瀬をはやみ
「アトラス」
「澪」
二人の言葉が重なる。
「澪、そんな泣きそうな顔をしないで。」
私の頬にアトラスの手が添えられる。
先ほどまでの感動の涙は、アトラスが魔王軍との戦いを選んだのではないかという結論に至った瞬間にどこかへ消え去った。
きっと恐れ怯えた顔をしていたのだろう。
きゅっと眉を寄せ困ったような顔をしたアトラスが、さらに言葉をつづけた。
「きっともう分かってしまったと思うけれど、僕は魔王軍と戦ってこの世界を救うよ。」
聞きたくなかった言葉。
心臓を誰かに握りつぶされたかと思うほどの痛みが走り、息ができなくなる。
アトラスの声にも瞳にも覚悟が宿っている。
だめだ、このまま何もしなければ、何も言わなければ彼はいなくなってしまう!
「い、い、嫌だ、そんなこと言わないで!
一緒に隠れよう?
アトラスが戦う必要なんてない!
地球には私の想定で100人程度の勇者がいるよ?
きっと、シーフは何人もいるよ!
私とアトラスがいなくても、きっと魔王軍に勝てるよ!」
「澪・・。
それでも僕は、戦うよ。」
「わ、わかった!
じゃあ私も戦う!
アトラスと一緒に戦うから、だから、一緒にいて!」
アトラスの腕をぎゅっと掴み、叫んだ。
私が世界を救わないのは、この世界に救う価値がなかったから。
でも、今は違う。
アトラスがいる。
世界を救うことがアトラスを守ることの延長にあるのなら、この世界を救おう。
「だめだ。
澪は戦わないで隠れているんだ。」
予想だにしていない返答だった。
アトラスの目的が世界の救済ならば、戦力は多い方がいいはずだ。
それに、私はその辺の魔法使いと比べて倍のステータスを持っている。
貢献度ポイントショップも使い放題といっていい。
それなのに、なぜ参戦を拒むのか、理解できなかった。
「どう、して?
私、強いよ?貢献度ポイントもいっぱい持ってるよ?
今度こそアトラスを守れるよ?」
「確かに澪は強い。
アスガルドの頃より強いことも知ってる。
それでも、僕は澪に戦ってほしくないんだ。
生きていてほしいから。」