6話 ギルドの初仕事(後編)
「ゴオォォォォォォォォォ!!」
炎竜が、炎の息を吐いた。
「氷壁!!」
すかさず、ユーリスが水属性の魔法で防いだ。
しかし、炎竜の炎の(息)ブレスの方が力が勝っている様子で、氷壁が徐々(じょじょ)に溶かされていっている。
「ウヒョヒョヒョヒョ、黒煙!!」
え?
……あの気持ち悪い笑い声の人も戦えるの?
ムランドフも戦いに加わってビックリした。
黒魔術を使って炎竜視界の遮っている。
驚いている場合じゃないよね。
私も戦わないと……
「闇風刃!!」
ザシュッ!
ザシュッ!
「グオォォォォォォォ!!」
闇属性魔法の黒い風刃を放って、炎竜の鱗を無数に切り裂いた。
おお!?
私の魔法も強いじゃん!!
「……でも、あの巨体には焼け石に水って感じだね……」
しかも、傷つけられれば傷つけられるほど、炎竜の怒りが増していっているようにも見える……
ん?
……そもそも、何であんなに怒ってるんだろう……
戦いが始まる前から怒っていたような気がする。
「……ドラグラ、炎竜って、元々あんなに怒りっぽい気性なの?」
「……改めてそう言われると、確かに妙ですね……。炎竜には知性がありますから、何の理由もなく人を襲うことはないと思うのですが………」
ドラグラも疑問に感じたようだ。
「エン、ミリアンナ。二人の魔法で、炎竜の動きを止められるかな?」
二人は頷いた。
「稲妻!!」
「竜巻!!」
「グオォォォォォォォォォ!!」
エンとミリアンナが、雷属性の魔法と風属性の魔法を同時に唱えて、炎竜の動きを封じた。
……動きを止めてくれたのいいんだけど……
息がピッタリ過ぎない?
思わず嫉妬してしまう……
私は首を横に振って、余計((よけい)な思考をかき消した。
今は思念に囚われている場合ではない。
「ドラグラお願い」
「承知しました」
そう返事をすると、ドラグラが炎竜の顔の近くまで飛行した。
そして、ドラゴンの言語で何かを話し合っている。
「何故、そんなに怒っているのですか? もしかして、何か事情があるのではないですか? と聞いたところ、幼竜を奪われたと言っていました……」
戻って来たドラグラは、私達にそう告げた。
「……それって……」
私とドラグラが、ムランドラを見ると大量の冷や汗を流していた。
「……ムランドラ……。……もしかして、今回の依頼……」
丁寧に。
しかし、あからさまな怒気を込めて、私はムランドラを問い詰
める。
「ムヒャ?! な、なんのことでしょうか……」
ムランドラが目を泳がせながらそう言った。
「とぼけても無駄よ!! あの荷馬車の中を見せなさい!!」
明らかに厳重に作られている荷馬車を指差して、私は怒りの声を上げた。
私の魔力に呼応し、大地が微動する。
「ハヒィィィ!! わ、わかりましたーーー、お見せしますーーー!!」
「……こ、これは……」
荷馬車の中には、幼竜が閉じ込められていた。
「……炎竜が怒っていた原因は、これだったんですね……」
ドラグラが唖然としている。
同じドラゴン族として、考えられない所業なのだろう。
「ムランドラ!!」
「……バレてしまいましたか……」
「ご存じだとは思いますが、ドラゴンの捕獲は国法違反ですよ」
「ウヒョ、……こんなっては仕方がありませんね……。転移魔法陣!!」
ムランドラが、突然、転移魔法を使った。
「なっ!?」
「それでは、またどこかでお会いしましょう、イラ様。ムヒャヒャヒャヒャ!!」
ムランドラはそう言い残して姿を消した。
「いつでも逃げられるように、荷馬車の中に転移用の魔法陣が書いてあったようですね……」
「……用意周到ね……。まあ、幼竜は取り戻せたからいいんだけど……」
幼竜と一緒に転移はできなかったようだ。
「さっそく、炎竜に幼竜が無事だったと伝えてもらえる?」
「承知しました」
◇
幼竜を返すと、炎竜の怒りは収まった。
傷つけてしまったことはドラグラを通して謝罪し、ユーリスの回復魔法で傷は治した。
あの後、ミストラント王国の憲兵に国法違反した商団のことを報告した。
どうやら、国法違反の商品を取り扱う闇商人達だったらしい。
「……それにしても……。今回の報酬は結局これだけなのね……」
商団が逮捕されたため、今回の報酬はミストラント王国からの感謝金のみ。
「何も貰えないよりはよかったんだけど……」
報酬は当初の百分の一ほどになってしまった。
これでは装備を揃えるどころか、次の依頼を受けるまでの資金すら足らないかもしれない……
「どうやらお困りの様じゃな、イラ殿」
「……ハザンさん? ……そうなんです。今回の依頼の報酬が激減してしまったので……」
「今回の事件はギルドマスターとして、ワシにも責任がある。そこでじゃ、お主達の資金が貯まるまで、このギルドの空き部屋にしばらく泊まるというのは、どうかな?」
「え、いいんですか?」
「国法違反をしていた闇商人達を逮捕できたことは、このギルドの箔にもなったのでな……」
「まあ、そう言っていただけるのであれば……」
願ってもないことだ。
人数が多いので、正直、宿代の出費が一番かかる。
「というわけで……。ミリアンナたーーーん!! また、しばらくじーじと一緒に過ごせるぞーーーーーい!!」
「いい加減にしろーーーーー!!」
ドカッ!
「ごふっ!!」
ギルドマスターが懲りずにミリアンナに抱きつこうとしたが、再び右足で腹を蹴り飛ばされていた。
「う、ミリアンナたんの愛が痛い……」
「愛じゃないわ!!」
そう声を上げながらも、こっそり微笑しているミリアンナの表情を見ると、ハザンさんとのこんな関係が嫌いなわけではないのだろう。
「……絶対にこれが本当の目的だったよね……」
それでも宿代が助かることには変わらないので、別にいいんだけど……
二人の寸劇のようなやり取りを見ながら私は苦笑した。
6話の最後まで読んでいただきありがとうございます!!
評価やブックマークが多かった作品は続きを書いていきたいと思っています。
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次回、「ヒュドラ退治(前編)」
1時間後くらいに投稿します。




