厄介ごと
「お嬢さん、ちょっと手を貸してもらえるか?」
しくじった・・厄介ごとに巻き込まれた。
でも、ここでそれを顔に出せば、相手につけこむ隙を与えるようなものだ。
「・・人にものを頼む態度ではないわね。」
「確かにな。」
冷静になれ。主導権を奪われてはいけない。
「そんな物騒なものをこっちに向ける元気があるのなら、救急車を呼んだ方が早いわよ。」
「そうしたいのはやまやまなんだが、こんな物騒なモンを持ってたら警察をよばれちまう。
それは困るのさ。」
「私が警察を呼ぶとは考えなかったの?」
「考えなくもないさ。
ただお嬢さんからはなんだか俺と似たようなニオイがするんだよな。
事実、悲鳴も上げずに淡々としているしな。」
「・・・」
男までの距離は約2メートル。
拳銃を持つ手が小刻みに震えている。
気丈にふるまっているが、結構なケガをしているようだし、一気に間合いを詰めて拳銃を蹴り飛ばすことは難しくはなさそうだ。
そもそも、ここで発砲などしたら警察がやってくることは間違いない。
その事態は男にとって好ましい展開とはいえないだろう。
・・あれはただのハッタリだ。
間合いを測り、走りだそうと力を込めたときだった、
「礼はする。必ずだ。」
こちらの意図を読んだのか、拳銃は降ろさず、交渉を持ち掛けてきた。
「・・ふーん。何をお礼してくれるのかしら。」
「命をかける以外のことで、1つ、なんでもそっちの言うとおりにする。
金なら、言い値を払う。どうだ?」
「・・・・3つよ。3つなら助けてあげる。」
「はは、俺みたいな相手に、まったく、強欲で肝の据わったお嬢さんだな。
頼む。その条件をのむから、助けてくれ。」
男の腕の力が抜け、ガチャリと音をたてて拳銃が地面に落ちた。