時に作ったやつや。だいぶ金かかった思うで」

 「確かに。色々やってますね。でも、なんでまたこんなさびれちゃったんですか?」

 「終わったんや。」

 「終わった?」

 「都市伝説ブームが」

 「あー。なるほど…」

 「震災やらなんやらいろいろあって都市伝説自体が下火になってもうた。あとは、水淵島もUFO島とか言われとったけど、宇宙人の目撃情報とか島がUFOだっちゅう証拠もでてこんくて自然と人が減ってった。」

少し悲しい顔をしながらおじさんはボートの点検をする

 「定期便もしまいになって、島のUFO関連の施設もほとんど閉鎖なった。島民の連中には無理やり観光事業やらされとった奴もおって、不満が爆発してもうた。デモとか起こってもうて首長は辞任してもた。えらい島想いな首長やったけど、やり方がようなかったなー」

UFO島として盛り上がったのは数年なのだろう。長い間続いていれば、デモにまではならなかったかもしれないと俺は思った。

「それで今は、俺が注文があれば人乗せる人間なったっちゅうことや、ま、注文してくれんのは斗真んとこぐらいやけどな。」

ブロロロロロロッ景気の良いエンジン音が鳴り響く。ボートも気持ちよさそうだ。

「長いこと昔話して悪かったな!ほないこか!」

「お願いします」

俺は危なげなくボートに乗る。いつのも特等席に座る。左の隅の座席。このボートは特等席が取られることはないから安心だ。」

 港に一人待ちぼうけになっていたボートは、誰にも気づかれることなく発進した。




ボボボボボボボッ

 エンジンが失速し始める。そのタイミングで、俺は運よく目が覚めす。

 「おい斗真。着いたぞー。」

おじさんが後ろを向き、大きい声で俺に呼びかける。ボートはすでに港に横づけしていた。

俺は上陸しながら

 「おじさん。ありがとう。」

上陸し、俺は陸地に足をつけた。するとおじさんは笑顔で右手を俺の方に向け

 「何言うとんや。料金。」

 「え?」

 「お金やー。まさかこれ慈善事業やと思てないやろな?しっかり金もらうで!」

 「お父さん払ってないんですか?」

 「なんや聞いてなかったんか?金あるか?」

 「いや、ありますけど…」

俺は少し不思議に思うが、母からもらった帰省の時にもらえるおこづかいで料金を支払った。

おじさんとはそこで別れ、俺はお父さんの実家へ歩き出した。と言っても港まで車で迎えに来て九艇いるの…だが…

 「あれ?来てないのか?」

いつも停車している場所に車はなかった。周りを見渡しても車は1台も停まっていなかった。

 「ちょっと遅れてるのかな?いつもと同じ時間についてるけど。まぁちょっと待つか。」

俺は一人港で車の到着を待つことにした。ライムで「もう着いたよ」と一言お父さんに送った。


 スマホで時間を確認すると2時間立っていた。時刻は16時で、もうすぐ夕方になる頃だった。

ライムを確認しても送ったメールは既読すらついていなかった。もう2時間、車すら港についていなかった。人もまばらで知っている人にも出会えず、そろそろ我慢の限界だった。

 「もう歩いて行くしかないか」

俺は荷物を背負い、歩き出した。徒歩であれば港からお父さんの実家まで30分程度。体力がこの時点ですでにそがれておりこの道のりは苦痛だ。

 うちは離婚していて、お父さんは水淵島に住み、俺とお母さんは元々三人で住んでいた家に住んでいる。離婚理由はわからない。ただ、お父さんから離婚を切り出されたということはわかっている。

離婚の際の決まりで、夏休みは必ず俺が水淵島に行くことが決まっている。最初はお母さんと言っていたが、中学に進学してから一人で行かされるようになった。水淵島に行ってもやることは特にない。お父さんの両親は亡くなっていて、お父さんがいなければ本当にすることはない。それなのにお父さんは日中は外出している。だから俺はずっと宿題かゲームをしている。正直退屈だ。お父さんはご飯を作ってくれて、いつも二人で晩御飯を食べるが、あまり会話は発展しない。お父さんからはあまり話しかけてこない。なぜ俺は帰省させられているのだろう。まあ、部活もしてないし、島にいなくても何もしていない。島にいたほうがまだ刺激がある。そう考えれば、今味わっている苦痛も少しは和らぐ。


 お父さんの実家に到着した。家は木造の二階建てで、一階は居間やお風呂、台所があり、二回には物置、子供部屋がある。帰省すると、この子供部屋が俺の部屋になる。元々はお父さんの部屋らしい。

 ガラガラ

入口の引き戸を開ける。中の電気はついていないらしい

「ただいまー」


返答がない。誰もいないみたいだ。おかしいと思いつつ、部屋に上がる。テーブルには野菜などが置かれている。今日の晩御飯なのだろうか。そのほかには特に変わった様子はなく、二回の子供部屋に来ても、前回来た時と何ら変化はなかった。唯一おかしい点はここに人がいないことだ。

子供部屋の壁掛け時計を見れが時刻はすでに17時を回っており、あと少しで18時になろうとしていた。二階の子供部屋から外を覗いて確認したが、誰も帰ってくる様子がない。

(なにかあった?)

ここまでくるといよいよ心配になる。スマホを見てが、お父さんから連絡はなし。お母さんはお父さんの話になるとまともに取り合ってくれなかった。

〈こんなところに一人ぼっち?〉

俺は急に冷汗が垂れて、気が付けば家を飛び出していた。とりあえずこの島で知っている場所はすべて回った。家の近くの畑やちょっとした商店街、海岸まで。そんなとこにいるはずもないのに。

時刻は18時30分。俺はこのタイミングでこの島に展望台があることに気付く。

(島の中心にある水淵タワー。あそこなら全部見渡せる…!)

ここから走って20分かかるが背に腹は代えられなかった。

もうそこそこ疲れていた。何せ今日着いたばかりなのだから。重い荷物をずっと運んでいたし、本音のところ、早く帰ってご飯を食べて寝たかった。でもそれはお父さんがいないとできない。今日を終わらせるためには中年のおじさんを見つけるしかない。

 海岸から戻ってきて少しの砂利道を走っていると、50メートルほど先の脇道に、人影が見えた。背中を向けていたが、俺は一瞬で誰かはわかった。

(お父さん!)

発見できたことがうれしく、無我夢中でお父さんの元へ走った。

「お父さん!お父さん!」

走りながらなんとか呼びかけるが、なかなか応答しない。俺は聞こえないのか、脇道をぐんぐん進んでいく。俺はお父さんの跡を追いかけていくうちにわかったが、この方向は家の方向ではない。

(いったいどこへ向かっているんだ)

俺の目的は追いかけることではなく、お父さんの跡をつけることにへと変わっていった。


脇道から脇道に。どんどんと狭い道を選んで進んでいく。どこまで行くことになるのだろうか。

(もう思い切って声をかけてみるべきであろうか。いやそうしないとどこまで行くかわからない…)

そう考え俺は木の陰に体を隠すのをやめて声をかけようとした

 ガバ!

お父さんは勢いよく振り返ってきた。立ち止まってから振り返るまでのスピードが尋常ではなかった。俺はとっさに木に身を隠す。お父さんは何度か首を動かしながら後ろを確認し、

 ジャリジャリ

とまた歩き出した。(フー)と俺は胸をなでおろす。サッと前を確認する。お父さんの後姿が右に曲がった先へ消える。お父さんはチェックのポロシャツにジーンズだから、この空間だと目立つ。

俺は足音に注意しながら追いかける。

そして右に曲がると突き当りに小屋があることを発見する。この道は小屋に行くためにできたような道であり付き合たりが小屋で、お父さんがその小屋に入ったのは間違いない。

(なんの小屋なんだ)

木造で窓はなく、年季を感じさせる外見をしていた。

ガンラッ

砂がつっかえるような鈍い開閉音が鳴る。鍵をかかってないようだ。中は農作業用の桑などが置いてあり、草刈り機なども置いてあった。ただそこにおとうさんはいなかった。が

「なんか、これ動かした後かな?」

扉をあけた正面にあるタンスが右隅にあり、床にはそちらに引いた後があった。

俺はタンスの奥に面していた壁を触る。

 「まさか隠し扉とかそういう…」

ウイ――――ン

 この環境でなるはずのない音。この島では違和感しか感じない電子音が鳴る。そして壁が開き、白い壁に包まれた透明なガラス?で出来た下りの階段が出現した。

(な…どうなってんだ!なにこれ!?意味が分からん!)

あまりのことに頭の整理が追い付かず一時混乱したが、お父さんはこの先にいるとしか思えない。

(もしかしたらトラップが仕掛けられているかもしれない。まさか死ぬ?)

(これが離婚原因なの?お父さんは何してるの?)

様々な考えが俺の頭の中を巡回する。不安、不安、不安、好奇心。俺は数パーセントの好奇心を抱きしめながら、脆く見えるガラスの階段を一歩、踏み出すのであった。

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