魔王の世界1
少し魔王について話をしよう。
彼の名はアヴァドン。
彼が魔王軍を率い、世界の命運をかけて戦うこと3回。
全てに勝利してきた。
最初の勝利をおさめた世界は、彼が生まれ落ちた世界だった。
その世界には、海に浮かぶ大きな大陸が2つあった。
片方には女神を主神として崇める人間やエルフといった種族が住み、もう片方には魔神を主神として崇める魔族や魔獣といった種族が住んでいた。
人間たちの住む大陸を女神大陸、魔族たちの住む大陸を魔神大陸と呼んでいた。
魔神大陸には、魔王が治める「魔王国」のみが存在し、その頂点に立つものが「魔王」と呼ばれていた。
そんな世界で、アヴァドンは魔王一族の長子として厳しく育てられた。
魔神大陸は魔素が濃く、魔族や魔獣が住むのに適しており、反対に、女神大陸は魔素が薄く、魔族や魔獣にとっては魅力ない土地だった。
加えて、女神大陸と魔人大陸を隔てる海は広く、海流も早い。
2つの大陸に住む種族たちは、長い間互いに干渉しあうことはなく、平穏な関係性を保っていた。
しかし、女神大陸に人間至上主義の帝国が誕生し、状況が一変する。
女神大陸はそれぞれの種族がそれぞれの国を持ち、人間はそのうちの1つの種、1つの中規模な国家だった。
そんな人間の国である時偶然に、強力で広範囲に影響を及ぼす魔法が開発された。
魔素の薄い女神大陸では魔法の発達が遅く、魔法に対抗する術も魔神大陸ほど確立されていなかった。
そして、タイミングの悪いことにその魔法が人間至上主義を掲げていた人間国の第二王子の手に渡ってしまった。
そこからはあっという間だった。
人間国はその第二王子のものとなり、名を帝国に改め、周辺の、帝国の言葉を借りるならば亜人の国々を次々と侵略し、支配下に置いた。
帝国はほんの数年で、数多くあった女神大陸の国々の8割ほどを手中に収めた。
帝国の建国、侵略はすぐさま魔王国にも伝えられた。
帝国の欲は留まるところを知らない。
次のターゲットは魔神大陸、魔王国だというのが魔王をはじめ、アヴァドン、臣下、国民皆の共通認識だった。
ただ、帝国が脅威かと言われれば、そうでもないといえた。
専守防衛に徹すればよい魔王国と違い、帝国は広く荒れた海を渡り、補給線を維持しながら慣れない土地に攻め入らなければならい。
詳しい地理もわからず、兵站が途切れれば孤立無援の戦いを強いられる。
それに、帝国が開発した魔法も、女神大陸の国々には脅威だったが、魔法の発達した魔王国では対処法が確立されている。
魔王国は帝国の侵略を防ぐべく、帝国が女神大陸の国々を侵略する間に、二つの大陸を隔てる海から魔王城まで十重二十重の防御線を構築していった。