表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三度目の世界は救いません  作者: 金木犀
第6章 別離
92/135

会わんとぞおもう

無理。できない。

彼の覚悟を、尊厳を踏みにじるようなことはできない。

大切だから守りたいけれど、目的の為ならばどんな手段をとってもいい、というわけではない。

大切だからこそ、超えてはいけない一線がある。

その一線を越えれば、アトラスは二度と私に微笑みかけてはくれないだろう。



「ありがとう、澪。」


そんな私の気持ちを知ってか知らずか、アトラスは私をもう一度強く抱きしめると、そっと体を離した。


「それじゃあ、そろそろ行くよ。」


「・・・・うん。」


必死に涙をこらえて、不細工な作り笑いをする。

微笑みを返すアトラスの頬にも、涙が流れていた。


大きく息を吐いて、アトラスが出口に向かって歩き出す。

すぐに玄関に到着し、アトラスは扉を開けて外に出た。


「またね、澪。」


「また、ね。アトラス。」


夜のとばりは降りて、真っ暗になっていた。

最後にもう一度キスをして、アトラスは溶けるように夜闇の中に消えた。



アトラスが闇に消えて、今更ながらに納得した。

見ず知らずの男に家族を殺された私が、なぜ見ず知らずの怪しい男を助けたのか。

家に連れて帰り、治療をし、警察から庇った。

藤谷の居場所と復讐するための拳銃を調達するためとはいえ、もう一度会う約束までした。

メッセージが届いた後は、もう彼の協力なしに復讐できる力を得たというのに、異世界転生・魔王侵攻の秘密を共有し、復讐に手を借りた。


「ああ、どうしてもっと早くに自覚しなかったんだろう。」


全ては、黒田がアトラスだったから、だから助け、秘密を話し、協力を頼んだ。

気づいていたのだ。

私の魂か、第六感か、潜在意識かわからないが、気づいていた。

ただ、それを自覚できなかった。


「黒田がアトラスだって、初めて会った時に分かっていれば、ずっとその時から説得して、バレないように追跡魔法をかけて、そして・・・」


そうすれば結末は変わっていただろうか。

・・・わからない。

もう何も、考えたくない。


ぽつぽつと降り出した雨はすぐに勢いを増し、アトラスが消えた闇の中、泣き崩れている私を容赦なく濡らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ