われても末に
これはアトラスの優しさなのだろうか。
その程度の事を私が跳ねのけられないわけがない。
アトラスもそれを分かっていながら、さももっともらしい理由をつけて、私を戦場から遠ざけようとしている。
ああ、きっと、どれだけ言葉を尽くしても、どれだけ泣いて縋っても、アトラスの意思は変わらないのだ。
このまま意味のない問答を続けて、彼が最後のカードを切る前に、受け入れるべきなのだ。
アトラスは超一流のシーフだ。
隠れ忍び、見つからないことにかけて、私は彼に到底及ばない。
それはつまり、
『どうしても戦いに付いてくるようなら、もう二度と会わない』
そう彼が決断し、実行したならば、二度と彼と会うことは叶わないという事だ。
アトラスは、一度決めたことは最後まで貫く頑固者だ。
ならば、私が取れる最良の手段は・・・
「・・・分かった。
アトラスの言う通りにするよ。
その代わりに、約束して。
もう絶対に死なないって。
必ず私に会いに来るって。」
「・・・約束する。
絶対に死なない。
また澪に会うまで、何が何でも生き延びるよ。」
「絶対、ぜったいだからね。
また死んじゃったら許さないんだからっ!」
「ああ。絶対に死なないよ。
約束だ。」
そう言ってアトラスが私の涙をぬぐう。
少しだけはっきりした視界にアトラスの顔が映り、近づいてくる。
唇と唇がそっと重なって、離れて、もう一度重なって、強く抱きしめあった。
きっとこれはお別れの合図。
そして最後のチャンス。
魔法で彼の自由を奪い、強制的に彼を・・・・
アトラスを拘束する魔法が口の端まで到達する。
守りたい、嫌われたくない、愛している、傍にいてほしい。
色々な感情が渦巻き、アトラスを掴む手に力が入る。
一言、一言魔法を唱えれば、私の望む未来が手に入る。
「っ・・・」