準備は密やかに1
私が日本に戻れたのは、黒田の連絡から一カ月後のことだった。
人に聞かれるとまずい話ばかりなので、防音結界を張った私の部屋で黒田と落ち合った。
黒田に預けていた簡易型アイテムBOXは全て容量一杯になっており、国内拠点の建築も指示通り進み、海外の拠点も土地の確保が済んだとのことだった。
「あなたに頼んで正解だったわ。
きっと私ひとりじゃ無理だったわ。」
「そりゃよかった。」
ニカッと笑う黒田の笑顔の破壊力にもちょびっとだけ慣れてきた。
「あの分厚い計画書通り、ありとあらゆる物資を調達中だ。
とはいえ、完全に時間停止するアイテムBOXじゃなかったから、まずは主に腐ったり
しない日用品を集めた。
あ、安心しろ。
チョコレートだけは計画書通りに集めている。」
そう言って預けていた簡易型アイテムBOXを取り出した。
「ありがとう。
とりあえず私のアイテムBOXに移すわね。」
簡易型アイテムBOXを下に向け、重力に従ってあらゆる物資が落下し、空中で消える。
「異世界召喚ボーナスのアイテムBOXは、容量の制限もなくて、時間も完全に停止する
んだろ?
ラノベなんかを読んでるときはあまり気にしなかったが、そのスキルだけでかなりのチ
ートだな。」
「そうね。
物流に大革命というか、大打撃を与えることもできるし、悪用すれば盗み放題、武器持
ち込み放題、証拠隠滅し放題よ。」
「だよなぁ。」
「魔王軍との戦いにも大いに役立ったわ。
ポーションを即時に取り出すことができるし、兵站は気にしなくていいし、水や土なん
かを大量にストックして、いざという時の防壁にしたりしていたわね。」
「どんなスキルも使い方次第ってやつか。」
「どうしたのいきなり?
もしかして魔法を使ってみたくなったとか?」
どうやら図星だったようだ。
「まあ、な。
簡易型アイテムBOXや通信用魔道具なんてものを間近に見て、使っちまったせいだ
な。
あと、1年後の侵攻を女神とやらが本気で防ぎたいなら、地球人全員に何かしら魔法が
使えるような祝福を与えてくれてもいいじゃねえかって思ってな。」