9話 ヒュドラ退治(後編)
『こざかしい!! こざかしい!! こざかしい!!』
九頭巨大毒蛇は見境なく猛毒息を放っている。
……あからさまに怒ってるなぁ……
これだけの毒の瘴気に覆われたら、普通のパーティは全滅してしまうのだろうが、ユーリスが瘴気遮断の補助魔法をかけてくれているお陰で息苦しさは全くない。
おそらく、その余裕な態度も九頭巨大毒蛇を怒らせている原因の一つなのだろう。
「古代魔法光矢!!」
ドラグラが九頭巨大毒蛇の頭上から、古代魔法の光の矢を無数に放った。
スドドドドドドドドド!!!
「グオォォォォォォォォォ!!」
……というか、圧倒的……
正直、ドラグラとオムガとユーリスだけでも退治できるのでは?
ズサッ!
ズシャッ!
そんなことを考えている間にも、オムガが九頭巨大毒蛇の首を二つ切った。
ボスッ!
ドシャッ!
「雷爆発!!」
九頭巨大毒蛇の首が地面と沼の中に落ちた後、エンは雷属性の魔法を使って、同時に二つの切り口を焼いた。
これでようやく首四つ。
「……あと五つか……」
……何だか同じことの繰り返しね……
単純作業みたいになってくると、どうしても集中力が下がってしまう……
「あれ? さっき切った九頭巨大毒蛇の目、まだ光ってない?」
その時、重要なことを失念していたことを思い出した。
事が調子よく進み過ぎていてため、大事なことを忘れていた。
九頭巨大毒蛇の一つは不死の首であるということを……
『猛毒息!!』
エンの視界に入っていない位置から、九頭巨大毒蛇の猛毒息が吐き出される。
「エン!!」
ドン!!
私はエンの名前を叫びながら、エンを突き飛ばした。
「イラ?!」
「……間に合った……」
そう言った直後、私は九頭巨大毒蛇の猛毒息を全身に受けてしまった。
「イラーーーー!!」
「イラ殿!!」
「イラ!?」
前衛にいたエンとドラグラとオムガの声が聞こえたが、猛毒の瘴気に包まれて私は意識を失った。
◇
「ドラグラ、もし私の娘も転生してくることがあったら、娘のことをあなたにお願いしたいの……」
「……ラース様……。私にはその要望を受け入れることはできません……」
「えー、どうしてもダメなの?」
ラース様が頬を膨らませている。
「どうして私だけがラース様の娘に会う前提なのですか? 再会する時は、当然、ラース様も一緒ですよ」
「そっか、そうだよね」
ラース様は笑顔でそう言った。
「……ドラグラ……。……後のことはお願いね………」
「ダメです!! 後のことなんて知りません!! 生きて下さい!!」
私とユーリスで、ラース様に回復魔法を必死にかけ続けているが、生命力が戻る様子はない。
むしろ、命の灯は徐々(じょじょ)に消えようとしていた。
「……気持ちは嬉しいけど、もうダメみたい……」
「喋らないで下さい!! 私とユーリスが何とかしますから!!」
「……親の直感だけど、きっとあの娘はこの世界に転生してくるわ……」
「ラース様!!」
「だから、その時が来たら、あなたたちには娘の力になってあげて欲しいの……」
「分かりました!! 分かりましたから、どうかこれ以上は喋らないで下さい!! また元気になって一緒に娘む迎えましょう!!」
「ふふ、そうね。そうな日を迎えられたら、どんなに………」
最後まで言い切ることはできずに、ラース様の言葉はそこで途切れた。
「ラース様!? ラース様!!」
「ラース様!!」
私とユーリスが大声で呼び続けるが、ラース様が返事をされることはなかった。
オムガは遠くで天井を見上げている。
「ラース様ーーーーーーーーーーー!!!」
私は涙を流しながら、喉が切れそうになるほどの大声でラース様の名を叫んだ。
「……そうか、私はまた護ることができなかったのか……」
自分の不甲斐なさにイライラする。
私が間違っていた。
こんなリスクの高いモンスターで、イラ殿の戦闘経験を積ませるべきではなかったのだ。
「エン殿、イラ殿をユーリスの下へ連れて行ってあげて下さい……」
「……分かりました……」
しかし、あの時とは違う。
娘のイラ殿は、まだ死んだわけではない。
ユーリスの回復魔法で、きっと治療できる。
だから……
「オムガ、今からは全力で九頭巨大毒蛇を消し炭にするぞ!!」
「気が合うな、ドラグラ。俺も、ちょうど、お前にそう言おうと思っていたところだ!!」
少しでも早く九頭巨大毒蛇を倒して、イラ殿が安息できる場所に移動したい。
「古代竜!!」
「狂戦士!!」
私とオムガは幻獣の姿に戻った
その後、古代竜と人喰鬼に戻った私達が、九頭巨大毒蛇を倒し消滅させるまで、大した時間はかからなかった。
◇
「……ここは……」
「ここはギルドです!! イラ殿!!」
「……ドラグラ?」
珍しくドラグラが感情的になっている。
ガバッ!
「え? え?」
ドラグラが急に強く抱きしめたので、私は混乱してしまった。
「良かった。本当に良かった……」
あ、そうか、私、九頭巨大毒蛇の猛毒息をまともに浴びて……
ナデナデ!
涙を流しているドラグラの頭を私は優しく撫でた。
ドラグラだけではない。
疲労困憊しているユーリスの様子を見る限り、きっと全力で私を回復してくれていたのだろう……
それに、エン、オムガ、ミリアンナ、ハザン、それにダッフルさんまで、私の周りに集まって心配をしてくれていたようだ。
「ありがとう、ドラグラ、ユーリス……。ありがとう、みんな……」
転生する前の私の人生では、エンと祖父母を除いて、ここまで私のことを心配してくれる人はいなかった。
過去に自らの命を絶ってしまったことは間違いだった。
でも、エンが自らの記憶と引き換えに、私の意識を取り戻させてくれたお陰で、私は現実世界にいた時よりも幸せを感じさせてもらっている。
………だからこそ、エンの記憶を取り戻すために、私は戦い続けなければならない………
私は今まで以上にそう固く決意をした。
9話の最後まで読んでいただきありがとうございます!!
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