別離
行き場のない虚しさと悲しみを抱え、真っ暗な闇を永遠に彷徨う。
そんな夢を見た気がした。
「あ、、れ?寝てた?」
時計を見ると、夜の10時を回っていた。
「え!10時?
6時前じゃなくて!?
そんなに寝てたの?」
寝入った記憶はない。
仮眠をとるにしても、椅子に座ったままだなんて変だ。
と、そこで初めてテーブルに置かれた記憶玉に気づいた。
記憶玉には私の字でメモが張り付けられていた。
『つらい記憶をどうしても思い出さなければならないと感じた時に、この記憶を開封しなさい』
「何、このメモ。
・・・この記憶玉に、つらい記憶を移したっていうことかしら。」
気になる。
午後6時から午後10時までは寝ていたのではと思ったが、おそらくその時間の記憶を記憶玉に移したのだろう。
私が行ったことだけれど、私のあずかり知らないところで記憶が欠落しているというのは、どうにも気になる。
カチャン
「ん?何?」
足を動かそうとして、何かに当たった。
見ると、初級ポーションの瓶が2つ転がっていた。
「・・・・・」
つらい記憶を移した記憶玉。
直筆のメモ。
使った覚えのないポーションが2つ。
これらから導き出される私の行動はおそらく、
「最低2回は記憶玉の記憶を開封したようね。
そして、そのあまりの辛さに自分を傷つけた・・?
テーブルか壁にでも頭を打ち付けたのかしら。
けれど命を絶つほどではなく、ポーションで回復。
同じことを繰り返さないようにメモを残した。」
よく見ればメモに数滴、涙の跡が見て取れる。
文字も心なしか震えているようだ。
私は記憶玉をアイテムBOXへ収納した。
つらい記憶を思い出さなければならない、と感じる時がどんな時かわからない。
けれど、過去の私が開封するなと言っているのだから、開封しない方が身のためだ。
「そういえば、黒田からもう一週間以上連絡がないけれど、どうしているかしら。
うまく隠れられていればいいけど。」
黒田のおかげで世界中に拠点を準備できた。
食料をはじめとした物資も十分に備蓄できた。
感謝してもしきれない。
もし魔王軍に追われここへ逃げ延びてきたならば、かくまってもいいと思うくらいの関係性になったと思う。
「ふふ。
そんなことを思ったら、アトラスが嫉妬するかしら。」
久しぶりに呼ぶ、二度と会うことの叶わない愛しい人の名前。
なぜ今、アトラスのことを思い出したのだろうと不思議に思いつつ、最終確認を行っていないことに気づき、あたふたと動き出した。
ゲートが開くまであと1時間。