準備は密やかに3
「でも、まあ、考えても仕方のないことを考えるのは時間の無駄よ。」
「そりゃそうだな。」
「ただ、魔法を使いたいっていう望みなら叶えてあげられなくもないわよ?」
黒田の目の色が変わる。
コーヒーを置いていたテーブルにぶつかりながら、身を乗り出してきた。
「ど、どうやって?」
「ま、魔法をストックできる魔道具があるのよ。
それを使えば魔力がない人間でも魔法が使えるわ。」
「どんな魔法でもイケるのか?」
「難度の高い魔法は数がストックできないわ。
ファイヤーボールくらいでいいなら、100発くらいかな。」
「その魔道具は、高いのか?どれくらい出せば魔法を込めてもらえる?」
「ぴ、ピンキリだけど、安いものだと100万円くらい、かな。
お世話になってるし、魔法を込めるのにお金は取らないわよ。
というか、落ち着いて。近い。」
黒田はその言葉でハッと我に返り、耳まで真っ赤になる。
「あ、す、すまない。」
乗り出していた体を縮ませるようにシュンとしてしまった。
その姿を見て、つい笑いがこみ上げる。
「ふ、ふふふっ。」
「な、おい、笑うことはないじゃないか。」
「あ、ごめんなさい。
まるで初めて異世界に召喚された時の私を見ているみたいだったから。」
最初の異世界に召喚され、魔法使いという職業を得て、私も黒田のように指導教官に詰め寄って魔法を習った。
あまりに前のめりになりすぎて、他のメンバーに落ち着くよう何度諭されたことか。
「使ってみたい魔法をリストアップしておいて。
魔道具はプレゼントするわ。」
「いや、それはさすがに申し訳ない。」
「いいのよ。笑ってしまったお詫びってことで。」
黒田は暫く考えて、それならと承諾した。