宿願1
ガチャン
監視室と廊下をつなぐ扉を開ける。
明るく、まっすぐと伸びた廊下の先に、特別監房室が見えた。
一歩踏み出そうとして、いつの間にか息を止めていたことに気づく。
「すう・・はあ・・・」
大きく深呼吸をして、足を進める。
カツン、カツンと廊下を歩く音が響く。
歩を進める度、心臓の鼓動が早くなり、呼吸も荒く、体温も上がっている。
そう長くないはずの廊下が、とてつもなく長く感じた。
これは、恐怖か?
恐怖がまた私を支配しようとしているのか?
「ここ、か。」
実際にはほんの数秒で特別監房室にたどり着いた。
ポケットから鍵を取り出す。
カチ、カチ
なかなか鍵穴に鍵が刺さらない。
「ちっ。くそ、手が震える。」
カチ、ガチン、ガチャ
やっと鍵穴に鍵が刺さり、そのまま特別監房室の扉を開ける。
より一層、心臓が大きく跳ねた。
扉の先にはあの男、藤谷星一がいた。
その姿を目にした瞬間、今まで自分が感じていた感情の正体が分かった。
恐怖ではなかった。
これは、歓喜だ。
「藤谷星一。」
名前を呼ぶ声はなり替わった刑務官の声だが、喜びを隠しきれず、少し上ずってしまった。
監視室とそう変わらない広さの特別監房室。
その奥で背中を丸めて本を読んでいた藤谷が、声に反応してこちらを見た。
「どうしたんですか、刑務官サン。
いつもは囚人ナンバーで呼ぶのに。
それに食事は先ほど食べましたよ?」
藤谷はいつもと違う刑務官の様子をいぶかしんでいるようだが、中身が私だとはつゆほども思っていないようだ。