違和感
20XY年7月14日。
ゲートが開くまであと数時間。
準備も何とか間に合ったし、人間勢力からの接触もなかった。
あとはひそかに隠れ続けるだけだ。
ピンポーン
夜のとばりが降りる頃、不意にチャイムが鳴った。
第一拠点の地上部分は実用性のない張りぼてだが、普通の家に見えるよう、普通の家にあるものは全て設置している。
とはいえ、訪ねてくる人などいないのだから、チャイムなど鳴るはずもない。
加えて、周囲に設置した感知センサー、感知用の魔道具は一切反応していない。
これだけの手練れならば第一拠点の中に侵入することは容易いはず。
それなのにわざわざチャイムを鳴らすということは、私に用があるのだろうか。
「誰?」
恐る恐る管制室のモニターで姿を確認する。
そこには、黒田が映っていた。
「え?黒田?」
モニター越しでは鑑定を使えないが、黒いスーツの上下を身にまとったその男性は、どうみても黒田のようだった。
今までアポイントメントを取らずにここを訪れたことはなかったが、何かあったのだろうか。
「誰かと思ったわ。
どうしたの?
最近連絡が付かなかったから、てっきりどこかに隠れたんだと思っていたわ。」
インターホン越しに黒田に話しかける。
「ああ、すまない。
最近ちょっと忙しくてな。
ゲートが開くのは明日だろ?
その前にどうしても話したいことがあるんだ。」
声も聞き覚えのある声だった。
喋り方やちょっとした仕草もいつもと変わらない。
「わかったわ。
鍵を開けたからそのまま入ってきて。
地下に通じる入口まで迎えに行くわ。」
「ああ。ありがとう。」
対面して鑑定を使えば黒田か黒田じゃないかはっきりする。
私は転移魔法で地下へ続く入り口まで移動した。
この時に違和感に気づいていたとして、結末は変わっていただろうか。
・・いや、変わらなかっただろう。
気づくなら、もっと早く気付かなければならなかったのだ。
そう、初めて会った時に。