宿願5
場面は変わって、ここは第一拠点の独房。
狭く、うすら寒い独房の中に藤谷を放り込んだところだ。
「う、うう。」
「あ、起きた。」
「! !??」
藤谷にしてみれば、死んだかと思うほどの痛みを味わった次の瞬間には、見たこともない場所に移動していた。
といった状況だろう。
全く事態を呑み込めていない藤谷に、そっと近づく。
「ひっ。」
私に気づいた藤谷が、情けない声をあげながら後退るが、すぐに壁に当たってしまった。
独房の広さは全部で畳二畳ほど。
トイレと寝るスペースがあるだけだ。
「ふふふ。
安心して。すぐに殺したりはしないから。
というか、私忙しいのよね。
アンタをどうこうする時間はたっぷりあるけれど、準備する時間はあと10カ月しかないの。」
「な、何を言っているのかわからない!」
「わからなくて結構よ。
ただ、忙しいからアンタに構っていられないってだけよ。
とはいえ餓死されても困るから、とりあえず水と食べ物をあげる。」
アイテムBOXからどさどさと水と食料を取り出す。
「電気代がもったいないから、電気は消したままにしておくわね。
トイレはそこにあるからご自由に。」
隣接する実験室の明かりが独房に差し込み、驚きと恐怖でパニックになっている藤谷へ、私の影が落ちている。
「それじゃあ、1カ月以内には戻るから、それまで頑張って生きていてね。」
藤谷がなにがしか叫んでいるようだったが、無視をして扉を閉める。
この扉は魔法錠と電子錠の組み合わせだ。
絶対に出られない。
回復魔法を仕込んでいるので、自殺もできない。
食料は水以外腐る可能性のあるものばかりを選んだ。
そんな環境で暗闇とともに1カ月。
「反抗の意思を摘んでおくのは、拷問の基本よね。
3回殺して3回生き返らせて、殺してくれって泣いて頼んでも殺してあげないわ。」
実験室の明かりを消し、居住スペースへ移動する。
そろそろ黒田が特別監房を出た頃合いだろうか。
車を返すついでに今後の打ち合わせでもするとしよう。