私が世界を救わない理由3
私は背後からナイフを突き尽きられたまま、自宅に戻らざるを得なかった。
「た、ただいま。」
「おかえりー。遅かったじゃない・・だ、誰!?」
玄関まで迎えに来てくれた母が、私の背後に立っていた男を見て驚きの声を上げた。
「こんばんは。
コレ、何か分かるよね?
娘さんを傷つけてほしくなかったら、騒がないでね。」
男は背中に突き付けていたナイフをゆっくりと私の首元に移動させ、母を脅した。
目の前で娘が人質に取られ、命の危険にさらされている状況に、母の顔色が一気に真っ青になった。
「わ、わかりました。」
「ありがとう。娘さんもお母さんも物分かりが良くて助かりますね。
さて、お母さん、この家には他に誰がいますか?」
「夫と息子です。」
「お二人はリビングですか?」
「・・そうです。」
「では案内していただきましょう。
分かってらっしゃると思いますが、下手なことをすれば娘さんの奇麗な首に傷がつきますよ。」
ピタリと首にナイフが触れた。
冷たい金属が首にあたる感触。
流れ込んでくる悪意。
それまでなんとか耐えていたが、限界がきた。
「うう、あああ、お、お母さん、助けて・・」
恐怖と申し訳なさと不甲斐なさから、涙があふれて止まらなかった。
「夫にも、息子にも何もさせません。
ですからお願いします。ナイフをその子の首から話してくださいっ。」
震えた母の声。
必死な訴えに、見えなかったけれど、男が笑った、そんな気がした。