7話 ヒュドラ退治(前編)
『……ドラグラ……。……後のことはお願いね………』
「ラース様ーーーーーーー!!」
ガバッ!
目を覚ますと同時に、私は勢いよく身体を起こした。
……夢か……
そう、夢………
先代の憤怒の魔王ラース様が生きているはずがない。
………ラース様は、私の目の前で亡くなられたのだから………
「ドラグラ参謀? 大丈夫ですか?」
ユーリスが心配をして声をかけてくれた。
「……すまない、起こしてしまったか……。……ラース様の夢を見ていたのだ……」
「いえ、うなされても仕方がありません……。……ラース様が殺されたあの事件は、私にとっても悪夢のような出来事でしたから……」
「そうだったな……」
「傷心緩和!」
「……ありがとう、ユーリス……」
ユーリスが魔法を唱えて、心の傷を緩和してくれた。
◇
「今回のお主達への依頼は、九頭巨大毒蛇退治じゃ」
「九頭巨大毒蛇退治!?」
「……これは、また厄介な依頼ですね……」
ハザンからの依頼内容に驚いている私の横で、ドラグラがそう呟いた。
「正直、この依頼を受けてくれる冒険者がいなくてな……。お主達の腕を見込んでの依頼じゃ」
九頭巨大毒蛇は、九つの頭を持つ巨大な毒蛇で、沼地に棲んでいると言われている。
隣の王国に行く途中にその沼地があるらしいのだが、今はその沼地を避けて通っているため、かなりの遠回りをしているとのこと。
王国でさえ手をこまねいているほどの案件のため、難易度はSランク。
前回、炎竜の問題を解決した延長で、ミストラント王国から九頭巨大毒蛇退治の依頼が来たらしい。
確かに、その依頼の報酬額を聞くと、かなり魅力的ではあるが……
「……イラ殿、この依頼はあまりにも危険です……。辞退した方がよろしいかと……」
「ギルドマスター、ハザン!! その依頼、俺にも手伝わせてくれ!!」
ドラグラが最後まで言い切る前に、男がギルドマスターの部屋に入って来た。
容貌は小人妖精のように見える。
「ん、鍛冶屋のダッフルではないか? 何故、お主が九頭巨大毒蛇退治を手伝う必要があるのだ?」
「俺の娘は隣の王国の薬を使っているんだ!! ただでさえ高価な薬を使っているのに、九頭巨大毒蛇のせいで、最近は更に値段が上がっちまってる!!」
「……なるほどな……。だが、安心せい、ここにいる冒険者達が、その問題を見事に解決してくれるはずじゃからな」
え?
なに言ってんの?
「ほ、ほんとうですか!! ありがとうございます!!」
ガシッ!
両手で私の手を握り、涙を流しながらダッフルはそう言った。
……こ、これ、断れないやつじゃん……
行くしかないやつじゃん……
「わ、わかりました……。……任せて下さい……」
「……イラ殿……」
ドラグラがジト目でこちらを見ている。
し、仕方ないでしょ。
断れる雰囲気じゃなかったじゃない。
私は、そう心の中で弁解した。
「ありがとうございます!! 討伐に必要な装備は、何でも作らせていただきますので!!」
ん?
装備まで作ってもらえるというのであれば、あながち悪い話ではないんじゃない?
「……装備まで作ってくれるのなら悪い条件ではないんじゃない?」
「……うーん……。はぁ、危険には変わりないですが、仕方がないですね……」
溜息をつきながら、ドラグラもしぶしぶ了解してくれた。
「それでは、九頭巨大毒蛇退治の依頼、受けてくれるということでよいのじゃな」
「……はい、それでお願いします……」
……九頭巨大毒蛇に関しての知識がほとんどない状態で、依頼を受けてしまったが、本当に大丈夫だろうか……
依頼を受けさせることができて、ニコニコしているハザンの顔を見ながら、私もドラグラと同じような溜息をついた。
グイッ!
「え?」
エンが私の袖を引っ張った。
「ボク、ダッフルさんの家に行ってあげてもいいですか?」
「……もしかして、ダッフルの娘に回復魔法をかけてあげたいの?」
エンが頷いた。
……エンは本当に優しいよね……
記憶がなくて、自分も大変なのに、どうしてそんなに優しくなれるのだろうか……
エンが愛おしく思えて、私は人目もはばからずエンをギュッと抱きしめた。
ナデナデ!
前回は撫でられたので、今回は私がエンを撫でた。
「……イ、イラ?!」
エンが戸惑っている。
そんな仕草も可愛くて、私はクスっと微笑した。
「回復魔法を使うのなら、ユーリスも一緒に行った方がいいよね」
「はい、そうしてくれるとありがたいけど……」
そう言って、エンと私がユーリスの方を見ると、
「もちろん、僕も同行させていただきますよ」
と、ユーリスは答えた。
「「ありがとう、ユーリス」」
エンと私は感謝を伝えて、ユーリスにお辞儀をした。
「はぅっ!! ……期待されて、期待に応えて、感謝をされる……。これが友達というものなのですね……」
ユーリスが天井を見上げながら、何か分からない何かに涙を流しながら祈りを捧げている。
うん、悪い子ではないんだけど、ユーリスはちょっと不思議な感性を持っているようだ……
私は苦笑いをした。
「私も同行させていただきますね」
「あ、ドラグラも来てくれるの?」
「はい、装備を作ってもらえるのでしたら、九頭巨大毒蛇との戦いに備えて、防具に魔法付与も施したいですからね」
確かに、九頭巨大毒蛇の毒の息に対抗するには、ただの防具では心もとない。
「ありがとう、ドラグラ」
「べ、べつに、これぐらいは当然のことです」
ドラグラが少し照れた様子で、そう言った。
これはもう、ツンデレ確定でしょ!
……ほんと、楽しい仲間達だよね……
素敵な仲間達に囲まれて、私は本当に幸せだと思う……
7話の最後まで読んでいただきありがとうございます!!
7~9話は、前・中・後編の3話で一つの話になっています。
次回、「ヒュドラ退治(中編)」
今日の16時頃に投稿する予定です。




