4話 ギルドの初仕事(前編)
ガヤガヤガヤガヤ!
「……ここがミストラント王国の城下街なのね……」
城下街に入ると、大勢の人で賑わっていた。
私達の普段の擬人化は角や翼を残しているが、警戒されないように今は角や翼も無くしている。
……いつか、エンとここでデートしたいなぁ……
私はデートしているカップルを眺めながら胸中で呟いた。
そのためにも……
「まずは、ギルドという所で、仕事を探した方がいいのよね?」
「はい、冒険者が手っ取り早くお金を稼ぎたい時は、仕事斡旋所、通称ギルドの仕事を手伝うのが一番です」
ミリアンナがそう答えた。
魔王として蓄えていた財宝は、配下だった魔族達が悪さをしないようにとほとんど分配してしまったので、今は生きていくのに最低限必要な資金しか持っていない。
魔王の時に使用していた装飾は、人間の姿でいる時には装備できないので、装備を揃えるためにもお金を稼ぐ必要がある。
「というわけで、ここがミストラントのギルドです!」
いかにもギルドという雰囲気の建物の前に辿り着いた。
「それでは、さっそく入りましょうか」
ガチャ!
「お、ミリアンナじゃないか、久しぶりだな」
中に入ると強面の男が、ミリアンナに声をかけてきた。
「ハッハッハッ! 今日は彼氏の勇者様と一緒か?」
「そ、そんな、彼氏だなんて……」
ミリアンナは恥ずかしそうに顔を赤らめて、エンに肩を寄せた。
エンはよく分かっていない様子で戸惑っている。
……そうなんだよね……
傍から見たら、二人がお似合いなのは分かっている……
でも。
「いえ、ただの仲間ですから」
私は二人の間に割って入って、強面の男にそう告げた。
……こんな小さなことを気にして、大人げないとは思う……
それでも、エンだけは譲るわけにはいかないから……
「お、修羅場か! さすが勇者様、モテモテだな!」
「むーーーーー」
ミリアンナが邪魔をされて、頬を膨らませている。
「……ミリアンナ様……、今日はギルドマスターに会いに来たのではないですか?」
収拾がつかなくなってきたと判断したのか、ドラグラが助け舟を出してくれた。
グッジョブ、ドラグラ!
「そ、そうでしたね。ギルドマスターには、私の仲間として紹介しますね」
「ありがとうございます。ミリアンナ様」
そう言って、ドラグラは一礼した。
さすが、暴君に仕えていたドラグラ。
場を収めるのが上手い。
コンコン!
「入れ」
「お邪魔します」
ドアをノックした後、ミリアンナがギルドマスターの部屋に入った。
「おーーーーー!! ミリアンナたんじゃないですかーーーー!! 最近、顔を見せないから、じーじは寂しかっ、ごふっ!!」
ギルドマスターが急にテンションを上げて、ミリアンナに抱きつこうとしたところ、ミリアンナが右足でギルドマスターの腹を蹴り飛ばした。
「おじいちゃん!! 恥ずかしいから、ギルドでその呼び方はやめてって言ったよね!!」
「……だってーーー……、あまりにも久しぶりじゃったから……」
ギルドマスターが寂しそうにいじけている。
「え? え?」
一体、何が起こっているの?
ギルドマスターは、ミリアンナの祖父ってこと?
「はぁ、この人がギルドマスターのハザン。……さっきのやり取りで混乱したと思うけど、本当の家族ではないわ……。血は繋がっていないけど、私の身元引受人になってくれているの……」
「昔はあんなに、じーじ、じーじって言って、ワシについて来てくれていたのに……」
「い、いつの話をしてるのよ!」
……ま、まあ、悪い人ではないのは、よく分かった……
ちょっと変わってるけど……
私は苦笑した。
「それよりも、今日はどうしたんだ。ミリアンナ?」
急に真面目な顔に戻った。
「あ、そうそう、今日は新しく仲間になった人達を紹介したくて」
「おお、本当か!! ミリアンナにも、とうとう仲間が!!」
ハザンが、腕で涙を拭っている。
「もう、そういうのはやめて……」
「す、すまん……」
ミリアンナに睨まれて、ハザンが謝った。
「……とはいえ、コミュニケーションが苦手なミリアンナと仲間になってくれる人が四人もいるとは、ありがたい話だ……」
「おじいちゃん!」
「いや、これは真面目な話だよ、ミリアンナ。ワシからも仲間の人達にお礼がしたいのだ」
ハザンは真剣な顔でそう言った。
「ミリアンナの仲間の皆さん、これはギルドマスターとしてではなく、ミリアンナの身内としてにはなりますが……。ミリアンナの仲間になってくれて、ありがとう。ワシの我がままですが、できればこれからもミリアンナと仲良くしてあげて欲しい……」
そう言って、ハザンは頭を下げた。
「……おじいちゃん……」
……身元引受人ということは、ミリアンナにも複雑な過去があるのだろう……
私も両親がいないので、その辛さは分かる……
「……分かりました、ハザンさん……。ミリアンナは仲間ですが、友達でもありますので、仲良くしたいと思います……」
「……友達……」
ミリアンナが、『友達』という言葉に反応していた。
ギルドのメンバーからは愛されているようには見えたけど、もしかすると、今まで友達と呼べるような人はいなかったのかもしれない。
……咄嗟に出た言葉だったけど……
実際に友達として付き合って行くのも悪くないのかも……
「イ、イラがどうしても友達になりたいというのなら、な、なってあげてもいいよ……」
……お前もツンデレか……
この世界、ツンデレ多いな。
「じゃあ、これからもよろしくね。ミリアンナ」
「うん」
ふふ、嬉しそうな顔しちゃって。
不思議とミリアンナが可愛く見えてきて、気がつくと頭を撫でていた。
「ふにゅーー」
撫でられて気持ちがいいのか、ミリアンナが脱力している。
……とはいえ、エンのことでは、これからも喧嘩にはなるとは思うけど……
ミリアンナの意外な一面を垣間見て、仲良くしたいと思ったが、同時に、恋愛に関しては妥協できないだろうなぁと心の中で呟いていた。
4話の最後まで読んでいただきありがとうございます!!
4~6話は、前・中・後編の3話で一つの話になっています。
次回、「ギルドの初仕事(中編)」
今日の7時頃に投稿する予定です。