つながった世界
南極に近い、とある無人島。
暗雲が立ち込め、雷鳴がとどろき、強烈な光と共に・・・といった派手な演出は一切なく、日付が変わると同時に、闇の中からそっと、音もなくその巨大な姿を現した。
高さ、幅共に25メートルはゆうにありそうなその巨大なゲートは、灰色の2本の大きな門柱と同じく灰色の門扉によって形成されていた。
装飾はなく、人工物と言われればそう思えるほど無機質な姿だった。
ズズズ・・・
空気が震え、巨大な門扉が地球に向かって開かれた。
「ここが、地球か。」
門扉を開き、聞きなれない言語でそう呟いたのは、魔王軍の首領、魔王その人だった。
背丈は2メートルほど。
2本の腕に2本の脚。
見た目は人間のようだが、その背には大きな翼があり、頭には2本の角が生えていた。
地球でいうところの「悪魔」を想像すると分かりやすいだろう。
魔王はゆっくりと足を進め、名もなき無人島に降り立った。
島の広さと魔素の有無を確認し、懐から魔道具を取り出した。
「不可視化 認知阻害結界発動」
魔王の言葉に反応して、魔道具が青く光る。
光は半球状に広がり、島とゲートをすっぽりと覆った後、消えた。
この魔道具の効果により、近くを船で通りかかってもゲートを視認することは不可能となり、この無人島を意識することも難しくなった。
とはいえ、ゲートの出現から魔道具の発動まではまったくの無防備状態。
魔王はゲートの前で仁王立ちになり、そのわずかな隙にここを感知したかもしれない勇者に備えた。
本来なら魔王はラスボス。
初っ端の戦闘に登場するべくもない存在なのだが、魔王には思うところがあった。
この世界、地球を終の棲家とするという強い思いが。
その為に、初動を間違えるわけにはいかない。
特に勇者との戦闘は細心の注意を払わなければならない為、他の誰にも任せることはできなかった。
「・・・・」
7月、南極に近いこの島の季節は冬。
夜中の気温はマイナス20度を下回る。
それでもなお魔王は微動だにせず警戒を続けていた。