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危険な匂いがする奇縁
職場からの帰り道そんなことを考えながら歩いていると、ふとどこからか「ぐぅぅ」といううめき声が聞こえてきた。
いつもなら聞かなかったことにして通り過ぎるのだが、なぜか今回はその声が気になってしまった。
しばらく辺りを探すと、路地の裏にうずくまった男を見つけた。
その瞬間、懐かしい匂いがした。
血の匂い。
異世界でいつも纏わりついていた、あの匂いだった。
初夏だというのに、肌がぞわりと沸き立ち、背筋に冷や汗が流れる。
魔物の姿が見えた気がした。
「そんな、ばかな。」
すぐにかぶりを振る。
この世界に魔物なんていない。
血の匂いは本物だが、この世界で人を傷つけるのは人だけだ。
「大丈夫ですか?」
そう声をかけようか迷った。
声をかければこの男は助かるだろう。しかし、面倒ことに巻き込まれる、確実に。
異世界にいたころなら迷わずに切り捨てていただろう。
・・そんな逡巡が命取りだった。
気づくと私に銃口が向けられていた。